ゼロエミッション時代の商用車部品事業

商用車のゼロエミッション化と部品サプライヤーがとるべきアクション

これからの商用車は、社会の変化および物流産業の変化を踏まえ、「ゼロエミッション化」と「物流産業が抱えるその他の課題の解決」をあわせて実現しなくてはなりません。商用車部品サプライヤーは、そのための部品の変化および要件の変化に早急に対応する必要があります。

脱炭素(カーボンニュートラル)を含む「温室効果ガス排出量ネットゼロ」は全ての産業が達成しなくてはならない目標であり、物流産業も例外ではありません。それに加えて物流産業は「物流需要の増加・高度化」「少子高齢化にともなうドライバー不足」「残業上限規制導入にともなう物流キャパシティ減少(適正化)」などの課題にも直面しており、解決策を必要としています。

これらの課題を解決するためには、商用車が「ゼロエミッション」であると同時に無駄のないシームレスな物流を実現する「ソフト/ハードの両面で物流にインテグレートされたデバイス」になり、高効率な物流を実現する必要があります。ゼロエミッションについては、商用車は環境性能・オペレーション性能・経済性など多くの要件を求められるため、「一律の電動化(BET化)ではなく、複数のパワートレインタイプが用途に応じて併存する」ことが現実解になるでしょう。

大きく変わる商用車においてサプライヤーが勝ち残るためには、市場の変化を先読みした商品戦略・販売戦略を今すぐ策定し、今後のポジショニングを考え、OEMやキープレイヤーとどのようなクルマづくりをしていくのか議論することが肝要です。また、部品サプライヤーもライフサイクルでゼロエミッションな部品を実現すべく、モノづくりの変革に取り組まなくてはなりません。なお、商用車のゼロエミッション化は乗用車以上に時間を要するため、サプライヤーは「長期のトランジションプラン」を策定して実行していくことが、勝ち残るための要諦となります。

本レポートでは、特に「トラックのパワートレインの変化」を中心に商用車のゼロエミッション化について概観した後、「部品サプライヤーがとるべきアクション」を概説します。

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商用車業界の脱炭素の必要性

脱炭素は全世界的な課題であり、不可逆なトレンドです。商用車についてもゼロエミッションに向けた規制や目標が世界各地で設定・強化される傾向にあります。日本においてもCO2排出量の約2割は運輸部門が占め、そのうち約4割を商用車が排出しています。よって商用車関連企業は「ライフサイクルでゼロエミッションの製品」を実現する必要があります。

一方、物流業界は「物流需要の増加・高度化」「少子高齢化にともなうドライバー不足」などにも直面しており、物流の高効率化も避けられない課題です。

そのため今後の商用車は、「ゼロエミッション」であると同時に「ソフト/ハードの両面で無駄のないシームレスな物流を実現するデバイス」に進化しなければなりません。

これからの商用車に 求められる対応

脱炭素実現の手段とその課題

商用車には環境性能や経済性(TCO)だけではなく、耐久性・積載性・燃料充填時間など、オペレーション面のシビアな要件も求められます。それらの要件を全て満たすパワートレイン×動力源は現時点で存在せず、それぞれに普及課題を抱えています。

現状の開発進度やインフラ整備状況などを踏まえると、BET(バッテリー式電動商用車)やFCET(燃料電池式電動商用車)が今後の主流になると予想されます。

このうち水素は電解・輸送・貯蔵などのコストがかかるため、電気をそのままバッテリーとモーターで使うBETの方がエネルギー効率が高くなります。ただしBETも出力・航続距離の点で弱みがあります。

よって、小型・短距離はBET、中距離輸送はFCETといったように、「エネルギー効率」「エネルギー密度」「インフラ設置容易さ」「パワートレイン特性」などの要素を勘案し、各用途に最適な商用車を選定する必要があります。

動力源の特性と 適合する用途

商用車の用途を踏まえた脱炭素の「現実解」

先行する欧州市場では、「規制」「インフラ」「経済性」「顧客とマーケット」の4つの要素により、ゼロエミッショントラックへの関心が今後さらに高まると予想されます。中でも電動化が最も困難な一方で道路輸送のCO2排出量に大きな影響を与える長距離輸送用「大型トラック」を、2030年までにゼロエミッションとする優先目標を欧州は掲げています。

日本では、長距離用の大型にFCETが適合するほか、高頻度・冷蔵・24時間稼働等の要件を伴うコンビニ輸送用の小型でもFCETが普及する可能性があります。実際、日本の主要商用車OEM3社は、小型はBET、大型はFCETをメインに取り組みつつ、小型FCET等も検討しています。一方、物流会社はすでに短距離・都市配送で小型BETの採用を進めています。こうした状況を踏まえると、大型メインの長距離はFCET、中距離は複数パワートレイン並存、短距離は中小型BETを中心に一部高稼働領域でFCETという棲み分けが、日本における現実解と想定されます。

なお、国によって規制やエネルギー事情などの違いがあるため、パワートレインミックスの内容および変化の時期は国ごとに変わりえますが、大きな方向性は共通すると考えられます。

将来的なパワートレインの 棲み分けイメージ

部品サプライヤーがとるべきアクション

以上の商用車の変化に対して部品サプライヤーは、「求められる部品の変化」「顧客の部品調達の変化」「捕捉すべき顧客の変化」「求められるモノづくりの変化」の4つに対応しなければなりません。そのためには、今後残る部品の開発や新たな顧客の捕捉といった「商品戦略・販売戦略の見直し」と、ライフサイクルでゼロエミッションを達成する「モノづくりの変革」に取り組む必要があります。これらは、先手を取れれば商機になる一方、後手に回れば企業の存続を脅かす要因になるでしょう。

これらを理解したうえで、商用車のゼロエミッション化は乗用車以上に時間を要するため、今後の商品戦略等を策定のうえ、長期のトランジションプランを策定し、実行することが肝要です。

ロングタームの トランジションプランの必要性

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赤路 陽太

赤路 陽太

ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

室井 浩気

室井 浩気

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