6つの価値観セグメントで読み解く日本の化粧品市場

6つの価値観セグメントで読み解く日本の化粧品市場
  • 2025-12-18

はじめに

日本の化粧品市場を有望視して参入を検討する消費財メーカーが増えています。

理由は大きく3つ挙げられます。まず、世界3位の市場規模を有し、2029年にかけて3兆円にまで成長が見込まれること。次に、卸や小売を挟まないD2C(ダイレクト・トゥー・コンシューマー)で消費者に直接アクセスできるほか、OEM(オリジナル・イクイップメント・マニュファクチャリング)やODM(オリジナル・デザイン・マニュファクチャリング)の活用により商品を投入できる参入障壁の低さ。もう1つはブランディングやメッセージ性といった情緒的な価値を織り交ぜることで、少量であっても一定以上の価格設定ができるなど利益率が高いことです。

Strategy&では、日本の化粧品ユーザーを対象とした大規模な調査から浮かび上がった消費者の価値観を6つに分類しました。それぞれの価値観を持つユーザー層のボリュームが2014年から現在にかけてどう変化し、この先10年後にはどのような変遷をたどるのかも予測。価値観セグメントごとに採用するべき施策を明らかにしています。本レポートが新規参入の手がかりや既存戦略の深化の一助になれば幸いです。

1. 2029年に3兆円、成長する日本の化粧品市場

各国における化粧品の市場規模と年平均成長率(CAGR)を表したものが図表1です。横軸は2024年の国別市場規模で、米国と中国が突出するものの日本は約2.6兆円で3番手につけています。縦軸は2024年から2029年までのCAGRで、成熟している日本の市場は約3.5%ですが、主要3市場の中では米国や中国よりも高く、結果として3兆円規模に拡大していくと見込まれています。

図表1:世界各国の化粧品市場規模と年平均成長率

2. 日本の化粧品購入者の価値観を6つに大別

では、拡大する日本市場の消費者は、どのような価値観に基づいて化粧品(スキンケア商品)を購入しているのでしょうか。15~69歳の女性2万5,000人超を観測・記録した2014年版と2024年版のパネルデータを基に、Strategy&が独自の定量分析を行い、6つの価値観に消費者を分類しました。

なお、調査の質問項目は化粧品購買に関するものだけではありません。「人よりも、ワンランク上の生活がしたい」「自分らしさにこだわりたい」「家族との時間を大切にしたい」といった、生活スタイルや価値観に関する設問も多く含んでいます。そうした問いへの回答も踏まえて浮かび上がってきた6つのペルソナを、図表2にまとめました。

図表2:2万5,000人への調査から浮かんだ6つの価値観と定義

例えば「ブランド志向層」は、他の人よりもワンランク上の生活を望んでおり、著名かつ高級なブランドの化粧品にお金を惜しまず投資できる人たちを指します。周囲から若々しく思われたいと考えている「美容オタク層」は、化粧品にとどまらず美容医療やアンチエイジングも含めた美容全般への高い探求心を持っています。一方、働く女性の増加に伴って存在感が高まってきたのが「時短重視層」です。仕事や育児が忙しいことから選択から購買、実際の使用に至るまでシンプルかつタイムパフォーマンスがよい商品を好みます。

3. 6つの価値観の消費者的特徴:市場規模、化粧品の予算、年代、購買行動

6つの価値観セグメントは実際の消費において、どのような特徴を持っているのでしょうか。それを端的に示したものが図表3です。円の大きさがセグメントごとの化粧品の購買規模(市場規模)、横軸が年間で自由にできる金額(小遣い)、縦軸が小遣いに占める化粧品の割合を示しています。セグメントごとにばらつきが大きいことがわかります。

図表3:価値観セグメント別の市場規模および化粧品支出

年間の小遣いが比較的多く、小遣いに占める化粧品の割合も高い「ブランド志向層」の市場規模は最多の5,500億円でした。これに対して小遣いが最も少ない「時短重視層」が、5,100億円と次点につけています。働く女性が増えたことでセグメントのボリュームが大きいことが伺えます。美容全般に高い関心を持っている「美容オタク層」は小遣いが最も多いにも関わらず市場規模は4,000億円でした。要因としては美容医療など化粧品以外のものに支出している可能性が考えられます。

このほか、「ビギナー層」は年間の小遣いが2番目に少ないものの、小遣いに占める化粧品の割合は3割超と突出していました。市場規模は3,500億円と最も小さいですが、他の支出を差し置いて化粧品にお金を投じる積極姿勢が透けて見えます。

図表4は価値観セグメント別の年齢分布を示しています。例えば「ビギナー層」は15歳~29歳の割合が計32%、「トレンド追随層」は計26%と若い世代が目立ちます。これに対して「ナチュラル志向層」と「時短重視層」は、50代以上が半数を占めました。

図表4:価値観セグメント別の年代分布

4. 価値観セグメントの構成比変化(2014年~2024年)

価値観は時代によって変遷するため、6つのセグメントの構成比にも移り変わりが生じます。過去10年でのセグメント間の変遷状況を図表5、図表6にまとめました。価値観セグメントを分類するための調査対象約2万5,000人のうち、過去10年間で継続してデータを取得できた約1万人から算出しています。

図表5:2014年から2024年の価値観セグメント間の推移

縦軸に2014年時点のセグメント、横軸に2024年時点のセグメントを取り、この10年間で移動・残留した比率を表しています。例えば2014年時点で「ブランド志向層」だった人は、2024年時点でも36%が同じ層にとどまり続けた一方、「美容オタク層」と「時短重視層」に15%ずつ移動したことを示しています。

注目するべきは「時短重視層」が46%、「ナチュラル志向層」が42%、「ブランド志向層」が36%という残留率の高さです。いずれも自分の信念や考えに基づいて化粧品を購入していると見られ、流行やトレンドには流されずに価値観を維持し続けている様子が浮かび上がります。

これに対して2014年に「ビギナー層」だった人の残留率は19%と低くなりました。経験や情報を蓄積して自分なりの嗜好が形作られるのに伴い、「時短重視層」や「ブランド志向層」に流入した結果と考えられます。

図表6にある「リピート購入率」は、セグメントごとに同じ製品を繰り返し購入している比率を示しています。比較的高いのが27%の「ブランド志向層」と26%の「ナチュラル志向層」でした。特定のブランドを気に入ったり、無添加・無香料といった製品の特徴と自分の価値観が合致したりした場合は、ある程度決まったものを買い続けるという傾向が見えます。

図表6:2014年から2024年の価値観セグメント別の同一商品リピート購入の割合

2014年~2024年の過去10年で、価値観セグメントの割合がどのように推移したのかまとめたものが図表7です。「ブランド志向層」(10.8%⇒16.6%)、「時短重視層」(15.4%⇒22.4%)の拡大が目立った一方、「ビギナー層」(17.6%⇒12.5%)、「その他層」(17.3%⇒6.5%)は縮小しました。

図表7:2014年から2024年の価値観セグメントの構成比変化

図表8のように、各セグメントが変動した要因をより詳細に分析すると、母数と経済力の掛け合わせで算出する「人口動態」、「情報チャネル」、「購買チャネル」の3つが主な要因と考えられます。

過去10年における女性の就業率向上や経済力の増加によって「時短重視層」が拡大したほか、「ブランド志向層」の購買力も高まったことが推測されます。

図表8:各セグメントの変動に影響したマクロトレンドの分析

スマートフォンの普及による情報チャネルの増加や購買チャネルの多様化も、各セグメントの増減につながりました。例えば自分の生活や購入した商品の見栄え(映え)の良さをSNSで発信するトレンドが生まれたほか、ブランド製品をECサイトやドラッグストアでも買えるようになったことで「ブランド志向層」が拡大したと見られます。

他方、化粧品を含む美容関連の情報に誰でも簡単にアクセスしやすくなったことで「ビギナー層」が早期に育ち、他のセグメントに移行しやすくなった様子もうかがえました。

5. 価値観セグメントの構成比変化予測(2024年~2034年)

それでは2034年にかけて各価値観セグメントのボリュームはどのように変化するのでしょうか。過去10年で起きたマクロトレンド(情報・購買チャネルの多様化、女性の所得向上)は今後も継続が見込まれることから、引き続き「ブランド志向層」と「トレンド追随層」は拡大しそうです。高齢化の進行に加え、ライトな美容医療を含む新たな美容技術やサービスの拡大により「美容オタク層」も成長するでしょう。一方、少子化や化粧習熟速度の加速によって、「ビギナー層」はより一層の縮小が見込まれます(図表9)。

図表9:2024年から2034年における価値観セグメントの構成比の変化

詳しい変動の要因を図表10にまとめました。前提としてマクロトレンドは過去10年と大きな変化がなく、女性の就業率がより100%に近付くことで、「時短重視層」は次の10年で高止まりになると予想します。また、デジタル化のさらなる進展により、情報収集から購買までのさまざまなタッチポイントにおいてパーソナライゼーションが加速するでしょう。こうした流れがトレンドの在り方や興亡、商品の展開、購買動態に大きな影響を与えそうです。

図表10:各層の変動に影響を及ぼすマクロトレンドの将来動向

6. セグメントごとに異なる、訴求すべき価値とアプローチ

ここまでの分析を踏まえ、日本の化粧品市場で今後注力すべき領域を検討するための指標を4つに整理しました。化粧品の効果にあたる「機能性」を縦軸、世界観やイメージといった「情緒性」を横軸として、6つの価値観セグメントがどの領域に当てはまりやすいのかを表しています(図表11)。

図表11:化粧品事業における4領域と各価値観の立ち位置

実際は複数の領域にまたがって価値を提供するブランドが数多く存在し、多種多様に細分化された商品によって市場は構成されています。そうした中でも、機能面・ブランド面の両方で強く差別化されて右上の「ブランド確立」の領域に近づくほど、顧客のLTV(ライフタイムバリュー/顧客生涯価値)は高まります。ただし、R&Dやブランドエクイティ構築への投資が欠かせません。

化粧品事業への参入を検討する企業は、自社の資産やケイパビリティを踏まえて、どの領域であれば参入が可能か、将来的にはどの領域で事業を拡大していくかなどの検討をする際に図表11を活用してください。既存事業者が今後強化するべき領域や狙いたい価値観セグメントはどれかを議論する際にも役立つはずです。戦略によっては「ビギナー層」をうまく取り込む「エントリー段階」の領域で、事業を展開・深化することもできるでしょう。

7. セグメントごとに異なる、購入意思決定ポイント

最後に、価値観セグメントごとのカスタマージャーニーの特徴と、取るべき施策の方向性について提示します。

例えば「ブランド志向層」の場合、作りこんだ商品の世界観やイメージなどを認知して深く理解することが購入を決定づける要素になります。これに対して「時短重視層」は、使い勝手と商品機能のバランス、継続して購入・利用しやすいかといった利便性を重視しがちです。つまり、引きつけるポイントが購入前、購入後に分かれているということです。

このようにカスタマージャーニーのどの段階が購買意欲に強い影響を与えるかは、価値観セグメントごとに異なります。図表12ではそれぞれの代表的なカスタマージャーニーを「認知・興味」から「購入後」まで並べました。セグメントごとに購買意欲に強く作用するステップを、ハイライトしています。

図表12:各セグメント別のカスタマージャーニーと取るべき施策

図表の右側にはそれぞれのジャーニーを踏まえたうえで、取るべき施策をまとめました。例えば、使い勝手と効果のバランスへの感度が高い「時短重視層」の場合は、SKU(ストック・キーピング・ユニット)の絞り込みで商品選択に迷わずに済み、少ないステップで効果が出るといった要素が有効です。

おわりに

日本の化粧品市場は規模と成長性の観点から魅力的ですが、消費者の嗜好や価値観は成熟しています。嗜好の方向性は大きく変わらないとみられるものの、デジタル化や高齢化、サステナビリティ意識の浸透といったマクロトレンドの影響によって、ゆるやかに変容する可能性があります。

今後化粧品市場で競争力を持って事業を展開していくには、狙うべき消費者の価値観セグメントを常に分析しつつ、自社の提供価値やポジショニングを明確にする姿勢が一層求められるでしょう。

「美容」という概念は化粧品以外にも拡大していく傾向にあり、医療や食品、家電などさまざまな領域に浸透してきています。そうした広がりを踏まえ、どのように価値観セグメントにアプローチし、事業を見直していくべきかについて、今後の考察で示唆を提供します。

6つの価値観セグメントで読み解く日本の化粧品市場

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菅原 聖史

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ディレクター, PwCコンサルティング合同会社

村田 瑞香

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