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第2次トランプ政権による関税の引き上げが世界経済に大きな衝撃と混乱を生んでいます。幅広い対象の中でも特に自動車や鉄鋼が標的にされていると見られ、日本や韓国、ドイツなどへの影響は無視できません。国別で見ると日本の場合は自動車1台あたりの追加関税額が7,500米ドルに上る計算です。各国のせめぎ合いは続いており着地点はまだ見通せませんが、完成車・自動車部品・鉄鋼への追加関税、ならびに自動車部品への関税緩和措置など政策が一通り出そろったことから、各国OEM(自動車メーカー)が受ける影響と、日本のOEMが取るべき戦略の方向性をまとめました。
※本レポートは2025年5月3日時点の情報に基づいた考察です
【図表1】
日本、韓国、ドイツからの輸出では、車、部品、鉄鋼に25%の関税がかかる。カナダやメキシコからUSMCA適用品として輸出した場合は影響が小さい
1)米連邦政府・商務省が米国国土安全保障省税関・国境警備局と別途定める米原産地規則に基づき、米原産部品コストおよび米国内で完全または実質的に製造・加工された付加価値分に対して追加関税が免除
2)メーカー希望小売価格
出所:ホワイトハウス公式ウェブサイト、https://www.whitehouse.gov/(2025年5月3日閲覧)
まず各国に課されている追加関税の現状を概観します。主に自動車業界が影響を受けるのは、完成車、自動車部品、鉄鋼・アルミの3つです(図表1)。日本、韓国、ドイツは完成車、部品、鉄鋼に25%の追加関税が課されています。自動車部品に対しては2年間のみ一部追加関税の賦課を免除する措置も取られました。中国も適用状況は同じですが、税率は45%とほぼ2倍近くに設定されています。米国で生産する場合は関税がかからず、さらに、カナダやメキシコから「USMCA(米国・メキシコ・カナダ協定)」として輸出する場合は関税の影響が小さいため、米国やUSMCA地域内での生産比率が関税コストに大きく影響を及ぼします。
【図表2】
完成車の関税影響は、輸出台数と総額では日本と韓国への影響が大きく、1台当たりの額ではドイツへの影響が大きい
1)HTSコード8703.21~8703.80のうち中古車両・特殊車両を除く全品目を完成車輸出総額の算定対象とし、2024年実績に基づきStrategy&分析
2)USMCA適用率はカナダ:98.8%、メキシコ:92.6%とし、USMCA適用時の米原産コンテンツ比率を60%と仮定
出所:IHS Automotive / S&P Global Mobility Sales and Production Data、USITC DataWebを基にStrategy&分析
図表2では主要生産国から米国への完成車輸出の状況をまとめています。日本のOEMは日本から米国への輸出台数が133万台に上り、追加関税額は99億米ドル、1台あたり7,500米ドルの上乗せが見込まれます。ほぼ同等の140万台を本国から輸出している韓国OEMも、1台あたりの上乗せ額は6,600米ドル程度と見られます。これに対して、ドイツからの輸出は44万台ですが高価格帯の車の輸出が響き、1台あたりの上乗せ額が1万4,200米ドルに達します。また、関税率が高く設定されている中国も同1万5,600米ドルとなる見込みです。
【図表3】
自動車部品の関税影響は日本、韓国、ドイツで30~40億ドル。米国生産台数の少ない韓国・ドイツへの影響が大きい
1)米232条自動車関税にて指定された全品目のうち、中古空気タイヤ類(HTSコード:4012)およびトレーラー/セミトレーラー部品(HTSコード:8716)を除く全自動車部品HTSコードの2024年実績に基づきStrategy&分析
2)USMCA適用率を90%と仮定
3)各国自動車OEMは、自国より輸入した自動車部品を米国内向け生産にて使用すると仮定
出所:IHS Automotive / S&P Global Mobility Sales and Production Data、USITC DataWeb、National Archives ”Adjusting Imports of Automobiles and Automobile Parts Into the United States”
図表3では米国への自動車部品の輸出にかかる追加関税の額をまとめました。5月3日に発動された追加関税の影響額として、日本は40億米ドル、韓国は34億米ドル、ドイツは29億米ドルが見込まれます。相対的に日本は高く見えますが、各国の米国への輸出部品は自国OEMが米国で現地生産する場合に使用する割合が高い傾向にあり、仮に各国OEMの米国での現地生産台数で単純計算すれば、1台あたりの追加関税額は日本が1,360米ドルと最も安く、現地生産台数の少ないドイツと韓国は約6,000米ドルと割高になります。またメキシコについては米国への輸出量は1,240億米ドルであり、最大の部品輸出国になっているにもかかわらず、USMCAの恩恵を受け、関税総額は相対的に低く抑えられています。
【図表4】
ロール鋼板は、輸出量の多い韓国・ドイツの主要販売先である両国OEMのコストが大幅に増える見込み。カナダからの輸出量も多い
1)HTSコード7208~7212 / 7219~7220 / 7225の2024年実績を鉄鋼輸出総額とし、同HTSコードにて対米輸出された鉄鋼全てを自動車用途と仮定しStrategy&分析
2)各国自動車OEMは、自国より輸入した鉄鋼製品を米国内向け生産にて使用すると仮定
出所:IHS Automotive、S&P Global Mobility Sales and Production Data、USITC DataWebを基にStrategy&分析
鉄鋼(ロール鋼板)の輸出に対して、各国にかかる追加関税の状況を示したのが図表4です。まず、日本(輸出量36万トン)よりも韓国(輸出量136万トン)やドイツ(輸出量55万トン)からの輸出量が多く、日本の方が鉄鋼において米国での現地生産化が進んでいると見られます。自動車部品と同様に各国の輸出鉄鋼は、自国OEMが米国で現地生産する場合に使用する割合が高い傾向にあります。仮に各国OEMの米国での現地生産台数で単純計算すれば、米国で生産している車への1台あたりの上乗せ分は韓国が642米ドル、ドイツも1台あたり467米ドルとなり、日本のOEMよりも影響が大きいと見られます。また、25%の関税がかかるカナダやメキシコからの鉄鋼は、輸出量が多く米国OEMも使用しているため、世界中のさまざまなOEMが関税の影響を受けると考えられます。
【図表5】
地域別生産比率により追加関税の影響に大きな差。米国・USMCA域内比率の低い韓国・ドイツへの影響は多大だが、米国は総じて小さい
出所:IHS Automotive / S&P Global Mobility Sales and Production Data、USITC DataWeb、米国運輸省NHTSA 「Part 583 AALA Reports 2025」を基にStrategy&分析
図表5では完成車輸出ベースで各国OEMの地域別生産/輸出台数の状況と結果的にどの程度の関税影響を受けるのかをまとめています。米国およびUSMCA域内での生産比率や米原産コンテンツ率が高いほど関税の影響は小さくなり、結果として米国OEMの関税影響が小さいのに対して、ドイツや韓国のOEMが受ける影響は大きいことが分かります。以前から米国での生産比率を高めていた日本OEMはドイツや韓国のOEMよりも有利で、米国とも戦える位置にいると言えます。しかしながらOEM別では関税影響のばらつきがあり、北米での生産比率が高い企業と低い企業で異なる対応を迫られます。
【図表6】
米国生産車への部品関税は控除額を考えても各国OEMに影響があり、最もUSMCA域内部品を使用している米国OEMへの課税率が一番低い
1) NHTSA 「Part 583 AALA Reports 2025」を基にStrategy&分析
2)部品原価をMSRPの50%と仮定
3)全OEM一律にて、USMCA適用率を80%として算定
4)全OEM一律にて、USMCA適用部品に占める鉄・アルミ部品比率を13%として算定
5)MSRPの15%を上限に関税賦課を免除
出所:IHS Automotive、米国運輸省NHTSA 「Part 583 AALA Reports 2025」を基にStrategy&分析
図表6では米国生産車両への部品関税影響を、地域別部品調達構成と関税控除を加味したうえで各国OEM別に試算しています。部品関税は米国産部品の使用率をあげる、またはUSMCA適用を受けたうえで、メキシコ・カナダから部品を輸入することで抑えられる仕組みです。各国OEMの部品調達地域構成を見ると、米国産部品を最も多く使っているのは日本OEMですが、メキシコ・カナダ地域まで含めた調達比率では米国OEMが一番高く、関税影響が少ないことが分かります。ただし米国OEMであっても自国外の部品に依存し、部品関税の影響が避けられない点は注目すべきでしょう。また、非米国産部品に対する税控除が2年間限定で講じられましたが、各国OEMとも相当な比率の非米国産部品を使用しているため全額控除は不可能な見通しです。
【図表7】
追加関税は各国OEMに影響を与えるが、影響度合いには差があり、米国、日本、ドイツ・韓国の順で大きくなる
出所:IHS Automotive / S&P Global Mobility Sales and Production Data、USITC DataWebを基にStrategy&分析
図表7では各国OEMへの影響を、完成車だけでなく部品や鉄鋼まで全体としてまとめています。結果は完成車と変わらず、有利なのは米国、日本、ドイツ・韓国の順番であることが分かります。米国OEMはUSMCA域内生産比率が93%に達しており、部品や素材の域内調達比率も高いため関税の影響が最も軽微です。域内比率が80%に達する日本OEMも、現地で生産される鉄鋼利用の伸展が見込まれるため、影響は比較的軽微にとどまると言えそうです。
域内比率が低いドイツや韓国OEMは高価格帯の自動車が多いほか、本国で生産している自動車部品や鉄鋼の使用量が相対的に多いため、日米OEMに比べて追加関税の影響は大きくなるでしょう。
【図表8】
日系OEMが取り組むべき追加関税への対応と2次影響への備え
最後に、現段階で予測しうる日本OEMへの関税の影響と対応を、図表8にまとめました。まず関税政策は米国OEMに有利な形で働いているため、長期化も覚悟し腰を据えて対応を考える必要があるだけでなく、2次的影響まで見据えるべきでしょう。
追加関税への対応は、短期対応と長期対応に分かれます。短期的には、投資のかからない範囲で生産を調整していくこと、サプライチェーンの影響を迅速に把握し現状の関税影響が最小限に食い止められるようにリバランスしていくこと、販売においては攻守双方を見据えて機種別で価格を調整していくことなどが挙げられます。
長期的には、2026年から開始されるUSMCAの見直し協議(域内で生産された部品比率のさらなる引き上げや基準の厳格化の進行)を軸にシナリオを立て、生産やサプライチェーン構造の再定義を検討していくことが重要です。米国外の市場への波及や米国経済の減速、報復関税の影響などといった2次的影響への対応も求められるでしょう。
トランプ2.0関税によって世界中の自動車関連企業が影響を受けますが、その影響度は国・地域、企業によって異なり、同じ国・地域の中でも競争は続いていきます。日本OEMをまとめて俯瞰すると韓国・ドイツ勢よりも有利な立場にあり、米国OEMにも大きな差はつけられていないと言えるでしょうが、より細かく見ていくと影響が大きい場合もあります。企業は冷静に自社の状況を把握し、今後の動向を見据え、次の一手を打ち出していくことが重要です。