デジタルイノベーション戦略ガイド:モデルと意識を変革し、スケールアップを図る

2019-12-25

エグゼクティブサマリー

多数の企業がデジタルイノベーションを重要事項だと認識しているが、十分な成果を得られていないことが明らかになった。

ドイツ、スイス、オーストリア(後に米国、日本、オランダも追加調査)で活動する企業のCIO(Chief Information Officer:最高情報責任者)とCDO(Chief Digital Officer:最高デジタル責任者)50名を対象とした最近の調査で、「デジタルイニシアチブ」から得られた売上高がグループ全体の売上高の5%を超えている企業は回答者のわずか10%にすぎないことがわかった。

その大きな理由のーつとして、デジタルイニシアチブからの売り上げを増やすためにデジタル部門を設置した企業が、組織的な面を含め、デジタル部門を最大限に活用できていないことが挙げられる。

例えば、社内にデジタル部門を設置し、多くのアイデアが同部門から創出されていたにもかかわらず、それを実際に製品化できた企業はわずか8%にとどまっていた。

全体的な傾向として、多くの企業は成長実現を目指すものの、イノベーションプロジェクトを十分にスケールアップできず、MVP(Minimal Viable Product:実用最小限の製品)さえ適切に展開できずにいる。多くの企業が「スケールアップ行き詰まり状態」に陥っているのである。その典型的な問題として挙げられるのが、レガシービジネスとの統合不全、事業間のカニバリゼーション(自社商品同士の共食い)の懸念による自主的判断の欠如、事業拡大に適した人材の集約不全などである。

イノベーションの実現に向けて、研究開発費へ過度に投資している傾向も見られる。デジタルイノベーションを成功に導くためには、企業リーダーはイノベーション戦略と全体的なビジョンの整合を図る必要があるが、その認識が不足している。

私たちは、これらの問題のほとんどは、適切なデジタル部門の位置づけを適切に行うことで解決できると考えている。具体的には、デジタル部門を事業の中核から引き離して設置することである。その理由は以下のとおりである。

デジタルイノベーション:これまでの実績

企業は投資を行い、精力的にデジタルイノベーションを実践している。その投資は、今後5年から7年のうちに社会に与えるインパクトとビジネス上の実現可能性をもとにPwCが定義した8つの先端テクノロジー(Essential Eight)に対して行われるケースが多い。

8つの先端テクノロジーとは、今後あらゆる組織が導入を検討すべきべきであるとPwCが考える「技術構成要素」である。具体的には、人工知能(AI)、拡張現実(AR)、仮想現実(VR)、ブロックチェーン、ドローン、IoT(Internet of Things)、ロボティクス、3Dプリンターの8つである。

2018年、デジタルテクノロジーの新規事業買収に世界全体で790億ドルが投じられた。5年前と比較すると約9倍以上である。そして各企業ではデジタル部門の新設も進められ、ドイツ、スイス、オーストリアの主な大手上場企業だけでも、デジタル部門を新設した数は100を超えており、2020年までには少なくとも300社に達すると予想されている。

しかし、最近のデジタルエグゼクティブ調査によると、デジタル部門からの売り上げの割合がグループ全体の5%を超えている企業の数はわずか10%であった。調査に応じた企業の40%が、デジタルイノベーションは重大な影響をもたらしていないと回答した。

つまり、企業はさまざまな新しいアイデア、ビジネスモデル、技術のプロトタイプなどは創出できているものの、多くの企業が自社の成功に導くようなスケールにまでそれらを拡張できていないのである。

デジタル部門とは一体何か?

次に、デジタルイノベーションの担い手としてしばしば語られるデジタル部門について詳しく見てみよう。典型的なデジタル部門は、別会社(リングフェンス)として運営されており、独自のガバナンスや予算だけでなく文化さえも備えた組織となっている。近年では電子、航空輸送、エンジニアリングなど幅広い業界で一般的となっており、特に大企業では幅広く活用されており、デジタルラボラトリーと呼ばれることもある。

多くの企業のデジタル部門は、イノベーションプロセスのアイディエーションとプロトタイピングにのみ注力している。そしてほとんどの企業の事業部門やIT部門は、創出されたデジタルイノベーションを自分たちでスケールアップできずにいる。

その要因として、デジタル部門は業界トレンドに則した才能を持った人材を外部から雇用して構成され、本社からの財務上の縛りがない場合が多いことが挙げられる。このことがかえって新規ビジネスとレガシービジネス間のギャップを生み出すことにつながってしまい、チーム間の連携が取れていない、アイデアが頓挫する、プロトタイプが忘れられるといった問題が多くの企業から持ち上がる結果となっている。

実際に、デジタル部門は多くのアイデアを生み出しているのに、それらが市場製品にスケールアップされたのはこれまでに8%だけである。

ドイツ、スイス、オーストリアにおいて、2020年までにデジタル部門に投資されると見込まれている60億ユーロが無駄になる可能性があると考えられている理由の一端がここにある。この金額は、今後さらにデジタル部門の新設が見込まれるペースを元にして、デジタルエグゼクティブ調査で算出されている各デジタル部門の平均資金額に、主に中小企業(例えばドイツ語圏におけるミッテルシュタンド)が新たに設置すると予測されるデジタル部門の数を掛けて見積もっている。

デジタル部門:成功するために何をすべきか

成功するためには、デジタル部門はしかるべき場所に、適切な目的をもって設置される必要がある。

一般的に、イノベーションはビジネスの中核と密接に、あるいは既存事業とは切り離されて実行される。企業は既存の製品やサービスのために新たなチャネルを設けることもあれば、既存ビジネスとは無関係にまったく新しいサービスを立ち上げることもあるだろう。

ビジネスの中核部分を改革していくということは、その大半の活動が既存の製品やサービス、プロセス、スタッフと緊密に行われることを意味する。こうした取り組みは、対象となる中核ビジネス内部でスケールアップされる必要がある(図表1)。

※CDO Executive Summit(2018年3月スイス・グリンデルヴァルト開催)での調査結果

レポートの続きは、PDFファイルをダウンロードしてご覧いただけます

PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

"A Strategic Guide to Digital Innovation: How to transform and scale up models and mindsets" by Jens Niebuhr, Holger Röder, Jonas Seyfferth, David Eberle, Katrin Schwarz, Bernhard Skritek, March 14, 2019.

{{filterContent.facetedTitle}}

{{contentList.loadingText}}

お問い合わせ先

樋崎 充

樋崎 充

Strategy Consulting Leader, PwCコンサルティング合同会社

神馬 秀貴

神馬 秀貴

パートナー, PwCコンサルティング合同会社

Follow us