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経済産業省が2018年に公表したレポートを受けて、日本企業の間でデジタルトランスフォーメーション(DX)のうねりが一気に広がりました。それから7年。大手企業の間ではDX投資が盛り上がりを見せたのに対し、年商100~1,000億円の中堅企業にはまだ十分に波及していません。中堅企業による年間のIT投資額は計約5兆円と巨大ながらERP製品(パッケージ/SaaS)の導入率は約4割。1件あたりの金額は小規模なものの、あまたの案件が眠る“薄く広い白地”を、SIerはどのように開拓していけばよいでしょうか。中堅IT市場の特性を踏まえた上で、攻め筋を解説します。
中堅企業(年商規模100億~1,000億円)の年間IT投資額*1はおよそ4.8兆円(2024年)*2*3、過去3年間の平均年成長率(CAGR)は12.4%程度*2と急速に拡大しています。
中堅IT市場の特性としては、大手企業の市場と比べて企業の数が多く(約1万3,000社*3)、1社あたりのIT投資予算は限定的(年間1~10億円程度で年商規模の1%未満*2)であることが挙げられます。このため、ポテンシャルとしての市場規模は大きいものの、全体として“薄く広い”構造となっています。
中堅企業全体のITシステム導入状況を見ると、まだ“白地”が大きく、今後の新規導入ポテンシャルが多く残されていることから、今後も成長基調を維持することが予想されます。
例えば、中堅企業におけるERP製品の導入率は約4割で、残りの6割は今後もパッケージ/SaaSの導入が進む余地が大きいことが分かります。また、営業・顧客接点系システムも同様に白地が約6割と広く、パッケージ/SaaSのいずれも普及する余地が大きいと言えるでしょう(図表1)。
業種別に見ると特に建設業、次いで小売業や卸売業の白地が54~57%と他業種に比べて目立ちます。一方、情報通信業はパッケージ導入率こそ平均並みですが、SaaSの採用が進んでおり、白地は相対的に小さくなっています。これらの白地=未開拓領域が、新規導入をけん引し今後も市場を成長軌道に乗せると考えられます(図表2)。
図表1:中堅企業のITシステム導入状況(ソリューション別)
ERP、次いで営業・顧客接点系システムの白地が大きい
1) Business Spend Management(ビジネス支出管理)
2) Electronic Data Interchange(電子データ交換)
3) Marketing Automation(マーケティングオートメーション)
※グラフの数値は、端数調整のためパーセンテージの合計は100にならない場合がある(以降同様)。
出所:Strategy&独自Webアンケート調査(対象者数:中堅企業〈年商100億円以上~1,000億円未満〉のITシステム関連業務従事者2,704名、調査時期:2025/6/13~2025/6/16)
図表2:中堅企業のITシステム導入状況(業種別)
特に建設業・卸売業・小売業で白地が大きい。一方で、情報通信業ではSaaS製品の導入率が高いため全体として白地が小さい
出所:Strategy&独自Webアンケート調査(対象者数:中堅企業〈年商100億円以上~1,000億円未満〉のITシステム関連業務従事者2,704名、調査時期:2025/6/13~2025/6/16)
多くの中堅企業はラインナップが幅広く初期費用の安いSaaSを魅力的に感じており*4、将来的にはSaaSを導入する意向が強いと見受けられます。特に現在はパッケージを利用している企業がSaaSへの切り替えを志向する傾向にあります(図表3)。
ソリューション別に見ると、SaaSへの切り替え・導入意向に全体的な水準の差はありませんが、相対的にはERP・連結会計管理がやや高水準となっています。特にERPにおいては、スクラッチ利用または非導入からSaaSへの切り替えが目立ちました(図表4)。
業種別に見ると、情報通信業・サービス業・金融業はSaaSへの切り替え・導入意向が他業種よりも強い傾向がみてとれます(図表5)。
図表3:中堅企業全体のITシステム導入状況と、今後の継続・切り替え・導入意向
今後はSaaS製品への切り替え・導入が進む傾向
出所:Strategy&独自Webアンケート調査(対象者数:中堅企業〈年商100億円以上~1,000億円未満〉のITシステム関連業務従事者2,704名、調査時期:2025/6/13~2025/6/16)
図表4:中堅企業のITシステム導入意向(ソリューション別)
ERP・連結会計管理はSaaS製品への切り替え・導入意向が相対的に高い。特にERPはスクラッチ利用または非導入からの切り替え・導入が多い
出所:Strategy&独自Webアンケート調査(対象者数:中堅企業〈年商100億円以上~1,000億円未満〉のITシステム関連業務従事者2,704名、調査時期:2025/6/13~2025/6/16)
図表5:中堅企業のITシステム導入意向(業種別)
特に情報通信業・サービス業・金融業でSaaS製品への切り替え・導入傾向が高い
出所:Strategy&独自Webアンケート調査(対象者数:中堅企業〈年商100億円以上~1,000億円未満〉のITシステム関連業務従事者2,704名、調査時期:2025/6/13~2025/6/16)
前章のとおり、中堅IT市場はSaaSへの切り替えを中心に堅調な成長が見込まれるものの、足元のITシステム利用の実態としては課題も多く残されています。
背景として、一部の事業規模の大きい準大手企業(年商1,000億円に近い企業群)を除くと、
といった状況にあり、「あまり多額のお金はかけられないが、専門家に“お任せ”してITシステムを導入・運用したい」というニーズを有しています。
しかしながら、現時点で提供されている従来SIモデル(次章にて詳述)によって上記ニーズを完全に充足することは難しいと言えるでしょう。実情としては下記に示すような課題に直面しており、満足にITシステムを導入・運用できている企業は少ないのが実態です。
特に、SaaSの導入に際しては(第1章で述べたSaaSの導入意向の高さに反して)下記のような課題感を抱いています。
中堅IT市場を攻略するためには、これまでの大企業向けに提供されてきた従来SIモデルから、中堅企業に向けて大きく攻め方を変える必要があるでしょう。
大企業向けの従来SIモデルは、顧客の業務に合わせるべく、既存パッケージにアドオンで追加機能を開発・実装していく手法がいまだ多く見られます。SIer側の目線では、現行業務の棚卸しや要件定義のために多大な期間・工数を必要とする人工(にんく)ビジネスであり、その人件費を高い案件単価で賄う収益構造となっています。
中堅企業に含まれる一部の準大手企業には、従来SIモデルも適用できるでしょう。しかし、中堅IT市場の“白地”の過半を占めるより小規模な企業群は、IT関連の予算規模や人材に限りがあり、ITリテラシーも大手に比べると高いとは言えません。多くの場合において従来SIモデルでの攻略は最善手とならないでしょう。
短期的には準大手企業を中心に中堅IT市場は成長が続くとみられるものの、第1章において期待されている市場成長を中期的に実現していくには、“白地”に属する中堅企業の特性や実態、それらに起因する課題を踏まえた、従来SIモデルからの収益構造シフトが重要です。これには単なるF2S(=Fit to Standard)ではなく、パッケージ/SaaS側の進化もにらんだSI手法の進化が欠かせません。
中堅企業の特性やニーズとSaaSサービスの充実・普及ぶりから、今後は汎用領域に限定したミニマムなコンポーザブルERPを核とし、低コストかつ短期で導入できる業種特化型SaaSを周辺機能として組み合わせる「コンポーザブルERP+SaaS群」が、中堅IT市場で有力な選択肢となる可能性があります。
このように企業規模および業界別・標準構成がパターン化され、パッケージベンダーやSIerから標準モデルとして提案されるようになるのではないでしょうか。なお、この世界観を前提にすると、現状の局所最適なSaaS導入は移行期としてのレガシーになることも想定されます。
現行ERPパッケージも、今後よりミニマム/コンポーザブル型へ移行していく可能性があります。さらに中長期的には、ERP機能がマイクロサービス化され、AIエージェントがプロセス単位で機能を呼び出すアーキテクチャへ移行するかもしれません。そうなれば「ERPパッケージ」という概念は形骸化し、業務プロセスそのものがサービス化される世界も想定されます。
これらの世界観を前提にすると、今後の中堅IT市場の“白地”を取り込むには、SIer自身が従来の工数起点型から脱却し、テンプレート化と高回転を軸にしたモデルへ移行していく必要があります。ミニマムなコンポーザブルERPを中核に、業種特化SaaSをAPIで柔軟に接続した型を提案していくモデルが、中堅企業の限られたIT予算と人員に最も適合するのではないでしょうか。
具体的には、主要業種ごとにリファレンススタック(推奨パッケージ群)をあらかじめ整備し、共通プロセスの多くをパラメーター化したテンプレートとして保持しておきます。この仕組みによって要件定義は差分調整で済み、営業段階でも構成イメージや概算見積もりを早期に示しやすくなるため、案件化までのリードタイムを短縮できるでしょう。
収益面では、テンプレートと共通基盤を前提とした定額モデルなどの新課金形態も選択肢の1つです。複数案件を並行して実装し回転率を高めることで、薄く広い中堅IT市場でも案件単価の下落を抑えつつ収益性を維持しやすくなります。
総じて、中堅IT市場の拡大余地は“薄く広い白地”の存在とSaaS需要の高まりによって裏づけられています。SIerはこの機会を捉えるため、ミニマムなコンポーザブルERPと業種特化SaaSを核としたテンプレート型アプローチへとかじを切り、短期導入・明瞭な価格・高回転を実現する収益モデルを構築していくことが、今後の戦略の要となるでしょう。これにより、限られた予算と人材という中堅企業の制約を解消しつつ、自社の収益性を確保し、未開拓領域を計画的に取り込む道筋が開けるはずです。
*1:IT投資額は、社内コスト(主にIT要員人件費)と社外IT支出(①イニシャルコスト:ハードウェア費、システム開発費(ライセンス料や外部委託費など)と②ハードやソフトウェアのレンタル料や保守料、クラウドやSaaSの利用料、コンサルティングや保守運用などのアウトソーシング費、通信費の合算を目安とし、償却費を除いた支出額)の合計と定義
*2:矢野経済研究所「2024国内企業のIT投資実態と予測」
*3:帝国データバンク「100億円企業の実態調査(2025年)」
*4:中堅企業(年商100億円以上~1,000億円未満)のITシステム関連業務従事者を対象としたStrategy&独自Webアンケート調査(対象者数:2,704、調査時期:2025/6/13~2025/6/16)において、「従来のスクラッチ開発またはパッケージの導入に比べ、初期費用の安いSaaSを魅力的に感じる」「SaaSはラインナップも広く、(従来のパッケージに比べて)自社業務を再現するのに適していると感じる」の各項目に対し、いずれも約7割が「当てはまる」と回答
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