生成AIを活用した製造業の変革

新たな技術の収益化に向けて

製造業の生成AI活用 成果を左右するのはバックオフィスよりコア機能への導入

収益インパクトを意識した「上流」「下流」「推進体制」の改革が急務

本レポートはドイツを中心とする欧州製造業における生成AI導入の幅広いユースケースを分析しています。そこで見えてきたのは、コア機能(設計・開発/営業/製造・物流/アフターサービス)における生成AIの活用は収益性に大きく貢献する一方、バックオフィスの活用では効果が限定的だということでした。私たちが独自に日本企業向けの調査をした際にも、周辺業務の効率化を志向している企業よりも、事業構造を変革するために生成AI活用を推進している企業の方が、期待を上回る効果を出しています。

また、実際に私たちが日本の製造業の生成AI導入を支援するケースでは、現場でのパイロット的な取り組みは行われるものの、売上、粗利率、キャッシュ・コンバージョン・サイクル、顧客のライフタイムバリューなどの結果指標とセットで検討するケースは多くありません。

では、どのような領域で生成AIの活用を進めるべきでしょうか。品質・安全性・信頼性に直結する設計・開発力と、現場や顧客に近い事業部による推進力を強みとする製造業が日本では目立ちます。こうしたことから、私たちは下記の3点を通して、独自の競争ポジションを強化していくことが重要だと考えています。

  1. 上流(設計・開発など)を強くする:コア人材を高付加価値の業務へ
  2. 下流(アフターサービス)を効率化:リソース不足でも現場ノウハウの可視化・標準化によりROIを高める
  3. 推進体制:事業に近い小さなチームを分散配置し、コーポレートはデータ・知見の横展開に貢献する

以下、それぞれの項目を具体的に説明します。

日本の設計・開発・品質現場では、顧客別仕様への対応によるカスタマイズ比率が高い傾向があり、製造・サービスの現場情報(検査・作業・保守結果など)が設計ループに戻る運用も根付いています。これが品質や安全性、長期の信頼性における評価につながっています。

この強みを収益につなげるには生成AIに下支えとなる作業を任せることで、設計者がより高付加価値な業務(最終仕様の決定・安全余裕をもった設計・顧客との合意形成など)に時間を振り向けられるようにすることが有効です。例えば、下記のようなことが挙げられます。

  • 初期調査や要件整理の短時間化:規格、過去の不具合、試験記録、顧客要件、法規など内外データをAIが収集・要約し、設計者が一読で把握できる形にまとめる(AI導入による効果指標例:要件定義にかかる時間、初期設計の修正回数)
  • 企画候補案の自動生成と比較:性能・コスト目標・納期・規格などの条件を入力し、AIが複数の製品の構成案・材料案を作り、品質・安全・コストの観点で比較表を提示、設計者は重要な選択に集中する(同指標例:試作回数、試作期間、原価・粗利率)
  • 試験観点とリスク項目の自動リスト化:過去事例や外部基準などから仕掛品や完成品の確認項目・試験条件をAIが抽出し、見落としを減らす(同指標例:試験準備時間、手戻り発生率、是正処置件数)
  • 設計文書、手順書、差分の自動化:仕様書ドラフト、変更点サマリー、設計意図の記録をAIがドラフトする(同指標例:ドキュメント作成時間、承認リードタイム、付加価値業務比率)


重要なのは、AIが設計者の代わりに決めるのではなく、設計者が価値の大きい判断に専念できるような仕組みにすることです。

プロジェクト型・受注生産の比重が高い領域では、製品引き渡し後の長期にわたる安全性・信頼性の担保が重要になるため、保守・点検・改修・アップグレードを通じた長期収益化の余地が大きくなります。しかし、人員・時間の制約から、アフターサービスは恒常的にリソース不足に陥りやすいのが実情です。

だからこそ、限られた人員で売上や利益率の向上に加え、アフターサービスで重要になるBSのスリム化(棚卸資産削減やキャッシュ・コンバージョン・サイクル短縮)を実現するため、意思決定と業務を生成AIで標準化することが欠かせません。例えば、下記のようなことが挙げられます。

  • 需要の先読みに基づく在庫・価格の自動調整:設備の稼働データ、部品の交換履歴、季節要因、外部ニュースから部品ごとの需要を予測し、在庫水準・発注タイミング・価格水準を自動提案する(同指標例:在庫回転日数、棚卸資産削減、欠品率、輸送費、サービス粗利率)
  • 現場作業の時間短縮:機種・症状・環境条件から不具合の想定原因と対処手順をAIが提示し、必要部品を同時に示すとともに、仕様から技術文書や作業手順を自動生成する(同指標例:平均作業時間、1人あたり処理件数、再訪率)
  • 予防提案と更新・追加受注の創出:故障の兆候検知時に、交換・点検・アップグレードの選択肢を事前に提示する(同指標例:サービス売上、契約更新率、追加受注率、解約率低下)

人的リソースが限られていても、こうした仕組みが整えばアフターサービスはコストセンターからプロフィットセンターの中核に転じ、事業としての重要性も高まるのではないでしょうか。

多くの日系製造業では、見積もり・仕様確定・納期回答など顧客の近くでの意思決定が日常的に事業部や工場で行われています。稟議や承認も現場起案・事業部門承認・最終承認という流れが標準的です。実行性が担保されている一方、全社横断の仕組みを整えるには工夫が必要です。

上記の特性を踏まえると、以下のような取り組みが考えられます。

  • 事業の推進は現場に近い分散型組織が主導:コーポレート主導のトップダウンで物事を進めるよりも、各事業に小さな推進チームを分散配置して取り組む方が、有効なケースは多いと言えるでしょう。事業をよく知るメンバーがユースケース選定からデータ整備、運用設計、更新までを担当して現場の判断とスピードを生かすことが有効です。
  • コーポレートはデータ・知見の横展開に貢献:全社レベルではデータ共通化や知見・ベストプラクティスの横展開に注力する仕組みが求められます。特に、知見やベストプラクティスの横展開においてはKPI貢献を可視化した上で、ユースケースやモデルコンポーネントを共有するだけでなく、各事業のキーパーソンをつなげる場を設けることも重要です。

生成AIは、日系製造業にとって、上流でコア人材が価値の大きい判断に集中できる時間を生み、人員が限られがちな下流でもROIを向上させる仕組みを提供しうるものです。「事業の推進は現場に近い分散型組織が主導」「コーポレートはデータ・知見の横展開に貢献」「Day1から収益指標を並走させてうまくいったやり方を早期に拡大」といった点を意識して、コア機能の改革を生成AIで加速させることが非常に重要です。こうした企業こそが将来の収益成長を加速させ、獲得した投資原資を事業に振り向けることで、さらなる競争優位を確立できるのではないでしょうか。

PwCコンサルティング合同会社 
Strategy& シニアマネージャー 小長井 啓

製造業における生成AIの可能性を引き出す

生成AIは、製造業におけるイノベーションと競争力強化の中核的な推進力になりつつあります。その潜在力は非常に大きく、開発プロセスの効率化、予知保全に基づく意思決定支援、さらには戦略的な意思決定に役立つ高度なデータ分析など、多岐にわたるソリューションにつながります。うまく導入して市場の変化に対応できれば、自社の競争的地位を一層高められるでしょう。

生成AIによる収益性の改善効果を明らかにするために、Strategy&はドイツおよび欧州最大の機械・設備製造業団体であるVDMA(Verband Deutscher Maschinen- und Anlagenbau:ドイツ機械工業連盟)と協働し、詳細な調査を行いました。45の生成AIユースケースを分析するとともに、ドイツ・オーストリア・スイスの製造業247社を対象にアンケートを実施。特に生成AIが業界の現在と未来にもたらすインパクト、必要なスキルセットの変化、業務や組織の変革、目指すべきビジネスモデルといった側面に焦点を当てました。

製造業の再生:繁栄への道筋

製造業は1990年から2002年にかけて、リーン生産方式や全社規模の資源計画システムを導入したことで、30%超の生産性向上を実現しました。その後の10年間も、自動化やロボティクスの進化によって同様の成果を得ています。

しかし、スマートマニュファクチャリングやインダストリー4.0への移行では期待したような効果が出ていません。従業員1人あたりの生産性は2015年以降ほとんど伸びず、2010年以降の改善幅はわずか5%程度にとどまりました。

直近の5年間においても、ドイツ・オーストリア・スイスの製造業は厳しい環境に直面しています。産業用車両、産業機械、自動化技術など幅広い分野において、コストは上昇し生産性の伸びが鈍化しました。こうした停滞が続く中、生成AIのような先端技術を活用することが、再生と成長に向けた新たな道を切り開く可能性を持っています。

製造業界を成功に導く生成AI戦略の策定

過去の技術トレンドと同様に、生成AIの導入にも独自の課題や投資上の障壁が伴います。私たちの調査では、特に以下の3点が主要な障壁になると判明しました。

  • 1
    データ量の不足とデータ品質の低さ
  • 2
    専門スキルの不足や限定的なトレーニング機会
  • 3
    高度なITインフラとソフトウェアの不足

上記の課題を解決するには、まず課題を正しく理解し、適切に対処した上で、明確な目的を持ったトップダウン型の戦略的アプローチが必要です。生成AI戦略では、段階的な改善からビジネスモデルそのものの再構築に至るまで、将来的にどのように経営モデルを変革していくのかというビジョンを明確に示す必要があります。

規制面でのリスクを避けるためには、コンプライアンスや倫理に沿ったガバナンス整備が重要です。また、生成AIの導入を推進する専門組織を設けることで、ユースケースを効果的かつ効率的に展開するための指針と推進力を得られるでしょう。加えて、信頼できるパートナーとの連携によって、従業員のケイパビリティ習得を後押しできます。 

生成AI活用を成功に導くためのプロセス

企業が生成AI活用のプログラムを体系化・推進できるよう、私たちは独自の戦略的アプローチを提示しています。これは生成AIがビジネスに果たす役割を包括的に理解するための3段階のプロセスで構成されています。

  • 1
    トップダウンのビジョンを策定する:
    明確な戦略に基づいて、目指すべき姿や売上・利益改善の目標を定義します。そのうえで、ステークホルダーとの連携を通じて一貫したビジョンを共有しましょう。
  • 2
    生成AI推進組織の枠組みを整備する:
    推進組織が生成AIのユースケースをどのように評価・選定するのか、その目的・範囲・方法を明確にします。この枠組みは、インパクトの大きな取り組みを立ち上げる際の指針となります。
  • 3
    進捗を管理しインパクトを最大化する:
    プロジェクトを開始した後は定期的に進捗を確認し、成果の出ない取り組みは中止、成果が高いものは大規模に展開していきます。

生成AI推進組織:着実な成長のための原動力

生成AI導入に伴う課題を効果的に克服し、大きな価値を実現するためには、生成AI推進組織の設置が不可欠です。推進組織は迅速なイノベーションを推進し、優秀な人材を引き付け、製品やサービスの市場投入までの期間を短縮する原動力となります。私たちが構築したフレームワークは、製造業が生成AI戦略の設計や実行で直面する固有の課題に対応できるよう設計されています。この枠組みは3つの重要な問い(Why:生成AIのミッションと目的を定義する、What:生成AIのユースケースポートフォリオの適用範囲と優先順位を定義する、How:推進組織に必要な人的・技術的ケイパビリティを定義・構築する)を軸に据えており、焦点を絞った実践的なアプローチを通じて、戦略の実行を力強く後押しします。

GenAI incubator structure

投資対効果を最大化する3段階のアプローチ

生成AIのユースケースを発展させ、検証し、最適なものを選び抜くためには、一定期間の自由度の高い実験が不可欠です。リターンを最大化するためのプロセスを3ステップにまとめました。

ステージ1

発展

経営管理上の制約を最小限にとどめ、財務目標を設けずに実験に必要なリソースを提供することで初期導入を加速し、イノベーションを推進。

ステージ2

実践

有望なアイデアを大規模に展開できるよう体系化し、プロトタイプを拡張、従業員のスキルを強化しながら、パイロットプロジェクトを実行。

ステージ3

最適化

KPIを厳格にモニタリングし、プロセスを改善・標準化しながら、効果の大きなユースケースを拡張。成果が伴わないものは排除することで、長期的なROIを確保。

新たな未来を創造する

多様な選択肢、ユースケースと収益ポテンシャルの不一致、最も有望な技術の特定、その技術の導入と正しい評価--。製造業は現在、収益性の改善という最重要課題を掲げながら、膨大なオプションの中から最適解を見極めるという難しい判断を迫られています。

解決策は明確な生成AI戦略を持ち続けること、実装を加速させるための仕組みを整えること、組織内の障壁を取り除くこと、そして従来の枠組みにとらわれず大胆に行動する勇気を持つことにあると私たちは考えています。

Leon Rupp、Dr. Thomas Wolf、Tobias Bleymehl、Aileen Goth、Rune Hiort、Tim Theis、Nils Breuer、Svenja Mattも本レポートの共同執筆者です。

※本コンテンツは、Transforming industrial manufacturing with GenAIを翻訳したものにStrategy& Japan独自の内容を追加したものです。翻訳には正確を期しておりますが、英語版と解釈の相違がある場合は、英語版に依拠してください。

生成AIを活用した製造業の変革 新たな技術の収益化に向けて

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小長井 啓

小長井 啓

シニアマネージャー, PwCコンサルティング合同会社

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