コンテンツの『民主化』:インターネットはいかにしてクリエイティブ産業の成長を活気づけているか

2018-03-09

調査手法

デジタルコンテンツの量は、その創作、交換、消費量いずれも、世界中で日ごとに増加している。また、インターネットが創作ツールや配信ツールの利用を民主化したことにより、クリエイティブ産業のあらゆる領域で、プロとアマチュアのコンテンツの境界線が曖昧になりつつある。本レポートの目的は、それぞれ特徴的な5カ国(日本、インド、オーストラリア、韓国、タイ)において、インターネットがコンテンツプロバイダや配信者、新興のアーティスト、消費者に及ぼす影響について、包括的な分析を示すことである。私たちが上記5カ国を選んだ理由は、インターネット接続、インフラ整備、メディアリーチの度合いがそれぞれ大きく異なっているからである。これらの国に見られる共通点および相違点を調査することは、その国の制度的・技術的枠組みに関係なく、インターネットがいかにしてクリエイティブ産業に価値をもたらすことができるかを理解する上で役立つ。

私たちは、クリエイティブ産業、クリエイター、消費者それぞれの視点を個別に捉え、インターネットが及ぼすインパクトを分析した。

調査は、文献・記事調査に加え、5カ国それぞれの主要企業の代表者との1対1のインタビューを組み合わせることにより行った。机上調査は、PwCの年次調査「グローバルエンタテイメント&メディアアウトルック1」、IT調査会社オーバム、世界銀行をはじめとする、信頼性の高いソースに基づいている。
インターネットのインパクトの評価は、定量的/定性的両方の視点から行った。主要な定量的データ は、市場規模、クリエイティブ産業の成長率、消費者がメディア全般に費やす時間の段階的変化、各国のデジタル化の程度を示す指標等であり、主な定性的要因は、クリエイティブ産業の担い手のビジネスモデルとその進化、従来型のメディアとデジタルメディアの融合戦略、さらには、市場ダイナミクスや競争力等である。

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エグゼクティブ・サマリー

  • 調査対象となった5カ国すべてで、デジタルコンテンツ(特に有料デジタルコンテンツ)の成長がクリエイティブ産業の成長を牽引している。
    5カ国のほとんどの市場で、デジタルコンテンツの成長は、名目GDPの成長速度を上回っている。実際、オーストラリア、韓国、日本では、クリエイティブ産業の成長はいずれも、デジタルメディアによって牽引されている。2012年から2014年までを見ると、デジタルメディアは、上記3カ国の市場で合計145億ドルの収益をもたらしている。
  • 消費者は、クリエイティブ産業の領域において、従来型のメディアとデジタルメディアの両方における消費に、これまでよりも多くの時間を費やしているが、その原因は主にインターネットにある。これまでよりも多くの余暇や娯楽の時間をクリエイティブコンテンツに割くようになったことから、コンテンツを消費しながら過ごす時間は、5カ国すべてで増加している。例えば、オーストラリアでは、コンテンツを消費しながら過ごす時間は、1日平均9.7時間で、4年前の1日6時間から増えており、この時間の約半分がインターネットに費やされている。同様に、インターネットでコンテンツを消費しながら過ごす時間については、タイ、インド、韓国全体で年間5~11%の伸び率を示している。
  • コンテンツの創作と配信の発展を促す「消費者-クリエイター」モデルが台頭している。フォーラムやブログ、ソーシャルネットワーク等を通じて、消費者がインフォテイメントや動画コンテンツの創作に参加するようになってきており、また、ソーシャルメディアのプラットフォームにより、ユーザーが自分の作品を世界中の人たちに配信できるようになり、ユーザー自身の情熱をキャリアに転換することを可能にしている。
  • ニッチなコンテンツのクリエイターたちが、自身のコンテンツをインターネットにて無制限に配信する機会を得たことから、デジタルコンテンツは急激な発展を迎えようとしている。放送事業者や出版社をはじめとする従来型のメディア配信者は、限定されたオフラインのコンテンツスペースをベースとしたこれまでのビジネスモデルの崩壊に直面している。
  • デジタル化はまた、これまで十分なサービスを受けることができなかった人たちにコンテンツを拡散することを可能にしている。特に、多くの人が新聞や書籍、有料テレビといった従来型のメディアにアクセスできないインドのような市場では、この傾向が表れている。多くの場合、こういった市場においては、ユーザーが自身の携帯電話経由でインターネットに接続してコンテンツにアクセスすることができるようになった。
  • インターネットがグローバルな市場へのアクセスを容易にしたことから、これら5カ国におけるコンンツの輸出市場が急成長を遂げ、大きな収益を生み出している。あらゆるクリエイティブ産業にて、コンテンツのクリエイターおよび配信者が、これまで未開拓であった市場に参入することができるようになった。
  • オンライン配信プラットフォーム経由にて、オープンかつ瞬時に、多くの場合無料で最低限必要なユーザーにリーチできるようになり、新興のクリエイターたちは、インターネットの恩恵を受けている。さらに、制作や配信、マネタイゼーション、消費者の開拓に関する支援を提供する専用プラットフォームからも恩恵を受けている。
  • ローカルコンテンツの消費が伸びている。オーストラリアでは、短編等のショートフォームのオーディオ/動画コンテンツは、映画館等のロングフォームのコンテンツのプラットフォームよりもデジタルプラットフォーム上にてはるかに人気が高い。オーストラリアのローカルなユーチューブアーティストが、ボックスオフィスよりもはるかに多くのオーストラリアの視聴者を獲得し、魅了している。ボックスオフィスでは、2010年~2015年にかけて、毎年上位20作品の映画のうち、ローカルの映画はわずか1本であった。
  • 大手のコンテンツ事業者は、これまで以上に多くの消費者にアクセスすることが可能になった一方で、ロイヤルティを引き上げ、コンテンツを消費者の好みに合わせるようになってきている。また、新たなタレントに効率的にアクセスできるようになっている。
  • コンテンツ配信者は、デジタルコンテンツ、グローバルなコンテンツ、ロングテールコンテンツをマネタイズし、さらに敏捷性と効率性の高い新たなビジネスモデルの構築を図っている。また、ソーシャルメディアの活用により、より多くの消費者を獲得し、コンテンツの消費を促している。

5カ国におけるコンテンツの民主化の状況

2016年7月時点で、世界中で約34億1,000万人(世界の人口の46%)が、インターネットに繋がっていた。インターネットは人と人の距離を縮め、瞬時のコミュニケーション、また、データやニュース、思想、情報、エンタテイメントなどの交換を可能にした。そのような中、インターネットは、テレコミュニケーションや金融から小売、旅行業に至るまで、多くの業界を変容させてきた。本レポートで検討対象となった5つのクリエイティブ業界も、同じように変貌を遂げている。
クリエイティブ産業は、デジタルと非デジタルの融合を示す典型的な例となっている。テレビ番組または新聞記事とそのデジタル拡張版(オンライン動画からアプリケーションに至るまですべて)の境界線が消滅しつつある。同様に、アーティストと視聴者の境界線も急速に曖昧になってきている。
しかしながら、クリエイティブ産業におけるインターネットの恩恵は、これまでのところ業界ごとに不均一である。ゲームをはじめとするいくつかの業界では短期間で多くの恩恵を享受してきた一方で、デジタル化への適応に時間がかかった音楽や新聞、雑誌といった業界では成長は限定的であった。しかしクリエイティブ産業全体にとって、インターネットが、芸術的、技術的、商業的な意味で前例のない創造性の起爆剤となったことは言うまでもない。こうした状況の中で最も大きな恩恵を受けているのは誰だろうか。それは消費者である。

レポートの続きは、PDFファイルをダウンロードしてご覧いただけます。

PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

Content democratization: How the Internet is fueling the growth of creative economies, January 5, 2017。

1 “Global entertainment & media outlook” PwC Survey

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