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日本政府が「クールジャパン戦略」のリブート版となる「新たなクールジャパン戦略」を発表してから、1年。そこで示された目標は、2033年までに日本のコンテンツの海外市場規模を20兆円に拡大し、インバウンド、食、ファッション、コンテンツの4領域を組み合わせた経済効果を50兆円以上にするというものだ。海外進出に伴う様々なハードルをクリアし、いかに目標を達成するか。PwCコンサルティング合同会社の戦略コンサルティングサービスを担うStrategy&でパートナーを務める森祐治と、同社のシンクタンク機能PwC Intelligenceを統括する上席執行役員チーフエコノミストの片岡剛士がカギとなる戦略について語った。
アニメや漫画、ゲームといった、日本が誇るコンテンツをいかに産業として強化し、日本の国際競争力向上につなげていくか――国が進める「クールジャパン戦略」が新たなフェーズを迎えている。
「クールジャパン戦略」が最初に発表されたのは2010年。日本が誇るコンテンツやカルチャーに着目した政策で、それらの力で日本のブランド力を高めソフトパワーを強化していこうといった内容であった。しかし、韓国が国策として推し進めた「クールコリア政策」が世界的に韓流ブームを沸き起こしたことを考えると、日本は期待していたような成果を上げられなかったと言わざるを得ないだろう。そうした中、2024年6月に日本政府は“リブート(再起動)”という言葉と共に新たなビジョン・方向性、そして具体的な期間と併せて金額目標を示し、「新たなクールジャパン戦略」と題した政策を発表した。
発表から1年、「コンテンツ戦略ワーキンググループ」等領域ごとの取り組みが政府主導で進む中、クールジャパン戦略全体の議論が必要なタイミングに来ていると言える。
そもそも、なぜ満を持して日本政府は“リブート”に踏み切ったのか。PwCコンサルティングのStrategy&でパートナーを務める森祐治は、その背景の一つに、コロナ禍による“潮目の変化”を挙げる。
PwCコンサルティング合同会社
ストラテジーコンサルティング Strategy&
パートナー
森 祐治
インバウンドや食など、クールジャパン関連産業がコロナ禍に受けた負の影響は想像以上に大きく、その規模の可視化によって、改めて価値が見直されたと言えるだろう。一方で、プラスの影響が出たことによって、その価値が認識されたのが「コンテンツ」の領域である。
以前より日本の良質なコンテンツは海外でも定評があり、コアなファンは世界中に存在していた。いわゆる少数の“日本マニア”に限られたものであると認識されていたのが実情だったと言えよう。
しかし、「コロナ禍で世界的に巣ごもり消費を強いられる中、VOD(Video On Demand)などの動画配信サービスが普及し、日本のソフトコンテンツの魅力が“再発見”される形で、一気に認知が高まったことが起爆剤となりました」と森。
「今や世界の動画配信プラットフォームにおいてアニメは主要なジャンルとなっており、日本のコンテンツだけで全体の6%の利益貢献をしているといったデータ※も見られ、マニアに限られたものという認識から、多くのファンを抱える一大ジャンルとして日本のアニメの地位が急上昇しています」(森)
リブート版で示される具体的な目標は、2033年までに日本のコンテンツの海外市場規模を20兆円、4領域(インバウンド・食・ファッション・コンテンツの海外展開)の掛け合わせによる経済効果を50兆円以上としている。分野連携・分野横断により好循環を生み出し、日本のブランド価値の引き上げ、日本ファンの拡大につなげる構想だ。
森は、リブート版の特筆すべきポイントとして「クールジャパン関連でサービス産業を日本の基幹産業として位置付けたこと」だと指摘する。製造業中心だった従来の日本の産業構造から、いわば転換を明確に打ち出したのは画期的と言えよう。
※参考文献:
Parrot Analytics Limited, “Japanese Anime Captured $19.8 Billion in 2023 Global Revenue, Cementing Japan’s Role as a Global Entertainment Leader” ,
Parrot Analytics Limited, “Parrot Analytics at Cartoon Business - Maximizing Animated IPs Potential”
ビジョン・方向性、目標が定まったところで、いかに確度高く取り組みを進めていくか。
そこでPwCコンサルティングが着目するのが、多様なメディア・産業を横断することで生まれる経済波及効果だ。ここを見誤ると戦略全体のピントがずれてしまう。
リブート版では、2022年の日本のコンテンツ海外市場規模を4.7兆円と推計。ただ、これは映画・番組・アニメ・ゲームなどの主要業界団体が公表している数値を合算したもので、いわば「輸出先で生じた消費総額」の総計にすぎない。実際は、動画配信プラットフォームを含む新しいメディアやVTuberといった動画配信者の誕生、それらの掛け合わせなどによって、コンテンツの形態や消費方法が多様化している。
PwCコンサルティングのシンクタンク部門PwC Intelligenceをリードする上席執行役員チーフエコノミストの片岡剛士は、「コンテンツ領域の経済波及効果では、従来の枠組みを超えて形成される市場にまで着目しなければ、市場の規模感を見誤る恐れがあります」と注意を促す。
同社が日本のエンタテイメント&メディア業界の海外市場開拓を支援するために立ち上げた「エンタテイメント&メディア・インダストリー・イニシアチブ」では、こうした点も勘案して全世界における日本のコンテンツの市場規模を試算。その結果、政府試算の2.4倍に当たる11.1兆円程度に達し得ることが分かった。
政府試算の数値と比べてどちらが正しいという議論ではなく、「コンテンツが価値を生み出す領域を広がりをもって捉え、それに応じた戦略を策定し、いかにビジネスや市場の拡大につなげていくかが、日本コンテンツの海外進出を進める上で重要」(片岡)という。
PwCコンサルティング合同会社
PwC Intelligence
上席執行役員
チーフエコノミスト
片岡 剛士
さらに、重要な視点として、日本では古くから「メディアミックス」という手法でコンテンツの市場を広く捉え、その経済効果を様々な産業で共有してきた歴史がある。
リブート版で示す海外市場の拡大を目指す上でも、「日本が得意とするメディアミックス戦略を、海外市場で機能させることにこそ商機があると捉えています」と森は断言する。
では、「メディアミックス」とはどういった手法で、なぜ日本で定着してきたのか。その効果について、「ドラゴンボール」や「進撃の巨人」「ソードアート・オンライン」といった作品を例に具体的な数値を挙げて見ていこう。
まず、メディアミックスとは、1つの原作(IP)からテレビ番組、映画、ゲーム、漫画などの関連商品を多角的かつ同時多発的に展開し、相乗効果をもたらす手法を指す。
ポイントとなるのは、日本のメディア産業が戦略的にメディアミックスを推進してきたというより、自然発生的に日本に定着してきたということだ。
その背景にあるのは、日本の文化的な要素である。日本ならではの許容度の高い文化に加え、「読者などのオーディエンスとクリエイターの関係性が近く、その関係性をサポートする立場として企業がコミットするような文化は、メディアミックスの広がりに大きく影響している」と森は分析する。
例えば、新商品を売り出す際に、アニメのキャラクターとコラボレーションするようなキャンペーンはテレビアニメが登場した黎明期から行われてきた。
メディアミックスの定着には、投資回収を見込みやすい、投資額を小規模に抑えることが可能といった懐事情も大きく関与しているものの、「原作の生み出し得る経済的価値や投資回収のシナリオを可視化することができれば、コンテンツ産業以外にも資金の出し手となるプレイヤーの広がりをつくれ、海外市場を含めた大規模なマーケティングも実施しやすくなり、チャンスの拡大が見込めます」と片岡は言う。
2024年のStrategy&発行のレポート「メディアミックスのパワーと可能性」※では、マクロ視点とミクロ視点の両方で、日本のメディアミックスによる経済波及効果の算定を行っている。
マクロ視点はコンテンツが他産業に与える経済波及効果を指す。「当時最新であった2015年の産業連関表を使用して分析したため、VOD等の新しい産業のデータは含められませんでしたが、それでも日本のメディアミックスの経済波及効果は国内限定でも6.5兆円にのぼります」と片岡。
メディアミックスによる展開で認知度が向上すれば、原作そのものの売り上げも拡大しやすい。
ミクロ視点によるメディアミックス方式による1つの原作の経済波及効果の測定では、国内外で高い人気を誇る「ドラゴンボール」は7.95倍、「ソードアート・オンライン」は3.97倍、「進撃の巨人」は2.50倍と試算されている。
※参考文献:Strategy&「メディアミックスのパワーと可能性」
また、日本のメディアミックスの特徴として、企業間のアライアンスや共同でコンテンツを盛り上げる体制があり、各事業者のリスクが少ないことが挙げられる。
「大規模な予算を組み、宣伝活動を展開するようなハリウッドスタイルと異なり、日本では参加企業がリスクをヘッジしながら共通の知的財産を育てる仕組みが根付いています」と森。
加えて、コンテンツ制作という初期の段階においても、クリエイターを発掘し巨額のを投資をする米国などと対照的で、日本は、少ないリソースの中で多様な媒体や個人を巻き込み、ボトムアップで創造性を刺激する仕組みが強みとなってきた背景がある。さらに近年では、SNSの普及により作る側と消費する側の関係性が変化し、ファン同士がつながりを強め発言力を持つようになったことで、ボトムアップの新たな動きが世界的に生まれている。
「海外のメジャーブランドの世界でも、一度人気が衰退したブランドに対して、日本のようにファンがボトムアップでブランドやコンテンツの盛り上げに参加するなどの現象も起きています」(森)
いわば“世界の日本化”のような現象が消費者に近い場では起こりつつあるが、こと事業者からの視点で見ると、欧米などでは、「映画は映画」「ゲームはゲーム」と産業区分ごとに独立して運営されるのがセオリーであり、コンテンツ単位での経済圏や生態系の形成は想定されていない。著作権の考え方も異なり、ライセンスホルダーが権利や権限において圧倒的に強いビジネス環境でもある。
ビジネス慣習が大きく異なる海外市場で、日本式のメディアミックスを展開し市場規模を拡大していくためには、「日本で当たり前のように推進されてきたビジネスモデルの価値や構造を分解し、言語化し、ルールに落とし込む必要があります」と森は指摘する。
例えば、PwCコンサルティングではコンテンツの生態系モデルとして、「5Cモデル」を提唱する。
日本においては、コンテンツに投資し(Capital・資本)、コンテンツを創り(Creator・創作)、配信(Channel・配給)を通じて、生活者がファンとなり関連グッズなどを購入・所有し(Commerce)、イベントへの参加やSNS上での交流といった体験(Community)として消費され、その経済活動が生み出す利益とロイヤリティが新たなコンテンツの創出へとつながるという循環が複数企業の有機的な連携によって実現してきた。
図表2:PwCが提唱するコンテンツの生態系モデル
米国はビッグITや金融で世界を制覇したが、日本はコンテンツの力でアライアンスを組むなどソフトパワーにおいて優位性を擁す。だからこそ、「コンテンツ産業に限らず様々な企業・プレイヤーを巻き込むための説得力のあるモデルとストーリーを提示することが肝要です」と片岡は言う。
今、世界の変化のスピードはあまりにも速く、課題は経済、環境、安全保障など様々な分野にまたがり複雑化が進んでいる。
2025年6月現在、世界的にその影響が懸念されている米国の関税政策は、グッズなどの物財の海外取引に影響を与える可能性が高い。「大規模に作ったものを輸出するという製造業的な考え方から脱却し、ローカルのファンの熱量を生かして現地でクイックにモノを作り流通させるなど、全く新しい考え方でビジネスにイノベーションを起こす必要がある」と森は指摘する。
加えて、日進月歩で進化している生成AIについては、「コンテンツの記号化を進め、一部の漫画家やアニメーターには脅威となるリスクがあります」と片岡。一方で、人手不足の解消やコスト削減などによる生産性向上、自動化が進むことにより、本来クリエイターが集中するべき新たな創造性の発揮につながる可能性などのメリットも挙げる。
コンテンツ産業においては、その肝となるコンテンツの創造に注力すべき中、自社内のリソースだけで、様々な外部環境変化に応じたビジネス戦略を即座に構築するハードルは相当高いものであるとも言えるだろう。
そこでPwCコンサルティングの強みとなるのが、PwC Intelligenceというシンクタンク、そしてPwC Japanグループとして会計監査、税制、リーガル、マクロ経済分析など広範囲に及ぶリソース、知見を擁する総合力だ。
片岡は「PwC Intelligenceはクライアントが抱える課題が多様化している状況下で、中長期的に変化を捉え、未来を見通すための羅針盤になるべく2022年10月に発足しました」とし、「正解がない世界にあっては、対話によって正解を模索していくプロセスが欠かせません」と話す。
森も、リブート版の実現に向けて、「日本で曖昧模糊としていたコンテンツ制作やその波及の仕組みを再構築する、つまり、他の場所に行ってばらして、その地のローカルの資材で一緒に組み立てていくという、現地のビジネス環境や法律への深い理解が必要な、難易度の高い取り組みが必要となります」と言う。加えて、新規参入企業を含めた複数の組織や政府の支援など、マクロな視点に基づくブランドマップの構築、橋渡し役を担い、「日本のコンテンツ産業のさらなる拡大の一助になっていきたいと考えています」と力を込める。
最後に、自身も日本のアニメや漫画のファンだという片岡は、「日本には、コンテンツ産業として、過去から蓄積してきた良質なコンテンツや人材など、他国にはない、面白いものを作れる土壌があると思っています。これからは世界の多様な人たちを巻き込み、分断ではなくコミットする形で、各々が得意とするサービス分野で利益を生み出し、三方良しとなるような道をつくっていく。これは西洋的な価値観とアジア的な価値観の両方とも併せ持っている、ハイブリッドの日本がやらなければいけない。そんなふうにも考えています」と語る。
日本の強みであるコンテンツによるソフトパワーをさらに増幅させ、いかに多くの業界を巻き込み、ビジネスにつなげることを前向きに考えるか。
プロの手を借りながら、中長期的な目線で市場を分析し、コンテンツ産業の未来像を展望し、新たなビジネスモデル構築の可能性を模索したい。
※本稿は日経ビジネス電子版に2025年6月に掲載された記事広告を転載したものです。
※法人名・役職などは掲載当時のものです。