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ITコスト変革で陥りがちな3つのアンチパターンと対応策

2021-02-15

エグゼクティブサマリー

ビジネスが停滞する現在の環境下においては、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大も相まって、コスト管理が企業における優先課題となっている。米国の市場調査会社IDCが2020年に実施した調査によると、日本国内市場において、IT部門をマネジメントする上で最大の懸念事項は、ITコストの管理と削減であった*1

海外に目を向けると、PwCグローバルCFOサーベイ(2020年5月時点)において、COVID-19の感染拡大を受けて最高財務責任者(CFO)が検討しているトップアジェンダに挙げられたのは、やはりコストの抑制であり(81%)、回答者の半数以上(56%)は予定されていた投資の延期または中止を検討していることが明らかになった。ただ、計画していたデジタルトランスフォーメーション(DX)に係る投資を削減する可能性はそれほど高くない(11%)とも回答しており、これは業務の自動化を加速し、リモートワーク環境の改善を優先事項とする調査結果と一致している。そして、コスト削減の可能性が最も高い分野は、施設・ 一般設備投資(83%)であった*2

日本の企業において消極的投資対象とされるIT

テクノロジー投資を行う多数の日本の大企業は、ITへの投資を事業の中核を担う積極的な手段としてではなく、必要ではあるが消極的な手段、あるいはコモディティ化された手段として捉えている。これは、1960~1990年代の大規模オートメーション時代の最盛期に、IT部門がその潮流から取り残されていたことを反映している。この期間、機械的なプロセスや計算を自動化することが生産性や効率性を高めるソリューションになるとされ、結果としてテクノロジーが発展した。同時に、企業規模が拡大する中で、ITコストの効率化を図るためにIT部門を子会社化する事例も多く見られた。これにより、施設・設備などハード面での大規模な工業化、物理的スペースの最適化、およびITリソースの高度な専門化が可能となり、結果として生産性が大幅に向上した。

ITの大規模なアウトソーシングがコスト構造にもたらす影響

しかし、1990年代に日本のバブル経済が崩壊したことで、この傾向に歯止めがかかった。その後、数年にわたり、情報システムの開発および運用を第三者プロバイダーへアウトソーシングするケースが増加するという、日本国内独特の傾向が見られるようになった。積極的なITコストの効率化やリスク移転戦略の浸透、IT部門がビジネスの中核ではないという根強い考え方などが、こうしたアウトソーシングを推進する主な要因となった。アウトソーシングで開発されたソフトウェアを社内のITシステムに導入している企業の割合を見ると、米国では33.8%であるの対し、日本企業は88.3%と非常に高い(ここではアウトソーシングによるソフトウェア開発は「カスタマイズされた」ソリューションを指し、パッケージソフトソリューションは含まない)*3

図表1 大規模なITアウトソーシングの傾向

設計段階でのアウトソーシングの取り決めは、多くの場合、複数のベンダーや外注業者が関与することで非常に複雑となる。複数工程からなるウォーターフォール型のプロジェクト管理手法で広く用いられているアウトソーシングによるアプローチでは、スコープとコスト管理が重視され、その分アジリティと適応性は犠牲にされてしまう。

その結果、大企業の多くは、従来のIT資産管理に伴うコスト負担の大きさと運用の複雑さに依然として苦しんでいる。かつては、事業の運営と顧客とのコミュニケーションを統合したソリューションを提供することは、競争優位性であるとされていた。しかし現在では、これらのシステムのほとんどは技術的な負債として重荷となっている。さらに、こうした従来のITシステムの多くは、本質的にモノリシックであり、アーキテクチャと強固に結びついているため、コスト面で2つの大きな課題をもたらす。 

第1に、運用コストが高額である。プログラミング言語の一つであるCOBOL(コボル)でカスタムビルドされたソリューションを維持する場合でも、第三者ソフトウェアプロバイダーとの長期的なロックインに関するベンダー交渉の場合でも、アウトソーシング契約は提供されるサービスの水準と比較してコストが高くなる。その結果、ITの運用コスト構造が高額に固定され、将来のビジネスニーズの変化に柔軟に対応することが困難になる可能性がある。

第2に、従来のプラットフォームでは一般的に変更コストが高額となる。従来のアーキテクチャは、変化率(RC)が低くなるように設計され、高価なウォーターフォール型の開発プロセスに関連付けられている。そして多くの場合、複雑な契約形態を介してアウトソーシングパートナーによって実行されている。これらはビジネスに必要なスピード、機能、アジリティを適正価格でサポートしているとは言えず、形式的な関係性に依存しているに過ぎない。

日本では大規模なITユーザー企業においても依然として多くの場合、ITサービスはコストセンターとされ、事業上の価値を生み出すものとしては捉えられていない。また、ITに関するスキル不足は深刻であり、社内のIT部門を、持続可能でコスト効率に優れ、さらに革新的なものへと成長させるという課題解決に苦慮している。その結果として多くの企業が共通して、ハードウェア/ネットワークベンダー、ソフトウェアベンダー、システムインテグレータなどを含む第三者プロバイダーにアウトソーシングするというアプローチを採用し、コスト管理とリスク回避のための対策を講じている。

日本におけるこうした長年にわたるITアウトソーシングの傾向は、純粋なテクノロジー・サービス・プロバイダーと社内IT部門の二分化をもたらした。前者は順調に収益を伸ばしている一方で、社内IT部門のスキルレベルは年々低下している。日本では、エンジニアの75%以上が第三者サービスプロバイダーに勤務しており、社内IT部門所属のIT人材の割合は25%未満である*4。米国の統計分布ではこの逆になっており、IT人材の71%以上が社内のIT部門に所属している。日本の大企業におけるIT知識やスキルの不足は、ベンダーとの契約交渉時やIT資産の長期的な管理に必要なITツールキット、専門知識、管理スキルの欠如につながり、組織的な課題となっている。

企業の成長と新たな収益モデルを支えるために、ITを消極的な位置付けから戦略的な成長要因としての位置付けへと転換しようとしても、そのために必要なスキルセットを欠いているとすれば、長期的に見れば戦略面に影響を与えることになる。このような大規模で長期的なアウトソーシングの取り決めは、時間の経過に伴い複雑な契約状況を生み出し、企業を単一で大規模なIT資産とプロバイダーに縛り付けることとなる。そのため、緊張感のある競争や契約交渉を通じて、企業が急速に変革を起こすことや、コスト効率を向上する能力を高めることを妨げてしまう。

ITコスト変革に取り組む際に注意すべき3つのアンチパターンと推奨される対応策

Strategy&が国内の状況を考慮し、その傾向について他の市場との比較を行なったところ、日本市場において持続的なITコスト変革に影響を与える3つの重要な問題点、すなわちアンチパターン(陥りやすい失敗のパターン)が明らかとなった。

図表2 ITコスト変革に取り組む際に注意すべき3つのアンチパターンと推奨される対応策

アンチパターン① : 目先の結果のためのコスト削減に焦点を当て消極的な姿勢を取る

IT部門の幹部がIT予算の削減を求められた場合、すぐに結果を出すために、まず目先のITコスト削減に手を付けようとすることが多い。この従来のITコスト削減方法により、ITに関連した取り組みの開始時期の延期、採用の凍結、請負契約の削減、サービスの質の低下などが生じる。

また、目先の結果を過度に重視することは、ITコストに変革をもたらす大胆な戦略的投資の機会を長期的に失うリスクもある。さらに、IT機能の品質、アジリティ、柔軟性の低下という悪循環を招き、IT機能が事業において価値を生み出さない、あるいは、事業に全く貢献していないという烙印を押されることにもなりかねない。IT予算の削減に関しては、慎重に計画する必要がある。そうでなければ、IT部門が消極的なコスト削減策を継続した後に、成長に向けた積極的な施策を実行したくても、そのアプローチが限られてしまうという困難な状況に陥る危険性もある。

しかし、日本ではITへの新規投資は減少傾向が続いている。収益に占めるIT予算の割合は横ばいで、米国市場の同業他社と比較して大幅に低い水準にある。こうした傾向は、日本の大手企業では過去数十年間、事業の成長を目的としたIT投資がほとんど行われておらず、「ITは主にコスト効率のために管理されてきた」という事実を示している。

対応策① : IT部門は、目先の結果を得るためや、継続的にコストを削減するための対象という消極的な立場から抜け出す機会を見出す必要がある。長期的な目標としては、IT部門が事業運営を積極的に推進する立場となり、コスト面における変革と新たな機能の創造を両立するための大胆な戦略的投資対象となることが必要となる。その優れた例としては、アプリケーションのモダナイゼーション、デジタルトランスフォーメーション(DX)に向けた取り組みなどが挙げられる。これらの取り組みにおいては、事業運営の最適化に留まらず、新たな事業価値のサポートや創出にも重点を置いている。

図表3 アンチパターンと推奨される対応策1

アンチパターン②:ITコスト変革の取り組みをIT部門のサイロ内でのみ行い、全社的な経営上の課題としない

コスト削減の要求が高まり、サービスの品質とアジリティが低下することで、IT部門に求められている目標を達成できないという悪循環を断ち切るためには、IT部門の幹部のみに本件の遂行を任せるのではなく、経営陣全体がITコストを重視する必要がある。すなわち、コスト削減に向けた取り組みは、最高情報責任者(CIO)またはIT部門の幹部とCFOを含む経営幹部らが共同で行うべきである。さらに、IT部門が効率性を追求するためには、サービスプロバイダーや受注専任の担当者にとどまらず、それ以上の役割を担うことが求められる。

最高デジタル責任者(CDO)やCIOを擁する企業は増加傾向にあるものの、いまだ限られた企業でしか存在しない日本市場にとって、これは殊更切実かつ深刻な課題である。多くの企業では、依然としてIT管理をIT部門の責任者に任せており、ITコストの削減への取り組みは、IT部門内の効率化に焦点を当て、極めて内向きに進められてしまっている。

ITコストの変革がIT部門内でのみ検討および管理されてしまうと、それが表面的なコストレバーの一部としてしか扱われないリスクが高まる。テクノロジー投資によって得られる価値とサービスを真にビジネスと結び付けるために事業部門と連携を図らなければ、IT部門を消極的な立場から戦略的な成長要因としての立場へと転換することは困難である。

ITコスト削減に向けた取り組みの多くは、ライセンスの最適化、クラウドインフラストラクチャのアップグレード、ネットワークサービス契約の統合などITサービスの領域で行われている。こうした取り組みについて、ビジネス上の成果に焦点を当てて検討することができる企業は稀である。それを可能とするためには、ITに係る高度に成熟した財務マネジメントが必要である。ITの価値を定期的に事業部門に共有すると同時に、ITがもたらす影響を顧客に伝え、また、ITコストの削減が必要な場合には、ITが及ぼす影響について機能やサービスレベルに応じて事業部門に伝える仕組みも求められる。

対応策② : ITコストの変革は、部門横断的な取り組みであると考えなければならない。CIOは可能な限りCFOや経営陣を巻き込んで影響力の輪を広げ、他部門の経営陣の賛同を得て、企業全体でITコストを管理するように推し進めるべきである。ITに係る財務マネジメントを高めるための投資は、ITのコストと価値の透明性を向上させる鍵となる。さらには、事業部門との信頼関係を確立し、協力関係を築くための重要な基盤となる。またこれにより、ITの役割をコストセンターからさらに価値を生み出すものへと高めて、IT部門と事業部門間のサイロ化を日常的な運用レベルで解消する助けとなっていく。

図表4 アンチパターンと推奨される対応策2

アンチパターン③:固定性の高いITのコスト構造に基づき、コスト変革に個別かつ段階的に取り組む

ITコストの変革を個別の1回限りの取り組みとして設定する場合、トップダウンで推進し、非常に先進的な取り組みを導入する必要がある一方で、すぐに時代遅れになってしまうというリスクがある。こうしたパターンは特に、コスト削減目標を達成するために具体的な指示が出されているような危機的な時期に多く見られる。

この問題の核心は、IT部門のコスト構造が高く固定されてしまうという特性にある。日本ではテクノロジー消費型企業において、テクノロジーへの投資額の70~80%が既存システムの保守・運用に割り当てられているとされる*3。こうしたコストの大部分は、数十年前に導入されたレガシーシステムに対するものであり、第三者ベンダーとの契約に関連したものである。これらの契約は長期間にわたるベンダーロックインの状態に陥りがちである。すなわち、非常に固定性の高いコスト構造を有しているため、サービスの構成またはレベルをキャンセルあるいは変更するといった柔軟性に欠けてしまう。さらに、ほとんどのIT人材は自社のIT部門ではなくアウトソーシング先のベンダー企業で業務を行っているため、ITソーシング契約の管理と交渉を進めるのに必要なスキルが社内に不足している。

これまでのIT運用コスト削減策の多くは、現在のコスト構造を中心としたものだが、契約に多くのベンダーが関与しているため、大幅かつ持続的な削減は実現できなかった。

高額に固定されてしまうITコスト構造のもう1つの側面として、高度にカスタマイズされたパッケージソリューションへの過度の依存が挙げられる。国内企業は、高度にカスタマイズされたパッケージソリューションや、自社のビジネスニーズに合わせてカスタマイズされたソフトウェアを従来好んできた。そしてこれらのアプローチは、2つの根本的な点において日本企業のITに係るコスト構造に大きな影響を与えてきた。1つ目は、日本市場の特殊性によるところなのだが、ソフトウェア開発と継続的な保守の大部分を、国内の第三者ベンダーやシステムインテグレータが行っているという点である。このように非常にローカライズされ凝縮された市場は、グローバルかつ革新的なソリューションの日本市場への流入を制限しがちである。2つ目は、高度にカスタマイズされたパッケージソリューションは、一般的に開発および運用コストが高額になるという点である。その積み重ねとして、国内の企業は、IT資産の開発と保守のために多額の費用を支払わなければならなくなる。

近年、日本でも最新の利用ベースのコスト構造が増加している。例えばIaaS(サービスとしてのインフラストラクチャ)のCAGR(年平均成長率)は24.7% (2018年~2023年)を示しているのに対し、従来の物理サーバの利用は同期間に -11%から -13%のマイナス成長となっている*3。こうした傾向は、企業がITのコスト構造にアジリティと柔軟性を組み込むための手段として、クラウドやSaaS(サービスとしてのソフトウェア)モデル、キャパシティオンデマンドなどのテクノロジーを受け入れるようになったことを示している。

対応策③:企業は、ITコストを削減するための取り組みを一つひとつ実行するだけに留まらず、ITのコスト構造を根本的に変えることによるコスト全体の変革を検討すべきである。そのためには、第三者から提供されるカスタマイズソリューションへの依存を低減し、持続的なコスト管理体制を構築して主導権を取り戻すことが求められる。これは、ベンダーロックインのリスクを最小限に抑えるためにソーシングアプローチを変更することに加えて、ペイパーユース方式(pay-per-usage)、キャパシティオンデマンド、IaaS / SaaSモデルなどを採用してコスト構造に柔軟性を持たせることで達成できる。また、ビジネスプロセスの標準化をさらに推進して必要なカスタマイズレベルに削減すると同時に、戦略的なITマネジメントを行うための社内IT体制への投資も求められるだろう。

図表5 アンチパターンと推奨される対応策3

おわりに

COVID-19の感染拡大によって引き起こされた現在の経済の不確実性を乗り切るためには、十分な金銭的バッファーを事業部門が確保する必要があり、そのための一時的なコスト削減は求められる。しかし、ITコストの変革は、長期的な視点で評価をしていく必要がある。また、COVID-19の感染拡大は、企業のDXへの取り組みを加速させているため、IT部門とその役割がこれまで以上に脚光を浴びており、コスト削減を目的とした消極的な立場から、事業上および戦略上の成長要因としての積極的立場へと軸足を移している。

IT部門にとっては、ITのコスト構造の根本的な改善、ITの部門横断的な管理、そしてCFOや事業部門との連携強化を実現すると同時に、第三者プロバイダーへの依存から脱却するチャンスが到来していると言える。これらの施策を併用することにより、現在の危機を乗り越えてもなお、ITのコスト構造を変革し続けることが可能になる。またこうした対応により、IT部門を戦略的に重要な事業上の要へと生まれ変わらせることができるだろう。

*1 : IDC, 2020. 『2020年の国内ユーザーを対象としたIDC調査: 業種・企業規模別のITインベントリの動向と課題』

*2 : PwC’s COVID-19 CFO Pulse Insights from global finance leaders on the crisis and response

*3 : Ministry of internal communications and affairs, 2019.” Information and communications in Japan White Paper 2019

*4 : みずほ銀行、2018. 産業のデジタル化がもたらす”日本型ITサービス”市場の構造変化

著者紹介

ヌー・リ

PwCコンサルティング、Strategy&のマネージャー。オーストラリア、香港、マレーシア、そして日本において10年以上にわたり、デジタルトランスフォーメーションの設計や導入に携わる。

さらに、銀行や保険業界の業界に対し、コアシステムのモダナイゼーション、戦略的なIT投資、ITのオペレーティングモデルの最適化および組織全体のデジタルトランスフォーメーションなどの支援に取り組んでいる。

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矢吹 大介

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