金融機関が金融商品のモノ売りビジネスから預かり資産ビジネスへと転換するには、経営陣のコミットに加えて一定の時間を費やす必要があることを前回解説しました。顧客、社員、株主の理解を得つつ長期的な改革に挑む必要はありますが、やり遂げれば安定性のある収益源の確保につながるでしょう。
一方、資産形成ビジネスがリテール事業の万能薬とはならない金融機関もありそうです。人口減少や少子高齢化が急速に進み、顧客基盤に厚みがない地域では、変革への投資に見合った効果が得られないためです。その場合は自社単独で対応するのではなく、フィンテックやIFA、証券会社などと提携して顧客ニーズに応える方法も検討するべきでしょう。
過去10年を振り返ると、低金利でリテール事業の苦戦が続いた国内金融機関は、収益を底上げするために事業の多角化に取り組みました。しかし、足元で日銀が長期金利の引き上げに踏み切ったことで状況は一変。ローン事業を中心とする従来型金融ビジネスに回帰するという選択肢が再浮上しつつあります。
こうした金利のある世界において、金融機関は改めて自社の事業ポートフォリオを見定め、どの領域で戦っていくのかを選ばなければなりません。過去10年で手を出した多角化事業は言うまでもなく、資産形成事業も選別対象に含まれます。ここで重要になるのが、当シリーズで強調してきた「顧客ニーズに立脚した事業モデルの選択と構築」です。すなわち、収益性を判断基準に顧客を見定め、その顧客ニーズを満たす価値を提供し、長期にわたる信頼関係を構築することです。
金利のある世界と資産運用立国の足音が同時に聞こえてきた2024年。大きなトレンドに振り回されることなく、自社の重要な顧客にとって提供すべき資産形成サービスを見極め、きちんと社内の改革も推進できるかが各金融機関の経営陣は問われています。そうした動きの拡大が、日本のウェルスマネジメント市場の重要な成長ドライバーとなるでしょう。
(2024年6月10日付、金融経済新聞)