資産規模と時間軸で区分する顧客戦略の重要性(第3回)

金融機関が資産形成事業を強化するには合理的なターゲット顧客戦略に加え、そのニーズに応じた提供価値や綿密なオペレーティングモデルの設計が必須です。

資産規模のセグメントごとに顧客の金融機関への期待は異なります。顧客当たりの収益性が高い富裕層は、人生計画が多様でNISA枠以上の資産を運用するため、包括的なアドバイスや高度な投資商品の紹介を求めがちです。このため金融機関は熟練した営業員や充実した人材育成制度、富裕層顧客を新規獲得するチャネル、顧客データ管理システムと分析能力、営業支援ツール、幅広い商品ポートフォリオを網羅的に備える必要があります。

資産規模5000万円未満のマスアフルエント層以下では、NISAに対応した分かりやすい商品群、効率的なオペレーション、デジタルマーケティング機能、ユーザーエクスペリエンスを重視したアプリ、コールセンターを活用した営業チームの構築が求められます。

ただ、資産形成は長期戦です。現時点の金融資産だけではなく、時間軸の概念も取り入れて顧客層を分析する視点が大切です。PwCコンサルティングの調査では世帯資産額が1億~2億円の層の6割弱は、運用開始時の資産が1000万円未満でした。20年以上かけて資産を育てたということです。定年退職や相続などさまざまなライフイベントから生じる金融資産の導線も考慮し、将来的にどの様な顧客に成長するのかを見定める目利き力が問われます。

先行する米国の金融機関は分析した顧客層を仕分けし、収益性を判断基準にした合理的な戦略と仕組みの構築で成長を遂げました。国内金融機関が資産形成事業を成長領域とするには、顧客の取りこぼしを防ぐためのメリハリのないビジネスモデルから脱却し、顧客を分類してフォーカスする対象を決め、提供価値や事業モデルを再構築する必要があります。「貯蓄から投資」の勢いが増しつつある今が転換点と言えそうです。

次回はあるべき資産形成事業の姿を実現するための成功要因を説明します。

(2024年5月27日付、金融経済新聞)

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