製薬企業のデジタル化

製薬企業のデジタル化: オペレーションで優位に立つ

エグゼクティブサマリー

デジタル革命によってビジネスや日常生活における既存秩序の破壊が続いているが、それを受け入れるペースも加速している。企業幹部は企業戦略の一環として、デジタル改革を推進している。 デジタル革命の第1の波は、技術基盤の活用と、顧客への理解を深めるためのデータ解析が中心だった。ライフサイエンス企業の場合のそれは、患者をよりよく理解し、患者との関わりを深め、新しい市場進出アプローチを策定することだった。だが、デジタル革命の第2の波は、オペレーションの改革を求めている。

製薬・ライフサイエンス業界はこれまで、製造・サプライチェーンの改善にデジタル技術を活用することに対し慎重な態度を取ってきたが、今ではその態度が足枷となっている。グローバリゼーションや巨大で複雑なサプライチェーン、価格とコストの圧力、個別化医療など、製薬業界の抱える課題は増える一方である。そうした課題への対応に、デジタル化は大きな可能性を秘めている。

デジタル技術を応用することで、企業はサプライチェーンオペレーションを大幅に可視化し、意思決定の質とスピードを高めることができる。デジタル化によってサプライチェーンを完全に統合し、業務プロセスの適応力と対応力を改善できる。その結果、計画の精度、製造効率と生産性、在庫レベル、サービスレベルが向上することになる。 

このチャンスを捉えるためには、バーチャルなサプライチェーンのコントロールツールや、クラウドベースの情報アーキテクチャー、デジタル対応の物理的サプライチェーンなどを含めた、デジタルサプライチェーンのエコシステムを構築しなければならない。こうした要素が統合され同期すると、人と機械と資源がひとつのサイバー・フィジカル・システムとして情報交換を行い、計画、調達、製造、配達といったサプライチェーンオペレーションの全段階で改善が見られるようになる。さらに、サイバーセキュリティなどのリスク要因に対処できる、しっかりした実行のロードマップも必要となる。

デジタル化は複雑な作業であり、サイバーセキュリティのようなリスク要因も懸念される。だが、すでにデジタル化を進めている他の産業を見ても分かるように、デジタル改革の中には競争優位をつかむチャンスが明らかにある。めまぐるしい技術の変化に対応すべく、製薬企業は今日から、オペレーションとサプライチェーンのデジタル化を最優先に進めていく必要がある。


製薬企業のオペレーションとサプライチェーンをデジタル化するチャンス

デジタル革命によってビジネスや日常生活における既存秩序の破壊が続いているが、それを受け入れるペースもまた加速している。今や世界のスマートフォンのユーザー数は10億人を突破し、2020年までに接続デバイス台数は500億にのぼると予想されている。さらに5年後には80%の企業が何らかの形のデジタル・バリュー・チェーンを持つようになると考えられている。

全般的に見ると、製薬・ライフサイエンス産業において技術の適用は非常に進んでいる。だがオペレーションに関していうと、これまで新技術の導入に極めて慎重であって、今なお従来のサプライチェーンと製造という枠組みに依存しているのが現状である。ひとつの大きな理由は、製薬企業の事業に対する規制環境にある。もうひとつは、利益率の高さを追求するために、これまでは新製品の開発と販売に重点が置かれ、オペレーションの最適化は後回しだったことである。

だが、産業動向の変化は製薬業界に大きな課題を突き付けている。特にオペレーションとサプライチェーンについての課題は増大している。以下はその例である。

  • 市場のグローバル化によって、企業は複数の地域にまたがって事業を展開するようになった。そのためSKUの数が増え続け、サプライチェーン管理、規制順守、ライフサイクル管理が複雑化している。
  • サプライチェーンのパートナー(サプライヤー、製造受託機関(CMO)、サードパーティーロジスティクス業者 (3PL)、卸売業者、物流業者など)の数がかつてないほど増加している。ネットワーク全体に関する統合プランがないため、リアルタイムの意思決定がなかなかできない。
  • 競争価格(それにともなうコスト)の圧力が高まり、オペレーションやサプライチェーン管理の効率化が求められている。現在、多くの企業が用いているネットワークは、煩雑で効率が悪く、需要供給のダイナミックな変化に対応しきれていない。
  • 製品ポートフォリオの複雑化と個別化医療の増加に対応するには、顧客やサプライチェーンの分類が必要であり、少量生産の効率化が企業の課題となっている。
  • 偽薬のリスクの増大により、バリューチェーンの透明性を高め、追跡できるようにし、企業がサプライ チェーンを最初から最後までモニターできるようにする必要がある。
  • 世界中で規制当局による監視が厳しくなっているため、管理の質を高め可視化を進める必要がある。企業は、輸送中の製品や世界各地の配送拠点にある製品のデータに、容易にアクセスできるようにしなければならない。

製薬企業がこうした課題に取り組む上で、デジタル化は非常に役立つ可能性がある。集合的に「インダストリー4.0」として知られる一連の新技術を通じて、どの産業においてもオペレーションの改善が図られている。これは特にインテリジェント工場、統合ITシステム、IOT、フレキシブルな高度統合製造システムなどを通じてスマートな分散生産をできるようにする、新しいツールやプロセスを指す言葉である。

「インダストリー4.0」とは第4次産業革命を表す言葉で、本来は資源、情報、モノ、人を結びつけ、「モノとサービスのインターネット化」を生み出すためにドイツ政府が導入した政策だった。(第1次、第2次、第3次の産業革命はそれぞれ、機械生産、大量生産、自動生産である。)

製薬産業にとって、デジタル化とインダストリー4.0はサプライチェーンのオペレーションを大きく変え、プロセスを根本から改善し、生産性を高める可能性がある。具体的にいうと、サプライチェーンのデジタル化によって、以下のようなことが可能になり、先に述べたいくつもの課題に取り組めるようになる。

デジタル化によって製薬工場のダウンタイムを30~40%減らすことができる

  • リアルタイムの可視化と意思決定の迅速化: サプライチェーンの随所に設置されたセンサーが継続的に情報を送信し、バリューチェーン全体からリアルタイムで洞察が得られるので、販売やオペレ ーションの責任者は、刻々と変化する状況に応じてダイナミックな決定を下せるようになる。それによってリードタイムも大幅に短縮され、数週間、あるいは数か月必要だったところが数日で済むようになる。また、計画の精度が高まるとともに、欠品が減り、最終的には患者の救命につながる。
  • オペレーションのプロセスとメンテナンスの向上: 製薬工場はダウンタイムの発生率が高いのが普通である。しかしデジタル化と解析によって、このダウンタイムを30~40%減らすことができ、総合設備効率(OEE)を大幅に高めることができる。革新的なソフトウエアソリューションや解析によって、データを統合し、情報を行動につながる指標に変えることができる。また機械間通信と機械学習ア ルゴリズムによって、一貫性のあるプロセス、予知保全、自動修正行動が可能になる。
  • エンド・ツー・エンドのサプライチェーン統合とネットワークの拡張性の向上: 製薬企業のサプライ チェーンは非常に複雑で、原材料(医療品原料から包装材まで)のサプライヤー、製造受託機関(CMO)、サードパーティーロジスティクス業者(3PL)、卸売業者、物流業者から、病院、薬局、調剤医師、患者まで、すべてが含まれている。企業はクラウドコンピューティングなどのデジタル化によって、グローバルな統合サプライチェーンのネットワークを展開することができる。クラウドベースのネットワークがあれば、使用しているITアーキテクチャーやERP(エンタープライズ・リソース・プランニング)システムが違う場合でも、すべての関係者をひとつの統合ネットワークで結びつけることができ、そのネットワークをさらに拡張することができる。
  • 製造効率と生産性の向上: 自動化とデジタル化は、製造業における充填、積込、補充、補給、トラブル 対応などの分野の効率を大きく高めることができる。3Dプリンティングのような技術革新によって、少量であっても費用効率の高い分散生産ができるようになる。高度なロボット工学と拡張現実(AR)は、人と機械の相互作用や自動化に大きな変革をもたらすことになるだろう。

要は、サプライチェーンのデジタル化は、製薬企業のサプライチェーンや業績を大幅に改善し、最終的には財務見通しを強化するのに効果があるということである。サプライチェーンのデジタル化がうまくいけば、それは製薬企業に競争優位を生み出す真の源泉になる可能性がある。


デジタル医薬品サプライチェーンのエコシステム

製薬業界のデジタル化はまだ初期段階にあり、「デジタルオペレーション」の本当の意味を模索している企業幹部は多い。デジタル化に関する不要な情報や誇大宣伝がはびこっているが、体系的な枠組みに欠けている。我々のクライアントへの調査と共同作業によると、デジタルサプライチェーンには同期する3つの層があり、それらが強固なエコシステムを形成していることが明らかになった。(図表1参照)


デジタルサプライチェーンのエコシステム


バーチャルなサプライチェーンのコントロールツール

第1層は、機動性があり、他と連携でき、ダイナミックな意思決定のできるインターフェースを持ったバーチャルツールである。サプライチェーンマネジャーはそれを使って、サプライチェーン全体のオペレーションを監督・管理することができる。原料サプライヤー、CMO、工場、倉庫、流通業者、物流パートナー、病院/薬局/医師など、サプライチェーンのあらゆる要素や拠点のデータは、データ解析ツールで処理され、コンピューターや携帯デバイスからアクセスできる。マネジャーは産業向けアプリケーションと最適化ツールを使ってデータを解析し、オペレーションとサプライチェーンのあらゆる面―例えば、需要供給状況、在庫量、輸送中の製品、工場・ライン・個々の機械ごとの製造効率、稼働率、その他多くの基準―に関する洞察を導き、リアルタイムで決定を下すことができる。

こうしたツールを随所に配置しておけば、マネジャーはどんなサプライチェーンのパラメーターにも完全にアクセスでき、オペレーションの透明性を保つことができる。また製品、工場、生産ライン、サプライヤー、あるいはビジネスパートナー別の比較もできる。同様に、企業内部だけでなく、相互接続しているサプライチェーンのすべての要素について、リスクの影響度を分析し、予定外の出来事への対応方法について助言を受けたり、現在のプロセスをさらに改善する方法を見つけたりもできる。しかもそれをすべて携帯端末で行えるようになるのである。

これらのツールは解析結果をわかりやすい画像で示してくれるので、マネジャーはデータとやりとりし、リアルタイムで決定を下すことができる。それだけでなく、すぐに情報を知らせてくれるので、オペレーションの監視や発生する恐れのある問題に対応するのにも役立つ。

クラウドベースの情報アーキテクチャー

第2層は情報基盤、すなわちクラウドベースのITアーキテクチャーである。このアーキテクチャーは、サプライチェーンのあらゆる拠点を網羅した物理的ネットワークから送られる、さまざまな種類のデータやシステムを迅速に計算することができる。また、物的資産やサプライチェーンのパートナーのネットワークにおいても、加える、まとめる、削除するなどの管理を柔軟に行えるようになる。さらに、クラウドコンピューティングはさまざまな拠点の既存のERPシステムの上に構築できるため、統合や拡張が容易にできる。(現在は、情報をデータ格納庫に隔離する方法が行われているが、そういうやり方ではなく)クラウド内で全データを収集、翻訳、保管するため、複数のデータベースを通じて、いつでも誰でもアクセスすることが可能になる。

デジタル対応の物理的サプライチェーン

第3層は、実際の物理的サプライチェーンである。これにはあらゆる要素、デバイス、製造ユニット、保管スペース、物流などが含まれる。現在これらの要素は、システムの「スマート」構成部品としてデジタル対応が可能であり、センサーやRFIDタグ、無線通信、その他の技術によって、常にリアルタイムデータを提供・交換し、こうして第1層、第2層とともに医薬品サプライチェーンのIoTを機能させているのである。

何千ものセンサーを備えた製造ラインを持ったスマート工場を考えてみよう。これらのセンサーによって作動状況が追跡報告されるため、調整を逐次行うことができる。機械間通信や機械学習アルゴリズムによって、高度に統合された製造プロセスや自動修正行動が可能になる。倉庫では、スキャン機能のあるドローン、梱包ロボット、自動誘導車両などが、高度な自動作業を行う。材料や製品はネットワークを通じて位置情報を発信し、スマート機能のついた病院や薬局の収納キャビネットや冷蔵庫は、消費データを調べて補給の必要があれば報告する。

3つの層が一体となって同期的に機能すると、サイバー・フィジカル・システムが形成され、人間、機械、資源がソーシャルネットワークのようにコミュニケーションを行う。これは、現在の細かく分断された縦割りのサプライチェーンから、真に統合されたサプライチェーンへと、その構造を根本的に変えてしまうものである。企業は、計画、調達、製造、配送というオペレーションのバリューチェーンのすべての分野で、革新的なアプリケーションを実行することが可能になる。(図表2参照)。


デジタル医薬品事業活動アプリケーション


計画 : デジタル対応の計画作成

近年、ERPシステムやそれ以外の新しいツールのおかげで、製薬も含めたあらゆる産業の計画作成能力が大幅に向上した。だが企業は今でも、ネットワーク全体でエンド・ツー・エンドの可視化を行うことには苦慮している。しかもサプライチェーンのパートナー間の可視化となると、接続されていない、あるいは種類の違うシステムだったり、データの互換性がなかったり、またはその他の問題があったりして、ますます難しくなる。クラウドプラットフォームとデータ解析アプリケーションを使って、計画作成プロセスをデジタル化すれば、サプライヤー、製造業者、販売・物流パートナー、さらには病院や薬局といった顧客の間で、誠に共同的な計画作成が可能になる。サプライチェーンのさまざまなパートナーが、どんな種類の計画作成システム、あるいはERPシステムを使っていようと、クラウドベースのアーキテクチャーならすべてを統合することができる。さらに、データ管理プロセスによって「信頼できる唯一の情報源」が生み出されるのである。

また、需要計画を作成するのに、まったく新しい情報源からの情報を活用した新しいアプローチを用いている企業もある。例えば病院のスマート冷蔵庫なら、RFIDタグのついた薬品パッケージやスマート薬瓶が、薬品の使用に関する情報を送信し、それを需要計画の作成に活用することができる。あるいはインターネットユーザーのデータを利用して、需要を把握することも可能である。

デジタルサプライチェーンであれば、ネットワーク内のどの拠点についても、あらゆるデータのパラメーターをリアルタイムでモニタリングできる。そのアプリケーションは、日常的な計画の作成(生産計画や、自動補給も含めた在庫の管理と最適化など)から、サプライチェーン内のある特定の要素だけでなく、サプライチェーン全体の複雑なシナリオやリスク評価を行うものまで、さまざまな種類がある。

調達 : デジタルソーシング(選定)と調達

ソーシング(選定)と調達プロセスのデジタル化は、企業とサプライヤーの相互関係のあり方を変えるだけでなく、社内におけるソーシング管理関連プロセスも変えてしまう。新しい調達アプリケーションやソフトは、タッチレスの注文処理、警告、携帯による発注書の承認、インボイスの自動作成など、調達の円滑化に貢献している。またこうしたソリューションは―通常クラウドベースで―支出関連の解析を行い、調達関連のすべての業務に関する貴重な洞察を提供し、それを簡単なナビ機能を持った指標表示に合成して、より賢明な調達の決定が下せるようにしている。

製造 : デジタル製造

「インダストリアル・インターネット」―第4次産業革命と考えられている―には、生産をもっとスマート化し分散化できるさまざまな技術が含まれている。製薬企業の幹部は、それで何ができるようになるのかを伺い知りたければ、こうした技術をずいぶん前から適用している他の産業(電子機器産業や自動車メーカーなど)を見るとよい。

例えば、「デジタルファクトリー」製品を展開しているシーメンスなどの企業は、多額を投じて、他の多くの業界の顧客向けにデジタル生産ソリューションを提供している。例えば、一般の製造システムとは別の、ダイナミックでフレキシブルな生産ラインを装備した、完全にフレキシブルな高度統合製造システムもそのひとつである。同様に、GEの「ブリリアント・マニュファクチャリング」パッケージソフトは、GEが自社生産にも使用し、他社にも販売しているソフトウエアプラットフォームで、リアルタイム解析、予知保全やボトルネック特定などのプロセスモニタリング、センサー対応の自動化などによって、製造の最適化をはかるものである。スマート工場では、RFIDチップが生産工程に統合されたキャリアを誘導し、個々のユニットに単独かつ自由に移動し、補充し、蓋をし、ラベルを貼るなどの機能を実行する。スマート工場では、ソーシャルネットワークのようにコミュニケーションを行うサイバー・フィジカル・システムによって、人間、機械、資源を結びつけることができる。(GE自体は今年、機械と原料との接続率を400%に高める予定である。)

つまり、製薬企業は生産のデジタル化によってOEE(総合設備効率)を高め、処理能力と品質の向上をはかり、機械のダウンタイムを減らすことができるということである。また近い将来、連続生産、ロボット工学、医薬品の付加製造(3Dプリンティングなど)などを含む新しい生産技術が登場し、規模の大きさによって左右され、複雑化する状況と個別化医療に悩まされている現在の製薬環境の壁を打ち破ってくれるものと期待されている。これは科学空想小説にすぎないという者もいるが、2015年には初めての3Dプリンティングによる医薬品がFDAによって承認されている。

昨年、初めての3Dプリンティングによる医薬品が食品医薬品局(FDA)によって承認された

配送 : スマート倉庫と流通

今日の倉庫業務はまだまだ手作業が多く労働集約的だが、それが変わる日も近い。デジタルイノベーションはすでに倉庫業や流通業に登場しており、物流部門ではとりわけそれが著しい。RFIDタグの最先端ユーザーの代表例はアマゾンである。同社のタグリーダーは、顧客の欲しい製品を見つけ、箱詰めし、出荷の準備をする。そこに人の手は介在せず、最後に注文と梱包が正しいことを確認するのみである。同様に、革新的に技術を用い、ほぼ完全に自動化しているオンラインの通販薬局も存在する。

より広い視野でみると、(偽薬問題の増加に対応して実施された)製品のシリアル化と追跡の規制により、今後企業とサプライチェーンのパートナーは新しいデジタル機能―バーコードやRFIDタグなど―を確立し、原料の流通管理を改善し、患者の安全を確保することを義務付けられるだろう。しかし、こうした技術やデータ機能の利用はそれだけにとどまらない。むしろ企業は1歩進んで、サプライチェーンの業績を高めるためにこの技術を活用すべきである。例えば、倉庫でRFIDタグを使えば、自動ピッキングシステムを円滑に作動させることができ、スキャン機能を持ったドローンは在庫の情報提供に一役買うことができる。流通では、病院内のRFIDタグのついた薬箱や収納キャビネットが生み出すデータで、医薬品在庫を自動的に補給することができるようになる。

また、ドローン技術はその数えきれないほどの利点をもって現在の卸売りから小売りまでの流通ネットワークを補完できる可能性を秘めている。例えば、配送困難地域への配達が今より楽に、そして経済的になる。倉庫から消費者へ直接出荷できるようにもなる。また、定期的な投与が必要な医薬品を、所定のスケジュールに従って顧客の自宅まで配達することも可能になる。

グローバルな輸送会社は、医薬品を遠隔地へ配達するのにドローンを使う実験を開始している。 ルワンダでは、新興企業がドローンを使って病院へ医薬品を配達する実験を行っている。またスイスでは、マターネットが、自律的に飛行経路を決めるドローンを使って医薬品を配達し、配達の難しい地域で医療検体を回収している。


成功要因とリスク

自社のオペレーションとサプライチェーンをデジタル化したいと考える製薬企業は、複雑な課題に直面している。ただ社内で独自のソリューションを開発すればいいわけではなく、サプライチェーンに参加している多くの外部パートナーとも整合性がなければならない。しかも技術は急速に変化し続けている。この課題に対応するため、企業はごくオープンな姿勢で、凝り固まった働き方を打破し、何十年も行われてきたおなじみのプロセスに慣れ過ぎた組織や従業員からの抵抗に打ち勝たなければならない。また、多くの雑音をはねのけ、リスクを管理しなければならない。さらに、規制要件があるために、状況はいっそう複雑化している。企業が新たな要件を守らねばならないというだけではなく、規制当局もダイナミックな環境の中で、素早く学習していかねばならないのである。

この道のりを踏破するには、カギとなる成功要因がいくつかある、企業はまず、エコシステムと進化する技術について、明確に把握しておく必要がある。また部署の枠を超えた専門家チームや必要な資本などの適材を適所に配置し、必要な投資ができるようにしておかねばならない。企業が完全統合されたサプライチェーンのエンド・ツー・エンドなソリューションを展開したいのであれば、パートナーとの協働は不可欠である。さらに、これこそ何よりも重要なことだが、企業はこれが長い道のりであることを認識し、実験的な考え方や実践による学習なども含めて、いくつかのプロジェクトを優先的に行わねばならないということである。

オペレーションのデジタル化の最大の懸念はサイバーセキュリティである

また製薬企業は、いくつかの大きなリスクや懸念にも対応する必要がある。私たちのクライアントによると、オペレーションのデジタル化の最大の懸念はサイバーセキュリティだという。サイバー攻撃の目標として絶えず攻撃を受けている金融部門と同じく、製薬業界の幹部は、デジタル化した物的資産や機械類がハッカーの支配下に置かれるのではないかと恐れている。同様に、クラウド上の機密データ(需要、供給、価格、契約情報など)安全を保障することは非常に重要な基本要件であり、いくら強調してもし過ぎることはない。

また、技術がこれほど多様化し、開発サイクルが急速に進むと、業界に一定の標準を設け、異なるシステムやデバイスどうしの相互運用性を確保することが必要になる。特に、政策立案者や業界団体は、一律の業界基準を提唱し、データの安全性とデータ保護に関する効率的な規則を推進することで、こうした課題の解決に一役買うことができる。


開始方法

競合他社より有利なスタートを切るには、製薬業務担当幹部は今日から直ちにデジタル化プロセスを開始するべきである。そのためには、次の体系的な4段階のアプローチをお勧めしたい。(図表3参照)


製薬企業におけるサプライチェーンのデジタル化に向けたロードマップ


  1. 第1に、中核となるデジタルオペレーションチームは、テクノロジーの状況を偵察し、その可能性とデジタルサプライチェーンのエコシステム全体についての理解を深める。
  2. 今後3~5年間の企業の総合的なデジタルオペレーション戦略を定める(企業の総合戦略とその特徴的な機能との整合性を持たせる)。特定の技術の持つ潜在能力を評価し、その間で優先順位をつけ、実際の事業も含めて、スタート地点を定める。
  3. プロセス、組織、技術要素などを含めて、特定した優先分野のソリューションをデザインし、実験プロジェクトを開始する。
  4. 成功したプロジェクトの規模を拡大し、企業全体で展開する。同時に、社内で必要なデジタル機能を開発する。

結論

デジタル化は製薬企業のオペレーションを根本的に転換し、業績を大幅に改善する可能性を持っている。製薬企業はすぐさまこの取り組みを開始し、オペレーションやサプライチェーンのデジタル化に向けた道のりに歩みを進め、今後3~5年間の戦略とロードマップの策定に取り掛かるべきである。ここで主導権を握った企業は、持続的な競争優位を手に入れ、いっそう機敏で費用対効果が高く、支配力のあるオペレーションができるようになり、最終的には患者によりよい治療を提供できることになる。


PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

"Digitization in pharma: Gaining an edge in operations”, October 19, 2016。