自動車部品メーカーに求められるもの

自動車の部品、組み立て品、システムを供給している企業は、販売地域の変化や技術的な既存秩序の破壊に順応していく中で、製品ポートフォリオの再評価をしなくてはならない。

2008年から2009年にかけて米国では自動車メーカーに救済措置がとられ、物議をかもした。事情に詳しくなければ、これは行き詰まった米国自動車産業の大手2社、すなわちゼネラルモーターズ社とクライスラー社の救済だけが目的だったのだと思われても仕方がない(デトロイトの大手3社であるデトロイトスリーのうち3番目のフォード社は倒産を免れた)。だが実は、総額800億ドルの融資と資金援助は、自動車メーカーを中心に集まっている膨大な数の部品メーカーが生き残れるようにするという目的もあった。米国自動車研究センター(CAR)の2015年の報告書によると、こうした部品メーカーはあまり注目されないが、その雇用は米国の車両製造業の雇用の約60%を占め、その生産額がGDPに占める割合は1.5%にも上る。

救済措置がとられたにもかかわらず、米国の自動車部品メーカーの4分の1以上が倒産し、何十万もの雇用者が職を失った。だが生き残った部品メーカーは、以前より強くなって苦境から立ち直った。乗用車の売り上げは、2010年には1,190万台だったのが、2015年には1,700万台以上に増加し(CAGRは10%)、それにともなって部品メーカーの収益性も上昇した。(図表1参照)


北米小型乗用車のアセンブリー市場


それから10年もたたずに、自動車産業とその部品メーカーは現在、また大きな変革期を迎えて、生き残る努力を強いられている。しかし今回の崩壊は内側から来るものである。構造変化によって利益率の計算方法が変化し、最終的にどの企業が優位を保ち続けるのか、どの企業が適応できなくなるのか、どの企業が完全に姿を消してしまうのかが予測できなくなったのである。

部品メーカーは3つの重大な課題に直面している。第1の、そして最も差し迫った課題は、売り上げの世界地図が描き変えられつつあるということである。PwC Autofactsによると、今後数年間の売上台数成長率の3分の2以上は、中国、インド、東南アジアといった新興国や新興地域が占めることになりそうである。

そのため、これまで数十年間、北米やヨーロッパを業務活動の中心地として重視してきた自動車メーカー(OEMとしても知られている)やその部品メーカーは、今後は製品戦略、組織構造、さらには研究開発センター、工場、アフターサービスオペレーションの場所を考え直さなければならない。第2に、自動車産業が排ガス規制や燃費規制の順守に努める中、自動車メーカーは、費用対効果の高い排ガス制御や代替的パワートレイン技術の迅速な開発については、すっかり部品メーカーに頼り切るようになった。最後に、今の自動車はよりいっそうデジタル的に繋がり、自動化され、そしてドライバーと相互作用しているため、OEMは自動駐車機能、自動ナビゲーション機能、ウェブベースの娯楽情報システムなど、ドライバーがもっと楽しく安全に過ごせる装置やソフトウエアを求めている。

これらのいずれの課題についても、既存のメーカーはさらに集中的な投資を行う必要があり、それと同時に、自動車産業以外の新旧のテクノロジー企業や、中国・インドなどの低コスト地域からの新参入企業をはじめとする新しい競合相手に対抗しなければならない。したがって、部品メーカーは自社のポートフォリオポジションについて計画的かつ熟慮しながら、必要な投資資金の調達と成長のために、コスト削減や生産性向上の方法を見つける必要がある。部品メーカーは、自動車産業エコシステムの中で収益性の高い場所を維持し、競合相手に対して高い参入障壁を保つために、自社や自社製品を差別化する方法を学ばなければならない。


ポートフォリオの再検討

ポートフォリオ管理は、最大の価値創出手段のひとつである。前述のダイナミクスをふまえて、部品メーカーは自社のポートフォリオを積極的に見直さなければならない。なぜなら、多くの製品カテゴリーの基本的な収益性が大きく変化し、一部のラインが他のラインより魅力的になることもあるからである。(図表2参照)


長期的な価値創出の可能性


一般に、製品部門の今後の価値創出は、どれほど技術革新の可能性があるかに応じて算出される。しかし管理の行き届いた企業でも、自社のポートフォリオのコモディティ化が進み、競合相手からの攻撃を受けることがある。そして企業は、何もしないという選択肢はないことを悟るだろう。

例えば、座席やエアコンなどの自動車インテリアは、現在、車両の価値の約17%を占めているが、技術革新の可能性が非常に限られており、低コストの競争相手からの圧力の高まりに直面しているため、2025年までにその価値は14%に低下すると思われる。それとは対照的なのがパワートレインで、これは排出ガス制御機能の進歩を促すとともに、非内燃機関の持続的な開発も推進するため、全体の価値に占める割合は2%ポイント拡大するものと見込まれる。全体の価値に占める割合が最も拡大するのは、コネクティビティや自動運転機能に必要な電子機器で、現在は17%だが2025年に23%に増えると思われる。

こうした価値の変化に対応するため、部品メーカーはポートフォリオを再調整し、どの部品が最大の利益を上げられるか、どの分野で競合相手を上回ることができるか、どのカテゴリーを手放すべきかを判断しなくてはならない。このようなポートフォリオ評価を行う際には、市場における企業の最大の強みと独自の特徴をはっきり見極め、それを高めることができるように、ケイパビリティの視点で見る必要がある。企業は(a)収益性の高いニッチを明確にし、それを守ることができるか、(b)他の事業部門の活動を補完するため、一定のプレゼンスを保つ必要があるか、ということを自問しなければならない。そして、これらの質問に対する答えが「ノー」である場合は、適切に管理しながら投資をやめるか、またはそのセグメントを自社以上に評価するバイヤーを見つけるかという決定を下すことが肝要である。

このようなポートフォリオ評価を行うと、自社の中核となるケイパビリティは、その価値が消失しつつある自動車部品を作ることしかない、という結論に達する部品メーカーも出てくるだろう。こういう場合は、組織の知識や経験を生かして、そのセグメントの収益性を高めることが可能かどうか、または、その部門を放棄する方がよいのかについて、厳しい判断を下すことが必要になる。あるいは、もっと積極的なM&A戦略によって、部品メーカーの独特なケイパビリティを生かせるターゲットに焦点を絞ることもできる。Strategy&の最近の調査によると、後者のアプローチの方が、成功率が最大となる場合が多い。

ジョンソン・コントロールズ(JCI)は、自動車の座席やインテリアの事業で長い間支配的地位を占めてきた。またこのセグメントは長年、同社の売り上げ全体の半分以上を占めていた。ジョンソン・コントロールズにはスケールメリットも、この分野に関する深い知識もあったが、座席やインテリアの利益率の見通しは低かったため、自社のポートフォリオの範囲を見直すことにし、インテリア事業の70%を2014年に中国万向集団に売却した。さらに2016年初めには、インテリア事業の残りの株式と座席事業をスピンオフし、アディエントという新規上場会社を設立すると発表した。 

代替案としては、電子機器などの革新技術分野では好位置に付けているが、新しい進歩についていくだけの技術力に欠けている企業の場合である。こういう企業には、画期的な特徴や機能にフォーカスするため、もっと素早い動きをするパートナーを買収するというのが正しい選択かもしれない。

2009年の倒産保護措置からよみがえったデルファイは、冷暖房など収益性の低いセグメントを徐々に手放し、ナビゲーションシステムやコネクティビティ、あるいは水素自動車用の燃料電池といった技術に軸足を置くようになった。技術革新力をさらに高めるために、トゥーラ(Tula)、クアナジー(Quanergy)、オットーマティカ(Ottomatika)、ヘラマンタイトン(HellermannTyton)、コントロー ル・テック(Contol-Tec)などのソフトウエアやセンサー技術企業に投資または買収を行っている。


戦略と業績

実際問題として、ポートフォリオ評価には主要な2つの面がある。ひとつは戦略的重要性、もうひとつは財務業績である。(図表3参照)


ポートフォリオの評価


戦略的(すなわち中核的)製品は維持し、向上させる必要がある。どれが戦略的製品かを見極めるのに便利な方法は、それが企業に不可欠なケイパビリティに根差したものかどうかを考えてみるとよい。すなわち、こうした製品を他企業より効率よく生産し、市場シェアの維持拡大のために継続的改善を怠らず、補完的な新製品開発のための梃子を提供してくれる人材、プロセス、システムに根差したものかどうかである。それに相当するなら、自動車産業の描く構図の変化にともない、こうした製品を新市場へ拡大することができる。

ポートフォリオの再評価の結果、補助的な製品――部品メーカーの主要なケイパビリティや優良な製品ラインからは切り離された付属の部品や組み立て品――を手放す企業があるかもしれない。あるいは別の企業が独自のポートフォリオ分析を行い、ラインを効率的かつ大規模なスケールで管理する技術があるので、その企業にとってはこうした補助製品こそ真の価値があると判断することがあるかもしれない。両社のタイミングが合えば、部品メーカーは売却によって大きな利益を上げることも可能である。.

こうしたポートフォリオの再調整を、過去10年にわたって上手に行ってきたのがイートン・コーポレーションである。2006年にイートン社はトランスミッションとエンジン制御製品(補助的な事業)を売却し、それで得た資金を電子事業(中核事業だが業績は低迷)に再投資した。2012年までに、イートン・コーポレーションは20社以上を買収し、電子部品を扱うケイパビリティと製品ポートフォリオを強化した。この戦略のおかげもあって、同社の株主リターンは2014年までにS&P500社のリターンを60%上回っている。(図表4参照)


イートン・コーポレーションとS&P500社の株主総利回り(TSR)


部品メーカーが取り組まねばならない最も重要な戦略的問題は、その企業がここにとどまろうと決意したセグメントや市場に必要なケイパビリティを、自前で開発できるのか、それとも提携や買収によって獲得せねばならないのかどうか、ということである。例えば製品ライフサイクルの管理のような真に差別化できるケイパビリティは、社内で構築するか、あるいは他社から入手できる場合は、買収するかどちらかである。M&Aというオプション(合弁事業も含む)が望ましい場合が多い。なぜならそれは、長期間必要になるかもしれないケイパビリティ開発プロセスを短縮してくれるからで、部品メーカーがそのケイパビリティを自由自在に使いこなせない場合は特にそうである。スピーディーな市場投入が強く求められる今、企業は提携によってケイパビリティを獲得することに重点を置くべきである。ケイパビリティの管理が不可欠な場合は、その必要なスキルを獲得するため迅速に行動しなくてはならない。

自動車部品メーカーはこの10年の間に、金融危機の暗黒時代から見事に立ち直った。今日、部品メーカーは、エキサイティングだが非常に難しい変化の崖っぷちに立っている。今後の10年間に、新市場の荒波をくぐり抜け、安全性、コネクティビティ、パワートレイン、排出ガス制御などの難しい飛躍的進歩を実現し、厳しい競争を切り抜けていかねばならない。将来に目を向けるとき、賢明な部品メーカーは自社のケイパビリティや、付加価値をもたらす製品に合わせて、ポートフォリオの調整を行う。そのようなメーカーは、さらに活動を本格化させ、首尾一貫したビジネスモデルの結果を享受できるが、それができないメーカーは、やがて成長が行き詰まるかもしれない。


PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

“The Demands on Auto Suppliers”, November 9, 2016。