デジタル化への変革のリーダー

デジタル化への変革のリーダー: 2015年度CDO(最高デジタル責任者)についての調査

日本語版に向けて(唐木 明子)

PwCの戦略コンサルティングサービスを担うStrategy&が初めて行ったCDO(Chief DigitalOfficer、最高デジタル責任者)調査の結果、対象となった日本企業において、CDO職を設置している企業はなかった。CDOとは、国内で話題になりつつあるチーフ・データ・オフィサーではない。デジタル社会への自社の変革への対応をより広く担う、チーフ・デジタル・オフィサー、である。詳細は本文にあるが、CDOとは、自社のデジタル化に対応する戦略の立案推進、データ・システム対応、そして、それに必須となるケイパビリティの構築に責任を持つという、相当に大きなミッションを持つ役職である。

誤解を避けるために明記するが、本調査の結果は、日本企業がデジタル化をないがしろにしていると示唆するものではない。CDOをおいていない企業にはいくつかの類型がある。(A)デジタル化に既に相応に対応している企業、(B)デジタル化対応の重要性と困難さがきわめて深刻に認識されている企業、そして(C)デジタル化の波に乗り遅れている企業。日本企業はというと、各社デジタル化を急務として取り組みを進めている。本調査で対象としているCDOは、日本企業においてはその重要性から、CEOが直接手掛けているケースが多いのではないだろうか。

デジタル化において、国内企業も海外企業も共通して言えるのは、事業規模や組織の規模が大きければ大きいほど、チャレンジが大きいということである。新興のインターネット企業ははじめからデジタル化を前提に事業を組み立てているため、「変革」の必要は少ない。一方で、長い伝統を持つ大企業においては長年かけて蓄積された組織、文化、システム、データなどにより、相当の変革を覚悟しない限り、デジタル化の推進は困難である。

一方、日本企業独自とも思われる難しさもいくつかあげられる。たとえば、(1)属人的な能力への依存度合いの高さ、(2)「失敗」が許されない文化、(3)育成システムにおけるジェネラリストの育成である。

まず、日本企業はとかく期待の高さの裏返しとして現場を「甘やかしてはいけない」と本部があえて現場の考える余地を残すケースが多い。デジタル化の一つの流れは、データ示唆に従ったオペレーションに連なり、それは現場力と相矛盾するようにも見える。また、現場での判断材料を多く与えるためのデジタル化と定義づけた場合ですら、現場の目利き力育成に反しかねないという懸念が呈される。

また、デジタル化は、データのデジタル化、集約化、さらには、システムの再構築を伴うものである。日本のシステムは非常に堅固で確実さが求められる。システム障害で企業の経営陣が社会に向けてお詫びする姿をニュースで見ることもままある。システムと連なるデジタル化は極めてハードルが高いということになる。

最後のジェネラリスト主義は、短期的なデジタル化に影響を及ぼす、必要なデータの収集、クレンジング、分析と示唆出しに習熟している人材が少なくなるためである。一方、データの使い方において多様な経験を有する人材が多くいることで多面的な見方ができるということは有利であろう。

かように難しさがあるため、国内企業のデジタル化の推進においては、以下の3つが取り組みを比較的容易に進められるポイントと思われる。(1)意識、体制、働き方すべてが変わり得る大きな変革を 行うべくトップダウンの取り組みとする、(2)必要なケイパビリティを有する社外人材と社内を知り尽くした人材を巧妙に組み合わせて取り組みを推進する、(3)小さくクイックウィンから初めてモメンタムをつくる。

日本企業が、この大きなデジタル化を克服し、先頭に立ち、世界の人々の暮らしをよりよくするための変革の先頭に立つことを願ってやまない。


エグゼクティブ・サマリー

デジタル革命は急速に進行しており、さまざまな業界での大規模な破壊と変革を加速させている。デジタル化の重要性を示す主な指標が、最高デジタル責任者(Chief Digital Officer-CDO)という新しい役職の出現である。Strategy&の初のCDOに関する年次調査によると、CDOのポストを設置した企業の数こそ世界でわずか6%といまだに少ないものの、その地位は明らかに急速に高まっている。世界最大手の企業1,500社について、報告書や記録、公的に入手可能な情報を通じて調査した結果(P.7図表2参照)、メディア、エンターテインメント、食品・飲料、消費財など消費者に直接向き合う業界ほど、CDO台頭の最先端にいることが分かった。さらに、事業が複雑でデジタル化推進の取り組みを強化していることから、大手企業ほどその傾向が強いことも分かった。地域別では、欧州の企業が、ほかの地域より速いペースでCDO職を設置していることも分かった。

では当のCDOとはどのような人たちなのか?40%以上がC-スイート(Chief=最高責任者の肩書を持つ人々)のメンバーであり、経歴は多様だが、最も多いのはマーケティング・セールス部門、次に多いのがテクノロジー部門出身者である。このことは、企業あるいはCDO自身のCDOの役割の定義が多様であること、さらにデジタルのニーズや変革のペースが、企業によって大きく異なることを示している。現在のCDOにとって「柔軟性」こそが最も重要な成功要因であろう。急速に変化する環境に適応しつつ、企業の事業目標との緊密な整合性を保てるCDOこそが「デジタル改革を完全に実現させるためのリーダー」たりうるのである。


新たな需要、新たな役割

世界人口の4分の1以上が既にスマートフォンを所有している。2014年、世界の携帯データ通信量は月間2.5エグザバイト(=25億ギガバイト)に達した。これは、2000年におけるインターネット通信総量の30倍である。利用者が、これほどのペースで接続して交流し、データを消費していることを考えれば、ほとんど全ての業界の企業が、可及的速やかにCDO、または同等の人材を雇い入れているのも不思議ではない。その目的は、インターネットや携帯上でのインタラクションを活用して、可能な限り最高の顧客体験を創造すること、社員の業務や、企業が製品・サービスを提供する方法を完全に変革することである。

これほどまでに接続性が高まったことで、企業が消費者、法人顧客、取引先や仕入先へと到達する方法も、必然的に変わりつつある。実質的に全ての業界で、企業は今や、デジタル革命が競合環境をどれほど大きく変えたかを認識し、顧客との間だけでなく社内のやり取りにおいても、この素晴らしき新世界へ参入する準備をしている。究極的にはデジタル化の要請によって、企業は事実上全ての事業を変革せざるを得ないであろう。

そのような背景のもと、かつてないほど多くの企業でCDOが台頭してきている。デジタル時代に適応できるよう企業を変革し、業務やセールス・マーケティング、システム、生産などの各部門を監督するという壮大かつ部門横断的な仕事、さらには社内の企業風土改革、場合によっては、企業の製品やサービス自体を変えることも、CDOの職務に含まれる。これは非常に難しい注文である。特に、過去にCDOとしての経験や実績を積んだ上で就任できる人が、まだほとんどいない状況だからだ。CDOという職位自体が、新たに出現し始めたばかりなのである。CDOという重役ポジションは、顧客のために包括的なデジタル経験を開発する一方、そのような取り組みをサポートする内部のケイパビリティも同時に開発するという二つの役目を担っている。しかも、そのために必要な大規模な投資を管理する責任も負う。

Strategy&の調査によると、今後5年間の設備投資の50%もの額が、デジタルへの移行に費やされる見通しである。CMOやCIO、 最近では最高データ責任者(Chief Data Officer)も含む、ビッグデータの収集・分析業務のマネジメントを主な職責とするほかの「C」で始まる役員とは異なり、CDOとは「完全にデジタルな企業への変革を実現するために必要な責任と権限の両方を与えられた役員」と私たちは定義する。

私たちの考えるCDOの役割とは、企業の内部と外部の両方でデジタル・イノベーションを実現することである。すなわち、顧客、取引先、仕入先などの外部とのやり取り、それと同時に、データ収集と分析、デジタル技術による効率改善、デジタル時代に企業が競争し勝ち残れるよう組織と企業文化を内部から改革することである。責任範囲がこれほど多岐にわたり、デジタル面での成熟度において企業間でばらつきがあるため、CDOという職位に求められる最大の要件が柔軟性、すなわち与えられた状況に速やかに適応できる能力であること、そして現職のCDOたちが極めて多様な部門の出身者であることも驚きではない。

今回、Strategy&は、世界の上場・私有企業のうち売上高上位1,500社を対象に企業各種報告書、文献、その他メディア報道など公的に入手可能な情報を調査して、CDOを任命している企業は何社か、 CDOはどのような経歴を持つ人たちで、企業内序列の中でどのような立場を占めているかを分析した。また、複数の業種の4名のCDOにインタビューして使命や目標について聞き、どのように実行しているか詳細にヒアリングを行った。調査の結果、CDOやそれに相当する職位の人材を雇っている企業は、わずか6%と少数ではあるが、その数は明らかに急増しており、CDOの職責として期待される業務内容も、会社によって大きく異なるものの、極めて幅広いものへと拡張してきたことが分かった。

デジタル成熟度が 低い企業は、一貫した デジタル戦略を 策定し実施する上級役員 を1名雇い入れることで、明らかに 利益を得るであろう。

CDOという職位自体が生まれてから間もないため、CDOのいる企業が、いない企業に比べて業績が良いかどうかを判断するのは、現時点ではまだ不可能である。実際、組織の最上層でデジタル改革を監督する役員が一人もいない状態で、成功を収めている企業もある。但し、そのような企業の大半は、デジタル成熟度が既に相当高い企業である。デジタル成熟度が低い企業は、一貫したデジタル戦略を策定し実施する上級役員を1名雇い入れることで、明らかに利益を得ると私たちは考える。

本調査の目的は、どのような種類の企業がCDOを招聘しているのか、それはどんな人たちなのか、職務にどのように取り組んでいるのかを把握すること、さらに、大きく異なる複数の企業のCDOが、デジタル化による要請に具体的にどう対応しているかを特定することである。


どのような企業がCDOを招聘しているか?

世界の最上位1,500社の中で、 CDOまたはそれに相当する職位を既に設けている企業は、わずか6%に過ぎないという事実は、驚くべき発見でもあった。マスメディアや消費者からもデジタル化に熱い注目が集まっているにもかかわらず、大半の企業がいまだに、企業全体のデジタル化推進活動の統括権限を一人の役員に与える必要性を感じていない。これらの企業ではCDOを登用する代わりに、機能部門や事業部門、地域といった単位でデジタル化推進をマネジメントしている可能性が高い。しかし一方で、私たちが特定した86名のCDOのうち31名が昨年登用されたばかりであることも注目に値する。つまり、デジタルに特化した最高責任者の重要性を認める企業が増えていることが示唆されている(図表1参照)。


CDOまたは、それに相当する職位を設けている企業の数(2015年)


さらにどの業界でもまだ少数のCDOしか存在していないということが明らかになった。もちろん、CDOの職位を設けている企業の割合は、業種によって大きく異なる。例えば、コミュニケーション、メディア、エンターテインメントなど消費者向け業界は最も多く、13%であった。メディアとエンターテインメント業界の多くの企業は既に、デジタル化のトレンドを完全に受け入れ済みであるという私たちの所見からすれば、意外ともいえる結果であった。僅差で2位だったのが食品・飲料業界で11%であった(図表2参照)。輸送、旅行、観光業界では、旅行・観光関連の31%もの企業が、既にCDOを設けていた。これは驚くに値しない。なぜなら、旅行業界はほとんど完全にオンライン化しており、ほぼ100%デジタルの顧客基盤に依存している状態だからである。


CDO職を設置している企業の割合、業界別(2015年)


CDO設置率が低い業種として、テクノロジー・電機業界では、わずか3%の企業しかCDOを任命していなかった。これは一見、この業界の企業が技術 の最前線から遅れまいとしていることと矛盾しているように思えるが、CDO設置率の低さを、これら企業の経営陣がデジタル化にコミットしていないことの表 れと見なしてはならない。実際、これらの企業では、CDOの職責に含まれることの多い機能や責任が、既に経営チームの各種の最高責任者たちの職掌であるさ まざまな領域へ分散化していて、既に企業文化のあらゆる側面へと深く浸透している可能性が高い。さらに、これらの企業の多くは、消費者と直接取引する BtoCでなく、法人顧客とのBtoB取引が大半を占めており、典型的にはBtoBの会社ほどデジタル化への取り組みが遅れている傾向にある。

金属・鉱業界では、わずか1%の企業しかCDOを任命しておらず、自動車・エンジニアリング・機械業界では3%である。BtoB企業はBtoC企業に比べ て、デジタル化の迅速な推進につながる外部的な動機付けが明らかに弱い。しかし今後、IoTや法人向けアプリケーションなどの新技術が、こうした業界での 業務や顧客や仕入先との取引へとさらに深く浸透するにつれ、確実に変化するであろう。

金属・鉱業界が良い例である。現時点では、こ の極めて「アナログ的な」業界は、デジタル技術の活用機会がほとんどないように思われる。そんな中でも先行者としてデジタル移行を進めることができた企業 は、機材の仕入先、下流の顧客との間でデジタル取引を推進して価値を引き出し、注文状況、価格、品質についての透明性を向上させつつ、社内業務についての データや分析結果を活用して、さらなるコスト削減とプロジェクト期間の最適化を実現できるであろう。

このように業界間で大きなばらつきがある理由は、それぞれの業界がデジタル革命の影響をどの程度感じているかという点で、部分的に説明可能である。既にデジタル化の「山場」を超えたという業界もあれば、その影響をやっと感じ始めたばかりの業界もある(図表3参照)。さらに、企業によって、CDOという職位への考え方にも大きな違いがある。実際、一部の企業では、既にデジタル化が進んでいるために今さら一名の重役をCDOに任命する必要性を感じないところもあるであろう。


デジタル改革の各段階におけるCDOの必要性

既にデジタル化が進んでいるために今さら1名の重役をCDOに任命する必要性を感じない企業もあるだろう。

また、大手企業ほど先行してCDO職を設置している傾向にある。従業員数1万人以上の企業ではCDO任命率が5-9%だが、より従業員数の少ない企業では1-3%に下がる(図表4参照)。デジタル化によって、大手も中小も含めて、全ての企業の事業運営方法が変わりつつある。しかし事業の複雑性と、関与する従業員数が多数であるために、大手企業ほどデジタル改革の推進が難航しがちである。だからこそ、全ての機能部門と事業部門を横断的に統括してデジタルを推進するためには、そのプロセスに特化した役員が必要となるのであろう。


従業員数の区分別 CDOを任命している企業の割合


大規模なデジタル改革(およびそれを職責として任命される上級管理職)にはコストがかかるため、多くの中小企業にとっては財務的に不可能な場合がある。通常、中小企業では、経営陣のメンバーは財務や事業運営などのコア業務に集中し、デジタル改革推進業務は、さまざまな事業部門や機能部門を担当する複数の役員に割り振られていることが多い。

また、欧州を拠点とする企業の13%が既にCDO職を設置している一方、北米企業ではわずか7%、アジア、中東・北アフリカ、および南米では5%、またはそれ以下である(の図表5参照)。しかし、だからといって欧州企業の方がデジタル化が進んでいると想定するのは誤りである。むしろ、北米企業においては、電機・メディア業界の多くの企業と同様に、デジタル推進業務についてはCMOなど既存の多くのトップ重役が「既に対応している」と認識しているためと考えられる。


地域別 CDOのいる企業の割合


今になってCDO職を設置している企業の多くはデジタル成熟度において遅れており、だからこそデジタル化のために強力かつ迅速な解決策を提供できる人を任命することが重要と考えている、とする説は十分信憑性がある。一方で、調査対象となった中東の企業の大半は、程度こそ違え、何らかの形で石油・ガス業界に関与している。ほとんどがBtoBの石油・ガス業界では、どの地域の企業も、まだCDOを任命する必要性を感じていなかった。


CDOの人口動態学

ほとんどの企業においてCDOは比較的新しく生まれた職位であり、約80%が2012年以降に任命されている。しかしCDOの増加は、多くの企業が、従来と比較して、はるかに統合的に社内業務と顧客体験をマネジメントする技術を志向していることを示している。過去においては、従来のCIOやCTOは主に企業のITに注力して、社員のデスクトップPCを始め、企業の基幹となるERPやCRMシステムを管理してきた。やがて、このような基幹システム技術が企業のほかの分野へも浸透し始めると、CMOなどのほかの職位も出現し始めた。CMOはCIOと緊密に連携して、新たなマーケティング技術もツールとして取り込んだ。

しかしCDOという職位は、それらとは全く異なる状況のもとで現れた。それは、社外との関係、社内業務のあらゆる側面で大規模な破壊が進行する時代において、企業の舵取りをしていく必要性に迫られて出現したのである。しかし、企業によってデジタル成熟度が大きく異なり、さらに業界の性質によって必要なデジタル化の内容も大きく異なるため、CDOの使命や、組織内における役割についてさえ、一般論を述べることは事実上不可能である。

企業がデジタルな未来に備えて今、何をすべきか、という視点から考えると、新たなCDOを待ち受ける仕事の内容、そしてそれがいかに困難な仕事であるかを、より良く理解することができる。完全なデジタル改革を行うには6つの要素が必要であり、いずれの要素も、改革を成功させるために欠かせない。CDOは少なくとも理論上は、これら全てについての責任を負わねばならない(図表6参照)。CDOは、改革において、デジタル化によって可能となる新たな製品やサービスの開発、関連する顧客経験など顧客に対面する要素、およびそれらの実現に必要な業務改革の要素の、両方について責任を負うべきである。
 


デジタル改革の枠組み

CDOは企業全体に おけるデジタル改革の 推進者として、 企業文化変革の媒介者 でなければならない。

技術インフラ、データ収集と分析も、CDOの職掌範囲とすべきである。またデジタル・ミッションを実行できるよう企業を再組織化するにあたっての課題、新たなデジタル・サービスやデータ・アナリティクス開発の監督責任はどの部門が担うべきかなど、議論の的となりがちな重要な役割分担を決めるためのガバナンス機構の構築も、CDOの職掌であるべきだ。究極的に、CDOは企業全体におけるデジタル改革の推進者として、企業文化変革の媒介者でなければならない。

デジタル・ネイティブ(=デジタル技術普及後に生まれた1980年生まれ以降の世代人たち)ではない人たちの働き方を変えること、そして彼らの仕事上の行動の根底にある企業文化を変革することが、CDOの職務の重大な要素である。例えば、巨大製薬企業であるバイエル社は、100年以上も前から、現在のデジタル化の基礎となっているデータを使って業務を行ってきた。しかし、バイエル社のデジタル開発部長、ジェシカ・フェデラー氏は語る。「デジタル改革においてデータは実は一番簡単なものなのです。逆に困難なのは人にかかわる部分です。当社では、組織内の人々、プラットフォームやデータについて、複数のシナジーをどう組み合わせるか、また縦割り化した部門同士をどのように連携させるかに焦点を合わせています」。

そのような次元の接続性を実現するために、フェデラー氏は、シナジーの可能性について検討することを目的として、人間・動物科学の各部門のCIOとCMOで構成されるデジタル評議会を発足させた。その一つ下の階層にデジタル・コアチームがあり、さらにその下には、フェデラー氏が偶然にもNERDs(Network for Enterprise Readiness and Digital=企業の準備態勢とデジタルのためのネットワーク)という略称を授けた、巨大なデジタル・ネットワークが存在する。「彼らが主体となって、デジタル・マーケティング、デジタル製品供給、デジタル研究開発を整合化するための業務を行っています。以前は、部門ごとの縦割り体制でしたが、今は情報共有しながら進めています」と、フェデラー氏は語る。

同様の理由で、自動車メーカー、ルノーのCDOであるパトリック・ホフステッター氏は3年前に、中枢デジタル改革組織として「デジタル・ファクトリー」と呼ばれる組織を発足させた。彼の目標は二つあった。一つは、多くの従業員がデジタル関連業務に従事している上に65社もの外部代理店とも契約していたため、全般的なデジタル戦略を明確化する必要があったこと。もう一つは、デジタル戦略実行に必要な、さまざまな機能部門や地域のリソースや専門家を再編成するための基盤として、このデジタル・ファクトリーを使うことである。

デジタル・ファクトリー発足のきっかけとなった理由の一つは、社内で、ローカルとグローバルのどちらを優先課題とすべきかという議論が、ほぼ恒常的に行われていたことであった。「グローバルなパートナーシップ、プラットフォーム、ツール、ダッシュボード、KPI等を創設し、中央で一括管理すべきである、という説に異を唱える人は誰もいません。しかし、コンテンツ、データマネジメント、デジタル・マーケティングといった話になると、本当にグローバルが優先されるべきか否かが、不明瞭になります。」と、ホフステッター氏は語る。そのためにデジタル・ファクトリーの組織における役割は、ローカルとグローバルの間のインターフェースを管理することとなった。

また、デジタル・ファクトリーの役割に、いわゆる「つながった」従業員への移行を円滑に進めるためのサポート提供も含まれることとなった。サポートするにあたっては、現時点での働き方、社員それぞれの持つさまざまな期待事項、成功するために欠かせないツールなどについて配慮しなくてはならない。端的に言って、デジタル移行とは、単に効果的なEコマースのウェブサイトを立ち上げたり、ソーシャルメディアに関与したりすることだけではない。企業全体として、どのように市場到達(Go-To-Market)するかを徹底的に再考することが求められるのだ。

したがってCDOには、企業の事業目標と密接な連携を維持しながら、従来のITやそのほかの最新テクノロジー、およびマーケティング、セールス、そのほかの機能も含めて、従来よりもはるかに機能横断的な視点を持つことが欠かせない。そのためか、調査対象企業のCDOたちの出身部門や経歴は、マーケティング、セールス、テクノロジー、コンサルティング、学術機関など、極めて多彩であった。調査対象のCDOの3分の1以上がマーケティング出身者、17%がセールスと流通出身者で、テクノロジー部門出身者は14%に過ぎなかった。(図表7参照)


CDOにおける出身部門/前職経験別の内訳


マーケティング出身のCDOが多数派であることから、企業はいまだにCDOを任命するにあたって、本質的に顧客中心志向にあることが伺える。「デジタル戦略・改革業務の大半がセールス・マーケティングに集中している理由の一つは、これらの機能が、事業に直接的かつ極めて短期的な影響を及ぼすからです。一方、社内プロセス改善や社内ソーシャルネットワークの開発、協働ツールの普及、社内トレーニング実施などは、目に見えるリターンが表れにくく、より長い時間がかかります。」と、ルノーのホフステッター氏は言う。

CDOは、デジタル改革を リードするのに必要な、部門横断的な 視点を持てる人である ことが不可欠である。

消費者と接触する業務を変革することは、デジタル移行に着手するきっかけとしては完璧に合理的だ。しかし企業は、それも必要だが、それだけでは不十分であることも理解せねばならない。しかも、完全に一貫したデジタル組織となるのは不可能である。前述のとおり、企業全体のデジタル改革が必要であり、そのような取り組みをリードする役員は、そのあらゆる側面を統括できる能力がなければならない。したがってCDOは、マーケティング、IT、業務など、どの部門出身でも構わないが、デジタル改革をリードするのに必要な、部門横断的な視点を持てる人であることが不可欠である。

一貫性の追求ということも40%以上という結果で、多くのCDOが企業の「Cスイート(=最高責任者チーム)」のメンバーである理由である。しかしいまだに、個別の機能部門や事業部門に属する者として、CDOを任命することを好む企業もある(図表8参照)。この傾向は特に、企業とのあらゆるやり取りにおいて、可能な限り最高の体験を顧客に提供して競争力を保つために、デジタル化がどれほど重要かを早くから学んでいた消費者志向の企業に見られる。


組織の階層におけるCDOの位置付け


一貫性が重要であることは、デジタル化の比較的初期段階にCDOの推進力を必要とする企業にも当てはまる。今回の調査のためにインタビューしたほぼ全てのCDOが、企業のあらゆる機能部門と密接に連携して、各部門の戦略や意思決定の方向性が、全般的な事業戦略や目標と完全に一致させることの重要性を強調していた。 CDOはトップ経営陣の一員であることで批判的視点を持てるが、同時に、必要な権限とサポートも付与されなければならない。そうでなければ、これまで長い間、多くのCIOがそうであったように、「上席役員の座」のみ与えられて、企業の戦略や業務への発言権は与えられない立場に置かれる羽目になってしまう。

2014年7月にアクゾーノーベルの装飾塗料部門にCDOとして就任したコリンヌ・アヴェリンス氏は、この機能横断的アプローチの重要性を指摘する。「トップ経営陣の階層に、イノベーションとデジタル化へのコミットメントがあったために、私の仕事はかなり容易になりました。特に当社のような大企業においては、上位層からのサポートがデジタル化推進のために不可欠な要素なのです」と語る。

必要な権限を付与されたCDOなしにデジタル化を実施しようとする企業は、一貫性の欠如というリスクを冒すことになる。特に、デジタル移行のために導入する新たなデジタル技術は、企業の市場到達(Go-to-Market)戦略に適合したものでなければならないため、これは重大なリスクである。

実際、ソーシャルメディア、ビッグデータ、IoTと、デジタル化を追求するために利用可能な幅広いデジタル技術がこれほど出揃った今、多くの新任CDOは、事業という馬の前に技術という荷車を繋ぐという、本末転倒をしてしまう可能性が高いがそれは誤りである。デジタル成熟度が低い企業においては特に、常に企業の全般的戦略に基づいて、デジタル化の方法と範囲についての決定が下されなければならない。

アクゾーノーベルのアヴェリンス氏は「CDOは本来の仕事から気を逸らせるような、多くの課題に直面する」として、前述の見解に強く同意する。「全ての戦いを受けて立ってはいけません。敵が多すぎる上に無意味です。全てを完璧にするのは絶対に不可能ですから、執着し過ぎないことが大事です。急速にデジタル化する時代において、競合優位性を獲得することは困難です。CDOは企業の現在置かれているポジション、将来戦略、顧客への価値提供にインパクトを与える要因を理解した上で、それに集中すべきです。それ以外の事は、後から心配すればよいのです」。

事業戦略創出に 積極的に参加し、必要に応じてプロセスを リードすることも、CDOの職務の一部である。

CDOの職務は、単に企業の事業目標と自らの業務の方向性を合わせることにとどまらない。デジタル化の影響は全てを包み込むほど大きく、事業のあらゆる側面を変革する力を持っている。新たな事業モデル追求、顧客体験の再検討、デジタル・イノベーション推進、運営効率改善など、どのような事であれ、事業目標そのものも変わらざるを得ない。従って、事業戦略創出に積極的に参加し、必要に応じてプロセスをリードすることも、CDOの職務の一部である。

VISAで2年以上CDOを務めてきたクリス・カーティン氏は、このようなアプローチが正しいと確信している。「最も有能なCDO=事業目標に対する配慮ができる人、というだけではないのです。実はさまざまな面でCDOの職務とは、事業そのものなのです。」と、カーティン氏は語る。そのために、CDOは「デジタルということを一旦忘れるべきです。新たなメディアとか、その他あらゆることについても忘れるべきです。マクドナルドであれナイキであれ、結局のところ、目標は、少しでも多くのハンバーガー、靴、スポーツ用品を販売することです。事業目標ということが、CDOとそのチームの思考、戦略、市場到達(Go-to-Market)への考え方に徹底的に浸透しなければなりません。決して手段を目的と取り違えてはいけません。ツイッターで100万人のフォロワーが付くことは単なる手段に過ぎません。最終目的は、事業目標を達成することなのです」

それでも、企業の事業目標と、デジタル面での目標追求との間に、緊張関係が生じる可能性が高い。 ルノーのホフステッター氏は、それがCDOにとっての重大な課題であると認識し、「多くの企業が、短期的な業績と、明確な投資リターンを示すことがはるかに難しい長期的なデジタル改革推進とのバランスを取るのに苦労しています。多くの大企業のトップ経営陣にとって、このような二重の戦略をマネジメントすることは非常に難しいことなのです。」と言う。このような綱渡りを演じるには、事業目標を重視しつつ、短期的な業績上の利益も捕捉してデジタル化が事業にもたらす価値を証明しながら、デジタル化を推進できる有能なCDOが必要である。


チームのならず者

今回の調査の結果、今日のCDOに求められる資質、スキル、職務内容は多様で流動的であり、企業各社も、この重要な職位について幅広く多様な定義をしていることが分かった。この職位が最近になって出現したこと、そして現在、多様かつ多くの企業が「デジタルでの戦いの次元を上げる」必要に迫られていることを考えれば、CDOに就任しようとする起業家精神に富む役員たちは、直面する状況と同じぐらい、ユニークな人物であるのも当然だ。

それは良いことである。ほとんどのCDOはいまだに、自社のデジタル戦略をどう実現するか模索中である。自社の属する業界、その組織が、現在や将来のデジタル動向にどう具体的に対応すべきか、さらにCDOという存在そのものの出現にどう対応すべきかなど、与えられた命題への解を探し求めている。

しかし一つだけ確かなのは、CDOの役割とはその定義からして、変革の担い手であるということである。CDOの仕事は、企業とその文化を変えることであるため、何らかの形で抵抗に遭う可能性も高い。それでも変革者であろうとするには、必要ならば破壊力となることも厭わない意欲と意志力が必要である。「チームの一員とならねばなりません。企業文化を理解してその枠内で働き、ルールを適用することです。」と、ホフステッター氏は言う。「しかし同時に、あなた自身のエネルギー、外部者としての視点を保ち続け、デジタル戦略に関しては、たとえ他者と意見が違っても自説を貫く意思を持たなければなりません。私は、別の大企業に勤める同業者が語った言葉を引用するのが好きです。『CDOはある程度、フーリガン的存在でなければならない』というのです。適切なバランスを見出すことが大事です。」

究極的に、全てのCDOの目標とは、デジタル戦略を企業全体へと非常に深く効率的に浸透させて、それが組織の全部門全社員の生活の一部となり、Cスイートの重役全員の優先課題となるのを見ることだろう。それが、バイエル社のフェデラー氏が、自社について思い描くビジョンである。彼女は、バイエル社のデジタル戦略と、そのために必要な変革マネジメントの努力が結実し、同社において「デジタルが業務の一部になって、デジタルについて語る必要性がもはやなくなる日、すなわちITやテクノロジーが働き方や業務内容へと深く浸透して、それらについて、格別の主題として語る必要もなくなるとき」が来るのを心待ちにしている。


結論

デジタル化の進行は、企業における事業の運営方法、顧客や取引先、仕入先とのやり取りに使うテクノロジーに関して、特異な変化を引き起こしている。最近まで企業各社は、テクノロジーと事業の間に、真に統合されたシナジー的関係を構築できずに苦闘していた。しかし今、ビッグデータからソーシャルネットワーク、進化した携帯通信までに及ぶ、あらゆる種類のテクノロジーが勢揃いして、全ての企業に、デジタルな将来に向けた準備を整えることを強制している。バイエル社のフェデラー氏は言う。「デジタル化は、最近、選択肢の一つとなったばかりですが、今は、もはや選択肢の一つではありません。それは避けて通れない命令であり、私たち全員が対応せざるを得ないのです。」

しかし、CDOの行く手には困難な道が待ち受けている。CDOはしばしば、凝り固まった企業文化と交渉し、トップ経営層からの継続的支援を勝ち取るために戦う一方、多くの社員の活動が短期の財務目標達成だけに捧げられる中、新たなデジタル戦略の創出と、完全なデジタル移行のためには避けられない事業運営上の課題とのバランスを取っていかねばならない。

この新たな前線での戦いにCDOが勝利するためには、適応力を持つこと、そして事業目標と必要な組織および企業文化の改革にフォーカスすることが必要である。また、企業においてデジタル化が業務に完全かつ着実に浸透した暁には、CDOはその役割を終えることも忘れてはならない。デジタル化の完了後にCDOが直面するのは、彼らの現職と同じくらい、柔軟で定義されていない未来なのである。


別表:グローバルCDO調査の方法論

Strategy&は、フィナンシャル・タイムズによる時価総額で世界上位100社、およびワンソース/アヴェンションによる売上高上位の私有・上場企業の中から、世界上位の上場・私有企業1,500社を選出した。時価総額と売上高のデータは、2013-2014年度のものである。調査員はその後、企業の報告書や記録、そのほかのメディア報道など公に入手可能な情報を調査した。

調査は、アジア太平洋、欧州、中東・北アフリカ、北南米の25の業界を対象とした。

加えて、以下のCDOを対象に、2015年5月および6月に電話でインデプス・インタビューを行った:コリンヌ・アヴェリンス氏(アクゾーノーベルの塗料部門CDO)、クリス・カーティン氏(VisaのCDO)、ジェシカ・フェデラー氏(バイエルのデジタル開発部長)、パトリック・ホフステッター氏(ルノーのCDO)


PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

"Adapt, disrupt, transform, disappear: The 2015 Chief Digital Officer Study", December 13, 2015