ケイパビリティ主導のリストラクチャリング:コモディティ化した自動車部品産業にとっての生産拠点戦略

エグゼクティブ・サマリー

メーカーは、生産施設があらゆるニーズに最もよく対応できる場所にあるかどうかをしばしば評価しなければならない。本レポートでは、最適な生産拠点はどこかを判断するプロセスについて説明する。  このプロセスを分かりやすく説明するため、生産拠点についてますます難しい選択を迫られるようになった自動車内装部品産業、特にヨーロッパの状況に注目したい。西ヨーロッパでは、こうしたサプライヤーの生産施設の運営費が高くなる一方であり、多くの企業が生産拠点を次々と東ヨーロッパへ移転している。

しかし、こうした運営上の決定を下すには、さまざまな要素を考えなければならない。例えば、輸送の便、工業技術や部品調達のしやすさ、自動車メーカーの現在および将来の計画、提携関係の可能性、さらには西ヨーロッパで特に高いリストラクチャリング費用などである。こうしたあらゆる要素の根本には、競争的要素がある。すなわち、企業が数少ないライバルに対抗し、常に他をリードする存在であり続けるには、生産拠点をどのように設計すればよいのだろうか、ということだ。

ここで取り上げた自動車内装部品企業も含めて、工業製品業界の大半の企業はどこに生産拠点を置くか戦略的な選択を行っている。そのため、企業は市場や生産拠点にある個々の工場、競争構造とその企業自体のケイパビリティについてしっかり理解しておかねばならない。本レポートでは、企業が最善の選択肢はどれかを見極め、現実的な値下げ目標を設定できるように一連の質問を投げかけている。また同時に、今後どの工場を中心に将来のネットワークを形成すべきか判断するために4段階のアプローチを紹介する。


競争的要素としてのコスト

多くの業界で、生産拠点(工場も含めたバリューチェーンの地理的パターン)の変更は、事業の中で通常行われる作業である。企業は、どこの既存施設を閉鎖し、どこに新規施設を開設するかについて、たびたび難しい選択を迫られる。最適の選択をするには、自社の事業が対象としている市場の競争構造を十分把握しておくだけでなく、競合他社と比べた自社のケイパビリティ、さらにそのケイパビリティで自社の立場をいかに強化できるかなどを、きちんと評価しておく必要がある。

このとき最も重要な要素となるのは、競争力のある立地である。どこに生産拠点を置いてもコストはかかる。企業はサプライヤーや顧客に関して、自社を優位な立場に置くため、競争優位を生み出す立地が求められる。また同時に、状況の変化に対応できる柔軟性も保つ必要がある。

私たちは、自動車部品産業のサブセグメントである自動車内装部品メーカーの視点を通して、この重要な意思決定プロセスを例示することにした。こうしたメーカーの製品には、ダッシュボード、ドアパネル、グローブボックス、シートカバーなど、ハイテクを使わない標準的な内装部品がすべて含まれる。このサブセグメントは、製造場所について難しい決断を迫られている事業の好例である。さらに重要な点として、単位当たりの物流コストが高いため、競争力のある工場を存続させられるかどうかは、まさに立地にかかっている。例えば、中国で製造した運転席を、イベリア半島の組立工場に持ってくるようなサプライヤーはいない。  

多くの業界に言えることだが、自動車内装部品はメーカー間であまり違いがないため、メーカーは価格、つまり生産コストを低く抑えなければならない。実際に張り合う相手は少ないものの、価格や生産コストに影響する要素は立地と本質的な関係がある。その大きな理由は、ダッシュボードなど主要な品目の輸送はコストが高いためである。OEM(相手先ブランドによる生産)の自動車組立工場には、 2つから5つのサプライヤー工場が部品を納入していることが多い。つまり自動車メーカーの組立工場は、それ自体が内装サプライヤーの生産ネットワークの一部なのである。一般にOEMは設計を担当しているので、ひとつのサプライヤーを別のサプライヤーに置き換えるのはそう難しいことではない。

世界の自動車売上は、不況後の最高記録を更新したにもかかわらず、ヨーロッパでは長年自動車内装部品業界の生産施設の利益に厳しい下方圧力がかけられている。主な理由は2つである。第一の理由は、西ヨーロッパの人件費が高いことである。内装部品をこの地域で作ると、人件費が総費用の25%から30%を占める。第二の理由は、OEMの生産能力が東ヨーロッパへ移動し、生産量に構造的変化が生まれていることである(図表1)。


ヨーロッパのOEM生産拠点


この二重の打撃に対応するため、サプライヤーは西ヨーロッパの生産施設を閉鎖し、東ヨーロッパに新施設を開設するか、あるいはこの事業から完全撤退するという二者択一しかないと考えがちである。

自動車内装部品サプライヤーはコストカットの下方圧力にさらされ、最低価格を提供することによって競争せねばならない。なぜなら、内装部品は基本的には汎用品だからである。顧客である自動車OEMは、標準内装部分にかける費用を最小限に抑え、その分を、消費者の購入に影響を与えるもっと画期的な独自機能への投資に回したいと考えている。

一般に、生産拠点を考案するときの大きな課題は、柔軟性とコストのパターンの変化である。距離の近さが価値を生む場合、サプライヤーは必ず移転する(図表2)。


自動車OEMのサプライヤーと競合他社のネットワークの一般例


従って顧客が移転したら、顧客と一緒に真っ先に移転するのが有利ということになる。しかし工場の移転は非常に高くつくため、変動費のメリットを考えると、早々と移転するのが必ずしも良策とはいえない場合もある。

それゆえ、西ヨーロッパのサプライヤーはどの工場を閉鎖し、どの工場を維持するか判断するための計画を作成する必要がある。生産拠点を考える場合は、短期間のコストだけをもとに考えてはならない。生産施設を動かす決定を早まると、むしろコスト(特に物流コスト)がかさんだり、大きな利益の機会を見逃したりする恐れがある。


ケイパビリティこそ重要

内装部品サプライヤーは、明らかに解決手段だと思えるものがあっても、それをすぐ受け入れるのではなく、生産施設の最適化に向けた第一歩として、自社工場とそれぞれの競争力を根本的かつ体系的に評価することが重要である。この評価ではあらゆるコストの分析、特に人件費と輸送費の分析を行うことに加え、工業技術や部品調達の利用可能性、OEMの現在および将来の計画、提携の可能性といった主要な検討事項も計算に入れる必要がある。

まず、次の3つの質問を提起しよう。

1.何が自社工場の差別化要因か。より正確には、自社の各工場が、特定の製品カテゴリーの主要顧客に競合他社より低コストで効果的に部品を供給できているのは、どのような重要なケイパビリティがあるからか。

この判断を下すには、まず自社製品の大部分を受け取る工場(この場合はOEM自動車工場)のエコシステムのマッピングを行ってみる。顧客の既存の工場とすでに建設中の工場を中心に、自社のネットワーク内の工場を図表に表す。顧客からの委託を受ける可能性のある自社工場と、競合他社の運営する工場もこの中に入れておく。

次に、このエコシステム内のすべての工場の主要なケイパビリティと優位性を比較分析する。ここでの目標は、競合他社の工場と比べて自社工場の持つ定量的、定性的な優位性を評価することである。特に、技術面や運営面で自社工場が他より際立って優れている要素、自社の最も重要なケイパビリティをさらに高めている要素を精査する。こうした差別化要因には次のようなものがある。 

  • 顧客の工場までの距離が近く、人件費が低ければ、常に競合他社より変動費を低く抑えられる。
  • 設備を上手に活用している、またはコスト面で有利な機械類を使用しているため、生産単位当たりの資本コストが小さい。
  • 必要な生産技術や組立工程をすべて一カ所に集めているため、他の工場やサプライヤーへの輸送費がかさまない。
  • 例えば、特定の効率的な生産技術へのフォーカスといった複雑性の低減により、工場の諸経費が大幅に低くなる。
  • 製品がモジュール化されているため、どの作業現場や組立ラインでも、主要な部品や技術を使うことができる。

2.あらゆる関連要素を計算に入れた場合、この工場が達成できる価格設定はどうなるか。

サプライヤーの価格と生産量は相互依存的に決定される。そのため、少しでもコスト削減をすれば、単位当たりの利益率と利益率全体が増加するだけでなく、市場シェアの増加にもつながる。自動車内装部品も例外ではない。

上記のどの分野のコストを削減しても、単位当たりの利益率の上昇と市場シェアの増加につながる。こうしたダイナミックスはよく知られており、ネットワーク内のすべての工場の現在の価格と生産量について決定するとき、このコスト削減の効果を計算に入れると、確実なシミュレーションを行うことができる。あるシミュレーション結果では、現在の市場構造においてサプライヤー1社が変動費を1%引き下げると、市場シェアが約0.6ポイント増加することが明らかになっている。

しかし、現行コストの削減と潜在コストの削減はわずか2つの要素でしかなく、最も重要な要素というわけでもない。顧客に最高のサービスを提供できるサプライヤーは、必ずしも最低のコストを提供できるサプライヤーではない。競合他社のコスト構造をはじめ、サプライヤーや顧客までの距離の近さといった上記の要素を計算に入れる必要がある。こうした要素を評価するには、作業順序の処理と在庫関連費用、物流費、人件費、工場操業費と諸経費、資材費などを含む生産コストの総額を見る方がわかりやすい。自動車内装部品のような業界では、メーカー間で製品に大きな差がなく、適切なサプライヤーの数も限られているため、製品コストの総額と戦略的優位性は相関関係が成立する。

3.自社を競争優位に導く要因はどれほど強固なものか。

この段階では、今後、その地域や業界、あるいは競争バランスに生じるであろう変化が、自社の最適な生産拠点を選ぶ判断にどのような影響を及ぼすかを検証する。検討すべき質問は次のようなものである。

  • 自社を競争優位に導く要因はどれほど強固で持続性があるか。例えば、自社の技術革新の方法、主要なサプライヤーや顧客とのつながり、競合他社と比べて自社社員のスキルはどれほど強固なものか。
  • 将来の製品設計が生産拠点の主要な要素にどう影響を与えるか。必要な労働時間に影響を与えるか、あるいは工場の立地に関連した人件費や輸送費に変化を与えるか。
  • 生産拠点の主要な要素はいつ、どのように変化する可能性があるか。例えば、東ヨーロッパでは工場の人件費が上昇しているため、おそらく大手自動車メーカーの新たな移転の波が生じると思われるが、ヨーロッパの自動車内装部品サプライヤーがさらに東部へと新たな移転の波を起こすのはどれほど先のことだろうか。距離の近さが価値を持つなら、遅かれ早かれサプライチェーンは必ず移転することを忘れてはいけない。果たしてその移転の先頭に立つべきだろうか。

将来のネットワークを計画する

サプライヤーが自社の生産拠点を決める場合、次の4段階のアプローチを取ることをお勧めする。下記のポイントをまとめると、どの工場を中心に将来のネットワークを形成すべきかがはっきり分かるようになる。

1.自社の主要なケイパビリティを特定する

  • 既存のOEM工場、またはターゲットとするOEM工場に、自社の生産施設を割り振る
  • 現行の工場、および将来開設する計画のある工場のうち、競合するものを地図上に示す
  • 主要な製品グループの中で、最適な位置にある工場の主要なケイパビリティを特定する

2.競合他社の工場のケイパビリティを特定し分析する

  • 自社の差別化要因は何かを特定する
  • あらゆる製品グループ、およびターゲットとするOEM工場にとって、標準製品とは何かを規定する
  • あらゆる関連製品グループについて、競合他社の工場と比較し、自社工場を操業するコストと便益を分析し推計する
  • 他社との差を埋めることで、どのような短期改善が可能かを特定する
  • 自社の差別化要因のメリットを数値で表す
  • 自社工場を差別化できるケイパビリティを開発または獲得する

3.トレンドを分析する

  • 差別化要因に影響を与える可能性のあるドライバーを特定する
  • こうした主要なドライバーの今後の進展を分析、予測する
  • 各サブ市場の供給曲線を分析する
  • 競争環境を理解する
  • 自社の差別化要因の深化をはかり、防衛する対策を立てる
  • 自社の差別化要因を持続可能なものにする

4.リストラクチャリング活動の優先順位をつける

  • 自社ネットワーク内のあらゆる工場について、必要な投資とリストラクチャリング予算を特定する
  • 投資とリストラクチャリング活動に優先順位をつける

結論

ここに紹介したアプローチは検証済の方法であり、このアプローチに従えば、サプライヤーは将来的に自社の活動するネットワークを決定するのに十分な準備ができる。このアプローチは、メリットをもたらす差別化要因に関して、深く定量化された理解をもたらす。またターゲットとすべきプログラムの特定に役立つなど、他にもいくつかのメリットがある。こうした選択基準をプロセスの初期段階に適用するため、サプライヤーは、販売、技術、IT、その他の資源を、勝利を得たいと考える将来のプログラムに集中的に配置できるようになる。また、将来のネットワークの中でどの工場が成功する要素ではないか、すぐ特定できるようになる。この基準を満たせなかった工場については通常、売却、閉鎖、あるいは薄利で運営という3つの選択肢がある。

こうした議論は、限られたリストラクチャリング予算の中で行われることが多いため、サプライヤーはリストラクチャリング活動に明確な優先順位をつけざるをえない。この分析を行うサプライヤーは、改定予算を推計したり、従業員への影響を予想したりするのにも十分な備えができる。

自動車内装部品メーカーの抱えるジレンマは、企業が地理的な拠点をどのように運営していけばよいかを示す好例といえよう。ここで見てきたように、産業全体にコストに関する懸念が広がり、OEMの移転の波が西ヨーロッパから東ヨーロッパへとその向きを変えても、自動車内装部品サプライヤーは、どこであれば人件費だけでなく生産コストの総額を減らし、差別化するケイパビリティを確立できるか、またどこであればメリットをもたらすトレンドを最もうまく利用できるかという観点から立地を決定しなくてはならない。そうすることで、最も有力な生産施設の成長戦略に重点的に取り組み、有力ではない生産施設は手放すという態勢を整えることができる。

多くの企業でコスト削減についての議論が行われているが、最後にくるのは削減すべきコストの割合という数値である。だが、大きな成功を収めている企業にとって、こういう議論は始まりにすぎない。こうしたコスト削減を持続的なメリットにつなげるには、どのように管理すればいいだろうか。特に生産拠点の再編成を行い、競争力を強化するにはどのようにすれば良いだろうか。正しい視点から生産工場を見るようになれば、その答えはすぐに明らかになる。


PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

"Capabilities-driven restructuring: A manufacturing footprint strategy for a commodity automotive supplier industry", April, 2017。