未来型ショッピング時代の到来

未来型ショッピング時代の到来―2015年度世界オムニチャネル小売指数調査

日本語版に向けて(唐木 明子)

オムニチャネルとは、商品の購買の各プロセスにおいて、消費者・顧客が情報源となるタッチポイント(コミュニケーションチャネル)および、販売のためのタッチポイント(セールスチャネル)を柔軟に組み合わせて活用しうるように設計された、統合的なチャネルである。当然、その組み合わせのあり方は多数存在しえて、現状はその利便性や、実現のしやすさから、お取り寄せ購入(オンラインで商品を購入し、店頭で受け取り)、試着予約(オンラインで商品を選択し、店頭で確認の上購入)、エンドレスアイル(店舗で商品を確認購入し、店舗で商品の配送を手配することにより受け取り)、ショールーミング(店舗で商品を確認し、オンラインで購入)などいくつかの代表的な事例が提示されつつある段階である(下参照)。


オムニチャネルの取組みの全体像


PwCの戦略コンサルティングサービスを担うStrategy&では、世界の各国各業種のオムニチャネル化の傾向を把握し、その背景を考察するために世界の19の国地域、9つの小売りセグメントにおいて調査を行い、オムニチャネル化度合を指数化した。
日本は、指数で40、対象19の国と地域で第8位という結果である。より具体的にみると、米国、英国、オーストラリアといった国々に加え、中国も日本より高い状況、一方で、インド、ブラジルはもとより、フランス、イタリア、ドイツといった西欧諸国よりは高いという結果になっている。また、日本は40であるが、最もオムニチャネル化指数が高い米国ですら50であり、日本とさほど差が開いているようにも思えない。
この結果をどう受け止めるべきであろうか?

まず第一に、消費者・顧客の「オムニチャネル化」に、サービス商品提供側が追いついていないことがあげられる。
消費者はいち早くネットと実店舗を柔軟に使い分け、使いこなしている。日本国内でも「ネットショッピング」が一般的になり、小売りの最大手が次々とオムニチャネル戦略を打ち出すなど、オムニチャネル化を早いペースで進展させようとしている。一方で、企業のオムニチャネルの推進は、全世界的に試行錯誤しているのが現状である。世界最大のECプレーヤーでも、実店舗の展開は今後の取り組みである。また、世界最大の店舗プレーヤーも、ECの勝ちパターンを探っているところである。

次に、米英と比較すると日本企業はその遅れが大きいということが言える。
国内でも多くの企業が、オムニチャネル化の推進に苦労している。実際に、米英と異なり、日本ではいわゆる従来型の大企業のECはいまだに実力を発揮しきれていない。小売企業にとっては、店舗を通じてモノを販売するためのプロセスと体制とは大きく異なる仕組みを構築する必要がある。メーカーにとっては、卸や小売りを介さずに直接消費者に対峙するビジネスを一から組み立てる必要がある。いずれも、極めて大きなチャレンジであり、大きな方針変換の決断が必要である。製造から小売り、顧客までの流通において各々の関係当事者が繊細な調和をもって役割分担を割り当てられている中で、既存の事業に悪影響を及ぼさずに前提を崩すのは、特に難易度が高い。
ではこのままの状態で進むのであろうか。
そうは思えない。消費者・顧客が変化している以上、対応しない企業は勝者にはなりえない。さらに、国内の流通の改革はオムニチャネルに並行する形で既に進展している。小売り企業が大規模化し、メーカー主導の流通から、小売り主導の流通に変革しつつある。多くの業種において、卸はその役割を見直し始めており、メーカーはより密接に小売と連携して消費者・顧客の理解と、取組を進めようとしている。欧米の先進企業がそうしたように、消費者や顧客の現状を把握し、分析し、予測し、検証する具体的な仕組みの設計に取組む日本企業も存在する。

オムニチャネルは、コミュニケーションとセールスそれぞれのチャネルを、単に任意に組み合わせることではない。消費者・顧客が何を求め、どのように行動しているのか、その意識や行動の現実をファクトベースで把握、理解し、反応していく取り組みなのである。その意味で、オムニチャネルは、顧客中心、生活者中心の認識の表裏一体をなすものである。


エグゼクティブサマリー

世界中の小売企業が、オムニチャネルの買い物体験を提供することで顧客との関係を変革し始めている。オムニチャネル戦略の下で、どのようなチャネルで買い物をするかを消費者自らが選択することができる。例えば、その時の気分や都合によって、ネット販売、実店舗、スマホ、タブレット、ソーシャルメディア、コールセンター、Eメールなど、さまざまなチャネルを活用できるようになる。消費者は、買い方や小売企業との接触において、より幅広い選択肢を手に入れる。自分にとって興味のある商品や商品カテゴリーの情報を入手できる上、商品の入手しやすさも向上する。理想的には、小売企業は顧客との関係からより高い収益を得るとともに、顧客の行動や嗜好についてより深い洞察を得られるであろう。さらに、顧客のニーズに合わせて直接、ターゲットを絞った商品のレコメンデーション(推薦)を行ったり、プロモーションキャンペーンの情報を送信したりできる。

Strategy&は、オムニチャネル化が小売業界の競争環境をどのように塗り替え始めているかを評価するために、19の国・地域を対象にオムニチャネルの普及度と成長可能性について調査を行った。各種の情報源から入手したデータ(P.8-9図表参照)に基づき、19の国・地域ごとに9つの小売セグメントにおけるオムニチャネルへの準備度を評価して、世界オムニチャネル小売指数を作成した。この指数は、「消費者行動」「デジタル化度」「オムニチャネルの成長可能性」「インフラ」の4つの基準に基づいて、各国を1から100までの間で点数評価したものである。幾つか意外な発見もあった。例えば、食料品および衣料・フットウェアのセグメントの両方で、中国がオムニチャネル小売指数の1位であった。

そのほかの結果は、より直観的に納得感のあるものであった。米国、英国、オーストラリアというオムニチャネル上位3国は、既にEコマース大国である。指数調査の結果は、オムニチャネルへの参加度において「先進的」「遅れている」「準備が整っていない」「今後着手」のどの段階にある小売企業にとっても、将来戦略を策定するために有用に役立て得るものである。


消費者は、購入チャネルの選択肢を求めている

PwCが2015年に行った、19カ国の買い物客に対する調査の結果、消費者は、欲しいと思ったらすぐにその商品を買いたいと望んでいることが分かった1。 消費者のニーズには、魅力的な価格、利便性、優れた顧客サービス、瞬時ではなくとも速やかに満足が得られることなどが含まれていた。Eコマースの出現、特にモバイルショッピングが実現する前までは、消費者にとって1回の買い物経験で全ての要求が満たされることは珍しかった。しかし、Eコマースが発展するにつれ、単なるネットでの買い物をはるかに超える大規模な変革が始まった。小売業界は、最も売上規模の大きいカテゴリーの多くで、オンラインまたはオフラインどちらかの単一チャネルでの活動から、消費者に、より多面的でより多くの買い物の選択肢を与えるオムニチャネルの風景へと変わりつつある。

新たな環境の中で、消費者はオンライン、実店舗、スマホ、タブレット、ソーシャルメディアを初め、今も増え続ける多数の可能なチャネル間を自由に行き来しつつ買い物を楽しむことができる。オムニチャネルにおいて、小売事業者は消費者に、購入手続、製品レビューを読む、特長・価格を比較する、顧客サポートを受けるなどの各段階で最も便利なチャネルを選ぶことを可能にする。例えばある人がテレビを購入したい場合、欲しい特長と予算に基づいてネットで検索し、該当する機種を購入した顧客のレビューを読み、商品を予約する。次に店舗を訪れて実物のテレビを確認後、スマホのアプリで購入、数時間以内に自宅まで配送してもらうことが可能である。

小売業者も、オムニチャネル化によって大きな利点を得る。さまざまなチャネルでの顧客の行動データや知見を融合させて、個々の顧客についての包括的な情報を取得し、嗜好を把握できる。小売業者はその上で顧客の直近のニーズにターゲットを合わせたセールスプロモーションのコンテンツや、製品のレコメンデーションを作成して提供できる。さらに、これらオムニチャネル化は、コンバージョン率(CVR)、購買件数を大きく増加させる効果がある。スポーツ衣料小売業のピークパフォーマンス(Peak Performance)は、ほか数社の小売業者と同様にオムニチャネル戦略を取っており、顧客はネットで注文後、最寄りの店舗で商品を受け取ることができる。この「店舗受け取り」オプションが選ばれる件数は、現在ピークパフォーマンスに入る注文の約20%を占める。また、特定地域の顧客の嗜好データに基づいて在庫をその地域の店舗に保管するようになったため、自宅への配送もより効率的で迅速となり、地域での商品の入手可能性も改善した。「店舗受け取り」オプション導入のおかげで、“膨大な在庫を保管する大きな倉庫”という非効率なオペレーションも最小化できた。ピークパフォーマンスは、2010年にオムニチャネル戦略を導入して以降、コンバージョン率(CVR)が顕著に増加したと報告している。また、同期間に配送コストを14%削減、平均配送期間も2日短縮できた。

多くの有名な小売企業が、新たなオムニチャネルショッピングへの対策を導入して成功を収めている。例えばニーマン・マーカス(Nieman Marcus)は2014年、オンラインとオフラインの部門を統合して、実店舗とネット販売のマーチャンダイズ、計画、マーケティングを同一チームが統括するようにした。しかし世界的に見ると、小売企業の大半は現時点では、完全なオムニチャネル戦略導入に 踏み切っていはいない。彼らが躊躇する理由の一つは、戦略実施のために乗り越えるべき障害と関連している。例えば、フロントエンドとバックエンドのシステムやオペレーション手順を統合し、新たな組織構造へとリソースを再配分するために相当の資本を投資しなければならない。それと同時に重要なのは、多くの小売企業に蔓延する、オンライン、オフライン、ソーシャルメディアの担当部署の縦割り化と、それに起因するチャネル別戦略という課題である。これを解消し、新たに、顧客中心型・チャネル非依存型の小売モデルへと移行せねばならない。

当社の調査対象者だった消費者の大半が、「複数のチャネルを利用できることは、買い物経験において価値がある」と回答している。つまり、チャネルの選択肢が多ければ多いほど良いのだ。小売企業がこのような消費者の期待に対応しないならば、より積極的に対応している競合他社に、今後顧客が増加していく複数の販売チャネルを奪われてしまう恐れがある。

Strategy&の世界オムニチャネル小売指数調査では4つの基準で各市場とセグメントを評価した。

  1. 顧客行動 特定の国・地域の顧客が、オムニチャネル方式で小売購入を行っている度合い(例:ウェブtoストアまたはストアtoウェブなど)。純粋なオンライン・オフライン購買は除く。
  2. デジタル化度 その市場における販路のデジタル化度
  3. オムニチャネルの成長性 インターネットおよび携帯を通じた小売市場の年平均成長率(CAGR)
  4. インフラ 携帯アプリ、スマホ、タブレットなど、オムニチャネルに必要な機器やサービスの普及率

この調査の目的は、世界の各地域および販売セグメントにおけるオムニチャネルの準備度と成熟度についての、明快かつありのままの状況を小売企業へと提供することである。
この調査結果からヒントを得て、今まで認識していなかったオムニチャネルという拡大しつつある機会を捕捉しようと動く小売企業もあるかもしれない。また、様子見という選択に間違いがなかったという確証を得る一方、今後オムニチャネル市場がヒートアップしてくれば、いつでも本格参入できるよう準備を整えようと決意するかもしれない。


地域別結果

英語圏の国々でEコマースが普及し成熟していることを反映して、米国(100点満点で50点)、英国(49点)、オーストラリア(48点)が、世界オムニチャネル小売指数の上位3位を占めた(図表1参照)。これらの国々、特に米国と英国は、モバイル通信の普及度が高く、オムニチャネル導入に必要な高度なケイパビリティ開発に投資した小売企業があり、オムニチャネル化による販売形態を喜んで受け入れた消費者も存在した。


図表1 : 世界オムニチャネル小売指数―国・地域別(1-100点)

消費者向け電機・家庭用電化製品、メディア製品が、オムニチャネル浸透率が最も高いセグメントであった。グローサリー(食料品)は他のセグメントより低く、しかも、このセグメントにおいては中国の方が米国・英国よりもオムニチャネル浸透率が高かった(図表2参照)。
小売企業によるオムニチャネル化への対応度が高い国々においては、いくつかの興味深いアプローチ方法が見られた。以下は、オムニチャネル展開が成功した4つの例である。


図表2 : 世界オムニチャネル小売指数(カテゴリー別、上位国)

<ケース1>

2014年、電化製品、衣料、スポーツ、健康、美容、家庭用品などを幅広く扱う英国の小売チェーン企業のアルゴス(Argos)は、「ゲット・セット・ゴー・アルゴ(Get Set Go Argo)」キャンペーンを実施した。これは、創業から40年の同社の歴史において最大の戦略転換であった。この制度のもとでは、来店した顧客は商品をiPadのブラウザで検索して発注し、次に、所定の場所で商品を受け取れる。さらに、「チェック&リザーブ(Check & Reserve=確認して予約)」サービスを使って、顧客はネットで商品がアルゴスの店頭にあるかを事前に確認し、実店舗に到着したら60秒以内に受け取ることができる。また、イーベイ(eBay)で購入した製品も、アルゴスの店舗で同様の方法で引き取ることができる。このようなキャンペーンを発表した時、アルゴスのジョン・ウォルデンCEOは次のように語った。「デジタルチャネルが顧客との一番の接点となる、デジタル化の進んだ未来に適応するため、私たちの店舗の位置付けを変えたいと考えています。しかし将来においても、全国各地に分散した商品受取場所のネットワークとして、店舗は今後も非常に重要な拠点であり続けますし、当社の現地スタッフが顧客サービスを提供するということにも価値があります」。
アルゴスの戦略は売上創出につながっている。2015年度のアルゴスの売上の46%はネット販売、34%は「チェック&リザーブ」制度を通じた売上であった(出所:アルゴス社2015年度年次レポート)。

<ケース2>

英国の百貨店ジョン・ルイス(John Lewis)は、高度なオムニチャネル対応のバックエンド業務を確立することで、「クリック&コレクト(Click and Collect=ネットで注文し店舗で引き取り)」よりもはるかに進んだフロントエンドのオムニチャネル小売を展開している。各支店は中央倉庫を廃止し、顧客がネットで注文すると、10店舗あるジョン・ルイスの店舗のうち最寄りの店から発送される方式に切り替えた。この方法を採用した目的は、顧客への配達納期を短縮すること、地域の在庫を地域顧客の嗜好に合わせて最適化すること、さらに、顧客が希望すれば、購入を検討している商品を店舗で確認できるようにすることである。2010年、ジョン・ルイス社は、2013年のオンライン売上が5億米ドルにな る見通しと公表したが、実際にはその3倍もの業績を上げた。クリック&コレクトは今、ジョン・ルイスのオンライン売上の45%を占める。さらに同社は、オムニチャネルネットワークをフル活用する顧客は、いまだに一つの購入チャネルしか使っていない顧客に比べて購入額が3倍であることを発見した。主な理由は、利便性向上で快適な顧客経験が得られるため、顧客は多く購入しようという意欲をかき立てられるからである。

<ケース3>

米国では、2008年にいち早く戦略を導入して以来、百貨店のメイシーズ(Macy’s)がオムニチャネル導入の代表格である。同店のオムニチャネル戦略には、ネットで注文を受けた一部の商品については、注文当日に到着するよう実店舗から配送するサービス、顧客のサイズ、洋服の好みや好きな色などの嗜好に基づいてカスタマイズされた、オンライン衣服特売キャンペーンの告知などがある。実際、メイシーズはオムニチャネル専任の最高責任者を雇用するなど、オムニチャネルの将来性を極めて重視する方針である。

<ケース4>

オーストラリアでは、人気の家電小売企業グッドガイズ(Good Guys)がネット注文に対して実店舗から配送。特売情報や購入ガイド、製品の電力消費コスト見積などの情報発信拠点としてウェブサイトを活用している。

中国の位置付け

膨大な人口と増加する中流階級の存在で、中国は小売企業にとって魅力的な市場である。また、比較的最近になって経済発展してきたこと、それがパーソナル技術やEコマースにおける大幅な進歩の時期と重なったことで、中国でのオンライン小売業の普及は速かった。実際、中国商務省および米商務省のデータによると、中国は既に米国を追い越して、世界最大のオンライン小売市場となっている。  さらに中国は、オムニチャネル活動においても米国・英国にも急速に追いついてきており、世界オムニチャネル小売指数でも5位に着け(カナダと同位)、43点を獲得している。またカテゴリー別では、衣料・フットウェアと食料品の2分野においてオムニチャネル指数世界1位となっている。
オムニチャネル戦略を導入して成功を収めた、中国の小売企業2社は、特にモバイルアプリケーションを大いに活用している。

<ケース5>

アリババグループの子会社であり、50%以上の市場シェアを持つ中国最大手の小売企業(Tモール)T Mallは、スマートフォン用のアプリを使って、オンラインとオフラインのギャップを埋めた。消費者はアプリで実店舗の商品をスキャン、オンライン買い物カートに入れて購入し、自宅への配送を依頼できる。(Tモール)の店舗は商品の倉庫として機能し、毎日3便で商品を出荷している。つまり、多くの顧客は注文したその日に、商品を受けることができる。

<ケース6>

香港を本社とするデザイナーレーベルの衣料小売企業で、北京、上海、成都にも店舗を展開するレーンクロフォード(Lane Crawford)は2014年に、全店舗でオンラインとオフラインを結ぶキャンペーンを行った。キャンペーンで使われたのはファッションスキャンという携帯用アプリで、オンラインまたはオフラインで入手可能な新商品や流行、アイテムに関する限定動画を提供するものであった。また、デザインや衣服に関するユニークなコンテンツをスマホやタブレットに届ける、デジタル店頭チェックポイントサービスも展開した。店頭における顧客との携帯機器を通じたインタラクションを増やすことで、店舗滞在時間中に顧客がブランドとの関わりを深め、楽しめることを確実にした。レーンクロフォードはこのサービスを通じて、高感度な消費者に対し、店から帰る前に商品を購入するよう説得できる、より幅広い窓口を獲得した。

欧州は後れを取っている

欧州諸国の多くがオムニチャネル指数の中くらいの順位に集中しており、欧州においてオンライン小売は成長しているものの、オムニチャネルの存在価値そのものは全体的に無視されていることを示唆している。その良い例がドイツで、Eコマース浸透率は米国と同等なのにオムニチャネル戦略はほとんど実施されていない。実際、ドイツの大手小売企業の中でも、顧客にシームレスなオムニチャネル経験を提供することに注力しているのは、大半が家電業界の、例えばドイツのコンラッド(Conrad)、メディア・マルクト(Media Markt)、サターン(Saturn)など数社である。
結果的にドイツはオムニチャネル指数の順位も低く、38点である。オムニチャネル浸透率が低い理由の一つとして、ドイツの小売業界全般にイノベーションや自動化が乏しいこと、優れた顧客体験提供に注力する意欲が全般的に欠けていることが挙げられる。さらにドイツで顧客とのインタラクション改善が進まない理由として、同国でのディスカウント小売店の割合が高いことも挙げられる。こうした量販店は技術的進歩や現代化戦略よりも、常に低価格を提供することに注力してきた。加えてドイツは保守的な旧来の家族経営の小売業の割合が多く、小売業にいち早く高度なイノベーションを導入し得るような国際的な小売企業はほんの数社しかない。
消費者とのインタビューの結果、ドイツでは、小売企業がオムニチャネル戦略を過小評価しているばかりでなく、消費者も同様に、たとえオムニチャネルで買い物する機会を提供されたとしても、それを受け入れることを躊躇している様子であった。主な理由は、オムニチャネルに慣れていないこと、多くの欧州諸国に比べて地元の店への忠実度が高く、Eコマース利用度も低いことにあった。スイス、フランス、イタリアは、ドイツと同様にオムニチャネル導入は遅れている。世界オムニチャネル小売指数調査の結果、欧州における唯一の例外はデンマークであり、4位で46点であった。デンマークはまた、メディア製品と家庭・インテリア用品の2つの小売カテゴリーで米国と同等、DIY/日曜大工のカテゴリーでも米国よりもわずか1点低いだけであった。

スイス、フランス、イタリアは、ドイツと同様にオムニチャネル化は遅れている。 欧州における唯一の例外はデンマークである。

デンマークの優れたオムニチャネル小売企業に、モダニズム家具のメーカー、ボリア(Bolia)社がある。同社のラーズ・ライス・ハンセン(Lars Lyse Hansen)CEOは既に2010年には、新たに開発されたテクノロジーでオンラインとオフラインの小売業をより緊密に融合させて顧客経験を改善できる可能性を認識していた。ボリアはこれを念頭に置いて、消費者が部屋をカスタマイズして、PCや携帯からインテリア用品を購入できる、オンライン3Dルームプランナーサービスを開始した。さらに店内にいる顧客は、自分のアカウントにログインし、ルームプランを取り出して、それを見ながら、家具やデザインの選択肢について販売員に相談できる。ボリアにおけるオムニチャネル戦略の成功を強調して、ハンセン氏はコンピューターウィークリー・ドットコム(www.computerweekly.com)の取材に答えて、こう語った。「当社のネットを通じた売上が史上最高額となったばかりでなく、店舗への訪問者数も史上最高値を記録しました。」2
オムニチャネル化において先端的な他のデンマーク小売企業には、衣料・フットウェアのチェーン店、ベストセラー・アンド・ダンスク・スーパーマルクト(Bestseller and Dansk Supermarked)がある。同社は、オンラインで食料品を注文、店で商品を受け取り可能にすることで、顧客の買い物時間を短縮するサービスを提供している。


セグメントの変動

本指数調査の結果によると、小売業界のセグメントの中でオムニチャネル化が最も進んでいたのは消費者向け電機・家庭用電化製品であった(図表3参照)。このセグメントと、それ以外のオムニチャネル度の高いメディア製品などのセグメントは、アマゾンやイーベイ(eBay)といったネット小売企業からの猛烈な競争にさらされたことが主な原因で、積極的かつ創造的な販売戦略を採用せざるを得なかった。これらの新たな競争相手が従来の小売企業から顧客を奪い始めたため、実店舗を主とする小売企業は、価格と利便性で競合するために迅速にEコマースへと参入することを余儀なくされた。いったんネット上での強力な存在を確立すると、「従来型」小売企業の中でも最も適応力と革新性の高いプレーヤーは、オンラインとオフラインの境界線を打破し、頑健なオムニチャネル戦略を策定することで、新たな価値を創出した。
これら企業のうち最も野心的なのは、世界最大手の電機小売企業であるベストバイ(Best Buy)であろう。同社は、創業以来、最悪の赤字を計上した3年前に、本格的にオムニチャネル戦略を実施し始めた。ベストバイがオムニチャネルへの移行にどう対処したかについて、私たちは以下のように論評を行った。


図表3 : 世界オムニチャネル小売指数(カテゴリー別)

「ベストバイは当初、ウェブサイトの大半に店頭でのピックアップ用のリンクを設けることによって、ほぼ世界初のクリック&コレクトサービスを導入した。2010年にはベストバイの全店舗で利用可能となったこのサービスは、多くのベストバイの顧客の要望、すなわち、商品の検索と支払いはネットでしたいが、商品は店舗で引き取って持ち帰り、すぐに自分の物にしたいという希望を満たすものであった。ベストバイの役員によると、同社ウェブサイト(www.bestbuy.com)で買い物した人の40%は、購入した品を店舗で引き取ることを選択した。
ベストバイは、ネットでの購入に必要なクリックの数をわずか3回に減らしてEコマースのプロセスを簡便化した。同社はまた、消費者の店内またはネット上での活動について把握した情報に基づいて、その顧客の直近のニーズに合う商品をレコメンデーション(推薦)する、ネット上でのターゲットを絞った販促プログラムも開発した。例えば、シカゴに住む人が、シカゴが熱波に見舞われている時にベストバイのウェブサイトを訪れると、携帯用エアコンがおすすめ商品として現れる、というように。
さらにベストバイはオンラインとオフライン部門を統合し、店舗をウェブサイトで購入された商品を出荷するための倉庫へと効果的に転換するとともに、どのチャネルで買う顧客であっても、特定チャネルにおいて特別値引きセールが行われていない限りは同一価格を支払うよう、価格も統一した。このオムニチャネル戦略の実施によってベストバイは、事業の安定化に成功した。同社の成功はオムニチャネルの改善のみが原因ではないにせよ、ベストバイのヒューバート・ジョリー(Hubert Joly)CEOは、2015年5月の損益決算報告書において「当社は店舗とデジタルのオペレーションを統合する取り組みによって、一貫して市場全体を上回る業績を上げることができた」と述べている。
しかし、このような業績結果を維持するためにベストバイは、ほかのオムニチャネル化を進めた実店舗を展開する小売企業と同様に、瞬時も気を抜かずに努力し続けねばならない。結局のところ、伝統的な小売企業に店舗中心型戦略を再考することを余儀なくさせたEコマースのライバル各社が、今度は逆に、実店舗ショールームや「引き取り・返品」施設を開設するなどして、オフラインの世界へと進出し始めているからである。」

最もオムニチャネル成熟度が低いセグメントは食料品で、私たちの指数調査での得点はわずか31点であった。このセグメントが遅れている理由は主に、顧客にとっての魅力度が相対的に低い点にある。食料品を購入する顧客の大半は、リンゴやチーズを買う前に実物を手に取って確認したがる。そのために、スーパーマーケットはオムニチャネル戦略を導入するにあたって、特に生鮮食品を配送する物流の複雑性、消費者の近くに多数の倉庫施設を維持するコストなどの課題に直面する。
食料品セグメントは今後数年間で、現在はまだわずかなネット販売の比率(例えば英国で全食料品市場の5%、フランスでは3%)が増加する見通しである。米国のフレッシュダイレクト(Fresh Direct)などのオンライン企業が成功を収めたことで、少なくとも消費者側には生鮮を含む食品をネットで購入する利便性への渇望があることは証明された。しかし、食料品セグメントにおけるオムニチャネル戦略が、今後どのように進化するかはいまだ不透明である。スーパーマーケット各社は、テスコ(Tesco)やセインズベリー(Sainsbury)といった大手のオフライン競合をはじめ、オンライン業者、増加しつつあるオフラインとの混合型であるフレッシュダイレクト、アマゾンフレッシュ、ウェイトローズ(Waitrose)といった多様なプレーヤーで混雑する市場で、戦っていかねばならない。
食料品セグメントにおいて中国が首位を占めていることは、中国の人口過密都市における新たなコンセプトの普及に起因している。例えばスーパーマーケットのヴァイナックス(Vinux)は、中国全土の小さな店舗に、多様な種類の食料品の見本を展示するキオスクを開設した。買い物客は、中国では既に買い物用ツールとして普及している携帯電話から商品を注文し、翌日、品物を受け取りに行く。現地にほとんど在庫を持つ必要がないため、ヴァイナックスは食料品の価格を10%も安くすることに成功した。このことは、消費者の間での同社のオムニチャネルへの人気をさらに高めている。


オムニチャネルのドライバー

オムニチャネルにおいて成功した国には、高度で普及したデジタル・チャネルがあるという共通点があると同時に、確立された純粋ネット小売企業の存在が、オフライン小売業者をオムニチャネル戦略の取り組みへと追い込んだという背景も共通している。
小売企業がオムニチャネル戦略を成功させるには、次の3つの条件を満たすことが不可欠である。

  1. 高度な技術インフラ ネットワーキングや通信の技術の進歩。例えば、ブロードバンド回線、携帯、インターネット、スマホの普及、顧客の居場所に応じて、特売やプロモーションを提供できるロケーションベースのサービス、製品や価格についての詳細情報、顧客のレビュー、比較した上でのショッピング機能などを提供できる高度なアプリ、携帯会社が携帯料金と一緒に代金回収できるシステム、店で購入/店から配達、クリック&コレクト(オンライン購入+店で引き取り)機能などが含まれる。
  2. 顧客からの高い期待 顧客は、「オンラインとオフライン、両方の良い所取りを、それぞれ体験したい」と要求する。すなわち、個々の顧客に合わせた商品に関するアドバイス、レコメンデーション(おすすめ)、商品をすぐに持って帰れるというオフラインの利点と、在庫・価格の透明性、顧客レビューを読めること、単純な商品比較機能、便利で安心な配送・支払規定というオンライン買い物の長所を融合させたサービスを期待している。
  3. 小売企業の準備度 小売企業がオムニチャネル化を進めるには、最終的には、次に挙げるような特徴を持たねばならない。例えば、オンラインとオフラインの事業および販売戦略を一つの事業体としてとらえる企業文化、組織体制における縦割りではない統合された部門、調和されたシステムやアナリティクス機能を持つこと、イノベーティブで説得力あるコンセプト、ツールやアプリを開発したシームレスなチャネル移行への備え、消費者の間で人気のあるアプリの生態系へと統合されること、などである。Strategy&の世界オムニチャネル小売指数調査の結果、大半の国や地域には既に必要な技術インフラは整備されており、大半の消費者も、オンラインとオフラインの小売環境が融合されて生まれる効果が楽しみだ、と前向きに期待していることが分かった。

しかし、必要なインフラが整備された後で、オムニチャネル導入にとっての最大の障壁となるのが、小売企業の準備度合いである。言い換えれば、小売企業が顧客経験を重視しているか、オムニチャネル戦略推進に必要な技術に投資する意思(と能力)があるかどうかである。


結論

オムニチャネル化は多くの小売セグメントに力強く浸透し始めているが、 その戦略はまだ初期段階にある。しかし、今後も技術が急速に進歩するにつれて、オムニチャネル・サービスの洗練度、利便性、創造性、価値も向上していくと考えられる。
何よりも、今後も広まる携帯端末の普及と、Eコマースのエンジンとして携帯ネットワークの使用拡大が、オンラインとオフラインを融合させた小売経験のさらなる拡大を誘引するであろう。消費者は、お金を使うことで投票する。すなわち、デジタルと実店舗双方の長所を兼ね備え、自らの嗜好を最も満たしてくれる小売企業で買い物することを選ぶであろう。オンラインとオフラインの境界線が曖昧になるにつれ、オムニチャネルは将来、私たちにとって当たり前の買い物方法となるであろう。それは普遍的なもの(=ユビキタス)であって、もはや差別化要因ではなくなる。しかし小売企業が利益を上げるためには、対応しないという選択肢はなくなるであろう。


別表:世界オムニチャネル小売指数調査方法

オムニチャネル小売指数調査は、19の国・地域、および9つの小売セグメントにおけるオムニチャネル小売業の成熟度、普及度、成功度を測るために設計された。この指数は、4つの異なる基準を評価することによって求めた。

  1. 消費者行動 特定の国の消費者が、既にオムニチャネル的な方法で小売購買を行っている度合い。例:ウェブtoストア、またはストアto ウェブ。得点データは、国別および小売セグメント別の結果を表示している。0-100点の間の点数で評価され、最終的な指数の40%に反映される。(データ出所:PwC Total Retail Study)
  2. デジタル化度 販売チャネルのデジタル化度。この数値は、特定の国および小売セグメントにおける、インターネットおよび携帯経由の買い物の割合を表す。0-100点の間の点数で評価され、最終的な指数の20%に反映される。 (データ出所:ユーロモニター)
  3. オムニチャネルの成長性 インターネットと携帯を経由した小売業の成長性。この数値は、伊2012-2016年の間の、インターネットと携帯が小売業売上全体に占める割合の年平均成長率(CAGR)予測である。0-100点の間の点数で評価され、最終的な指数の20%に反映される。(データ出所:ユーロモニター)
  4. インフラ 特定国におけるオムニチャネル機器とサービスの普及率。この測定値は、4つのサブ測定値によって構成される(ブロードバンドが開通した世帯の割合+携帯普及率+スマホ普及率+タブレット普及率およびそれぞれのユーザーの人口に占める割合)
    デジタル化度は、これら4つのサブ測定値を平均した値として0-100点の間の点数として求められ、最終的な指数の20%に反映される。 (データ出所:PwC グローバル エンタテイメント&メディア アウトルック)

本分析は2015年に、2014年度のデータに基づいて行われた。指数は、9つの小売セグメントの数値に基づいて評価された。①消費者向け電機・家庭用電化製品、②衣料・フットウェア(スポーツ用品/アウトドアを含む)、③メディア製品、④家庭・インテリア用品、⑤パーソナルなアクセサリーとアイウェア、⑥DIY/日曜大工、⑦食料品、従来の⑧玩具・ゲーム、⑨美容・パーソナルケア(消費者向けヘルスケア製品を含む)。
本調査では、以下の19の国・地域におけるオムニチャネル活動について調べた。米国、英国、オーストラリア、デンマーク、カナダ、中国、ベルギー、日本、中東、フランス、イタリア、ドイツ、ロシア、スイス、チリ、トルコ、インド、南アフリカ、ブラジル(順序はランキング通り)。各国の得点は、全ての小売セグメント全体の得点を加重せず単純平均した点数である。

PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。