日本のサード・ビリオン:勝ち抜くための組織変革~女性活躍に向けた8つの優先施策~

エグゼクティブ・サマリー

近年日本国内でも女性の活躍できる環境の整備の重要性が指摘され、各種の取組みが進んでいる。女性の活躍できる環境とは、即ち、多様かつ柔軟な組織が実現されていることであるが、これはまさに、多くの日本企業の今後の成長にとって必須なものである。本稿は、企業のみならず、国として、女性の活躍できる環境を整え、将来の豊かさの前提条件を整えるために、優先的に取り組むべき課題を明らかにするものである。

日本の経済構造は今、大きく変容しつつある。自然災害からの復興と、20年にわたる経済停滞を断ち切るため、日本は経済成長重視の方向へと舵を切った。日本は、その目標を達成するために、これまで長きにわたって守り実践してきた様々な慣例も、再考しようとしている。このような空気の中、職場における女性の役割を問い直すことも、喫緊の課題として浮上してきている。

Strategy&が行った、世界での女性の社会進出に関する調査の結果、日本の変革に女性の活躍が寄与し得ることが判明した。日本の女性の教育水準は既に高く、社会進出するための下地は整っている。女性の大学・短大への進学率は56%であり、男性と同水準である。また、大学院修了者も男性の15%よりは低いものの、6%存在している1。しかし、ビジネス界となると話は別となる。日本の女性はキャリアの早い段階で離職し、その後は非正規の従業員として働くケースが多く、組織において重要な責任のある地位にはほとんど就かないというのが現状である。

我々の推計では、女性の社会進出を男性と同水準まで高められれば、日本のGDPを9%増やすことができる。しかしそれ以上に、より多くの女性が責任と権限を伴う高い地位に就くようになれば、創出できる価値は計り知れないほど大きい。

日本企業はこれまで、同質性の高さ(ダイバーシティの少なさ)による意思疎通の良さを強みの源泉と考えてきたが、日本がグローバルなビジネスチャンスをとらえて新たな経済成長軌道に乗るためには、組織の構成員の多様性、組織の柔軟性を高めていかねばならない。日本企業は今後、さらにグローバル化を推進することに加えて、生産性を高め、健全なリスク・テイクを行い、起業家精神とイノベーションを強化する必要がある。その全てにおいて、企業内に多様な観点を取り入れることが重要であり、女性の声だけでなく、その他高齢者、障がい者などの少数派(マイノリティ)、若年層、海外経験者、中途採用者などの声も、積極的に取り入れていく必要がある。

政府は、アベノミクスにおいて「女性が輝く日本」を提唱、安倍首相が2014年1月の世界経済フォーラムでの演説で、「いまだに活用されていない資源の最たるもの。それが女性の力ですから、日本は女性に、輝く機会を与える場でなくてはなりません。」と述べている。そして、2020年までに政府と民間企業における指導的立場の3割を女性にするという目標を掲げて、決意を再表明した。

Strategy&では、日本がこの大きな目標を達成するために何が必要かを明らかにするために、役員・部長クラスの女性達へのインタビューを行った。その結果、成功を阻害する最大の要因は、典型的な日本の職場にいまだに根強く残る硬直性であると判明した。

今回のインタビュー結果を受けて、労働力の柔軟性を高め、女性達がその能力を最大限に活用できるようにするために日本企業が行うべき、次の5つの優先施策分野を特定した。

「経営トップのリーダーシップ」
「組織の変革への取り組み」
「指標の共有」
「先入観を排除する」
「他の組織との協働」

各々の企業が率先して施策を推進しなければ、日本がその目標を達成することはできない。日本全体が経済的に繁栄するような変革を実現するには、企業が行動を起こさなければならない。

より多様で柔軟な職場作りに成功をおさめた企業が、新たな競争優位性を確立することができるのであり、その優位性がさらに、今後10年間の持続可能な成長のための基盤となるのである。


発揮されていない潜在能力

2012年、は世界128ヶ国における女性の社会進出状況を分析した「Empowering the Third Billion(第三の10億人のエンパワーメント)」2という報告書を発表した。この報告書では、経済的繁栄と女性の社会進出の間に相互関係があることを確認し、女性が仕事を通じて経済に貢献できる能力を指標化し、各国をランク付けした。

女性の実際の社会進出状況を示す「アウトプット」指標において、日本は128ヶ国中78位と、ボリビア、コスタリカ、グルジア、韓国といった国々と同程度であった[図1](アウトプット指標では、労働力全体における男女比率、指導的地位における男女比率、男女の賃金水準等の要因を考慮に入れた)。その一方で重要なのは、日本は、女性の経済的地位を向上させるために国が導入している施策の充実度合いを示す「インプット」指標においては、128ヶ国中29位と、ずっと高い結果となっていることである[図2](インプット指標では、教育機会、教育水準に関する統計、女性に就労機会を与える政策の有無、女性起業家Strategy&の支援制度の有無等の要因を考慮した)。


女性の実際の社会進出状況


女性の社会進出の支援状況


この調査からは、日本では、女性の準備が整っているだけでなく、女性が働くことでその能力を発揮するために必要かつ意味のある対策が講じられているということも示唆される。しかしながら、結果が伴っていない。日本の女性達は優れた人材となる可能性が十分ありながら、実際にはその能力を発揮する機会を与えられていないのである。


インクルージョンの3つのレベル

教育水準の高く、高い潜在能力をもつ日本の女性を「人材」として十分に活用するためには、日本企業は職場における女性のインクルージョン(受け容れ度)を向上させていかねばならない。インクルージョンには、「雇用」「キャリア開発」「意思決定への参画」の3つのレベルに分解して考えることが有効である。

雇用

日本の女性は、サービス業・小売業では既に比較的高い就労率に達しているが、技術、工学、理学系の専門知識が必要な業種での就労率は低い。また、業種によらず多くの企業が、女性社員はいつか離職するという先入観をいまだに持っており、多くの企業が女性の採用を一定割合に抑えるなど深刻な影響を与えている。

冒頭でも述べたように、このことは日本の経済全体に深刻な影響を及ぼしている。女性の就労を、男性と同じ水準へと増やすだけで、GDPが最低でも9%増加すると推計されている。この潜在的増加幅は、日本は先進国の中で最も大きい[図3]。


男女同等の雇用が与えるGDPへの影響


キャリア開発

日本企業でも、既に女性は、勤勉にルーティン作業をこなす優秀な事務職として重宝されている。しかし、先進的な企業においては、女性も幹部育成の対象として、研修の対象に優先的に加え、積極的に育成に努めている。また、リスクや家庭とのバランスに決断を迫るようなキャリア上の選択肢も、暗黙のうちに機会を奪わずに、積極的に与えている。

優秀な女性を採用しても、キャリア開発を行わないことには、次のステップにはつながらないことを明確に認識しているのである。

意思決定への参画

女性は昇進の機会がほとんどなく、重要な意思決定に参加する機会が限られていることが多い。女性の活用に先進的と言われる日本のリーディングカンパニーを対象としても、女性が男性と同程度に管理職に昇進しているケースはない[図4]。また、多くの日本企業において、女性の側も昇進への期待をほとんどしていない。


管理職へ登用される女性は少ない


さらに、女性は平均して、同等の職を持つ同僚男性に比べて賃金が30%少ない3。子どもを持つ女性にとっての状況はさらに悪い。出産後、再就労を望む女性のうち希望がかなうのはわずか43%であり、何らかの職を確保できた場合でも44%が以前よりも低い賃金で雇用されている3 4


柔軟性のない職場モデル

日本は終身雇用制が失われつつあると言われるものの、真面目で忠誠心が高い労働力と、安全、快適かつ健康な暮らしを支える各種の制度的なインフラや、強い団結力をなお有している。実際に1人当りGDPは今も増加中である。ならば、なぜ日本は変革する必要があるのか?

実は、日本の1人当りGDPが上昇しているのは、経済が成長しているからではない。日本の人口が減少しているためである。ゆくゆくは、マクロGDPの縮小に起因して、一人当たりGDPの縮小ももたらされる。実際に、世界における日本の競争力は既に低下していると言われている。日本における製造コストは高く、ホワイトカラーの生産性は低い。国内需要がせいぜい横ばいであるため、日本企業は海外市場に成長を求めるしかない。しかし近年では、日本は、隣国の韓国や中国に、技術や生産プロセスのイノベーションにおいても、グローバル展開においても遅れを取っていると言われるようになってきた。

日本は成長するために、人材を全面活用していかねばならない。女性、中途採用者、若年層に積極的に機会を与え、遺憾なくその能力を発揮できるようサポートする必要がある。そのためには、同質性の高さに依存してきた伝統的な日本の職場モデルを変革し、特に「多様性(ダイバーシティ)の欠如」と、「組織の硬直性」という、相互に関連した、しかし独立した課題を解決することが必要である[図5]。


成長を可能にする職場は多様かつ柔軟である


多様性の欠如

多くの日本の大企業は見事なまでの均質性を保っている。役員はおろか、管理職も、年功序列の頂点に立つ新卒生え抜きの日本人男性が占めている。一部には、女性や中途採用者、外国人などがいるものの、組織の均質性に調和できる人材に限られる。年功序列なので当然のことながら、新卒生え抜きの日本人男性であったとしても、20-30代の「若者」が公式にリーダー的な地位に就くことはほとんどない。長い勤続年数の中で組織内の調和を重んじてきた人材が重用される結果、リスクを避ける風潮は強くなり、一定のリスクをとることが前提となるイノベーション文化は育たなくなる。伝統ある大企業では、会社の未来を担う「エリート」と認定されると、むしろ経歴に傷がつくリスクのある(逆に言うと、イノベーションの機会もある)ような地位に就かせなくなってしまい、まして社外への流出の原因となりうる海外赴任や、他社への出向には出さない傾向にある。そうして保たれた均質性の結果として、消費者の大多数を占める、女性や若年層などについての洞察が弱いものになってしまう。海外顧客や海外パートナーに対する洞察は、さらに浅いものになってしまう。

組織の硬直性

日本の「サラリーマン」は、極めて画一的な会社員人生を送る。多くの大企業では、特定の大学から新卒の学生を毎年採用し、社員は定年までその会社、あるいは子会社に勤め続ける。給与や昇進は通常、年功序列で決定され、日本人男性であっても、若いうちは重要な権限を与えられず、企業における年次に応じた昇進・昇給を待つしかない。業績連動の賞与はあっても微々たるものであるため、高い業績を挙げようとするインセンティブも働かない。それにも関わらず、会社での長時間労働は当然のことと期待され、(家庭や社会、趣味などの)仕事以外のことに時間を使うことは難しい。日本企業における「多方面への過剰な根回し」、つきあい残業、時間外の「飲みニケーション」など“直接、顔を合わせる時間を取る”ことの重要性は、海外現地法人に採用された外国人社員などから見て、常軌を逸していると映る。

このように長時間労働を求められる慣習があるため、子どものいる女性のように、在宅勤務などの柔軟な勤務制度を活用する必要のある社員にとって、キャリアを続けることが特に難しい問題となってしまう。

これらの状況から鑑みれば、キャリアを築いた日本人の女性達が、働きやすい会社として挙げた上位10社のうち5社が外資系であることは驚くに値しない5。多国籍で展開する外資系企業は、日本人女性が提供する価値を確実に認めており、今後も女性達の中でも最も才能ある人材は外資系企業に流出し続けるであろう。


多様性確立のための8つの優先施策

日本の政府および企業は直ちに、人材、意識、グローバルな見識・経験など
多面的に、多様性を取り入れる手段を講じなければならない。また、より柔軟なキャリアパス、 仕事の仕方、成果に応じた評価・昇進制度を構築するべきである。

我々は、役員・部長クラスの日本人の女性たちにインタビューし、彼女達の経験と、より多くの女性が活躍するために何をすべきかを尋ねた。これらのインタビューの結果、女性が活躍できる環境を整えるための、5つの優先施策の分野が特定された。

これらの優先施策は企業のとるべき施策である。なぜなら日本企業の多くは、本来あるべき姿から遠い上に、職場こそが、女性が輝くべき現場そのものだからである。

とはいえ、日本企業でも第一歩を踏み出している事例はいくつもある。例えば、ユニクロを傘下に持つ株式会社ファーストリテイリングは、完全実力主義や世界同一賃金を導入し、上の職位になればなるほど高い成果を求める一方、長時間労働を是正するべく本部で週4日のノー残業デーを設定している。また、パナソニックやサントリー・ホールディングスなど、フレキシブルな勤務時間や在宅勤務制度を整える大企業も増えている。また、サイバーエージェント、DeNA、スタートトゥデイ、楽天など、急成長している日本企業は、中途採用の人材を惹きつけることでその成長を支えてきた。多様な人材が活躍できるかどうかは、企業自身がその人材の潜在能力を活用するための意志と能力がある場合に限られている。

以下に、日本企業が、組織内の多様性と柔軟性を向上させるために必要な施策分野のうち、優先順位の高いものを提言する。既に指摘したように、将来的な成長のためには、これらを重大な戦略的至上命題として取り組んでいかねばならない。女性が活躍する企業は、グローバル化した市場で成功するために不可欠な多様性、柔軟性を兼ね備え、成長に向けて最適な人材が存分に活躍しうる環境を整えた企業であるとも言うことができるだろう。

企業にとっての5つの優先施策

経営トップのリーダーシップ

経営トップ、特に社長、CEO自身が、なぜ女性が活躍するべきなのかを明確に説明し、その目標を確実に実現していくことをコミット(確約)しなければ、変革が起きる可能性は低い。経営トップは、より多くの女性を重要な役割に登用するだけでなく、その成功事例を広く伝えなければならない。また、幅広く各階層の社員に、その最終目標は多様かつ柔軟な組織への変革であり、長期的戦略的課題の重要な礎であることを明確に説明しなければならない。また、宣言した目標の実現に向けては、十分な人員と資金を割り当てるなど具体的な取り組みを進め、より確実に結果を出すため、進捗状況をモニタリングするべきである。

例えば、日産自動車株式会社のカルロス・ゴーンCEOは、日産の組織的な均質性、硬直性を打破するためにより多くの女性管理職が必要との認識から、2003年からダイバーシティを組織的に推進し、2012年までに同社における女性管理職の数は4倍に増えた。その際、ゴーンCEOは、ダイバーシティ推進のための仕組み構築を任務とする、独立した常設の推進組織を設置した。その取り組みの一環として、人脈作りやコミュニケーションの機会が提供されるとともに、組織全体に多様性のあるマインドセットを醸成するためのプログラムも実施された。

組織の変革への取り組み

女性の活躍できる職場の整備と言っても、その実現のために取り組むべきことは多岐にわたる。まずは、評価制度の見直しが必要となる。上司のお気に入りという馴れ合いの評価制度から脱し、制度の均質性と透明性の向上がされないと、どの女性が評価されるべきかが不明確である。

また、限られたポストを前提に女性の活躍を論ずれば必ずその直接の競争相手となる(優秀な)男性があおりをうけることとなる。既に「あがった」(優秀ではない)男性が管理職ポストに就いたままであるのに、である。先進的な企業の多くは、女性の活躍を論じる際には、業績連動と降格制度を同時に導入し、若手の男性も十分に登用される道を用意している。

これらの取り組みは組織とその構成員の行動に大きな変革をもたらすものとなる。この変革を成功させるためには、男女を問わず、インフルエンサー(影響力の大きい人材)と、ロールモデルを活用するべきである。具体的には、役員、部長クラスの女性に加え、女性の幹部候補を育成してきた男性の努力を表立って称えて、変革に向けた推進力とする。従来型の均質さから逸脱した人材(女性のみならず、外国人や中途採用者なども含め)を割り当てられたリーダーは、時に、当の人材自身以上に、大きな障壁を感じ、解決のための努力をしてきている。

指標の共有

施策の成功度を測るための指標を設定し、目標に向けての進捗度も測るべきである。目標の例としては、会社における女性管理職の人数だけではなく、各部署内におけるワーキングマザーの正社員に占める比率、などでも良い。こうした目標は、対外的に公表しなくてもよいし、「必達」でなくともよいが、結果の出る取り組みを行うために設定することが有効である。

日本コカ・コーラ株式会社は、女性がより活躍できるように会社全体の目標を設定している。特に同社は、女性社員は、女性消費者のニーズについて重要な洞察をもたらしてくれると考えているためである。同社は、その目標を達成するために、各種の社内のネットワ-キングのための機会を提供しており、これにより、自発的な相互の啓発や、課題の解決が多くなされ、社内の空気が変わりつつある。ある幹部は「我々の顧客の70-80%は女性である。我々は管理職の少なくとも40%を女性にするという目標を達成することが喫緊の課題と考えている」と述べている。

先入観を排除する

思い込みから頑なに抜け出さない、ただそれだけの理由で、女性の活躍が阻まれることは多い。管理職の立場からは、女性の部下の昇進や転属を、家庭との両立などを先回りして配慮して見送るケースもあるかもしれない。こういう「配慮」は半ば、思いやりだが、半ば先入観により本人の機会を奪っている可能性があり、企業にとっては人材の最大限の活用を阻害してしまう場合がある。

このようなジレンマは、実は簡単に解決することができる。ただ、聞いてみるだけで良い。「大阪工場の工場長になってみたいか?」「半年間米国で新規事業立ち上げを指揮する気はないか?」。もし、彼女にその気がなければ、自分で意思表示をするはずである。しかし、上司が何も聞かずに勝手に決めてしまえば、上司も部下も機会を逃してしまう事になる。男性にも、女性にも、どういうキャリアを望むのかを、きちんと聞くことが重要である。

他の組織との協働

ほとんどの日本企業は、多様性と、組織の柔軟性を高めるためには、どこも似たような課題に直面することであろう。そのため、これらの課題を解決するために互いに手を組むことで、多くの恩恵を得ることができる。中でも、ベストプラクティスや、育児などのサポートサービス、人材管理の共有化などの3つの領域が考えられる。

ベストプラクティスの共有
企業同士の個別の情報交換や、複数の組織が集まって事務局をつくるなどして、データを集計し、取り組みの結果を蓄積・共有することで、より迅速にかつ深く取組みを進めることができる。国内では、既に経済産業省などが事例を収集、公開する他、それ以前から民間NPOなどを中心に先進企業の取組みが進んでいる。

例えば、費用を折半して保育施設を共同経営することで、社員のための育児支援を提供できる。

また同様の形で、介護や育児の緊急支援サービスも社員のために提供できる。これらのサービスを自社では社員に提供しない企業であっても、社員の境遇が類似する他社との連携により、より安価で利便性の高いソリューションを開発しうる。例えば、多くの社員が同じ鉄道の沿線上に居住する会社同士の場合、その鉄道会社と連携して、介護、育児サービスを共同で開発することも考えられる。

人材管理の共有
現在の人材管理では、育児のために離職した女性は、社内の人材市場から完全に消えてしまい、いざ企業が短時間の勤務形態でも許容可能な人材を探したとしても、彼女は採用対象に入らないという問題がある。企業横断的に、「いつかは復職したいかもしれない」という女性のデータベースを構築し、その時点で働いても良い時間帯や内容などを登録しておけば、有能な人材を活用しうるのみならず、企業も人材の活用により柔軟性が生まれ、メリットが大きいのではないだろうか。

国が取り組むべき3つの優先課題

教育を通じた新たな夢の提供

日本人女性の教育水準は高いが、その教育制度は、女性がキャリア向上を追求することを奨励するためにうまく機能しているとはいえない。いまだに多くの女性達は、たとえ高い学位を取得していたとしても、いずれは仕事を辞めて主婦になるものと、(年齢の高い世代の男性からは)期待されている。

日本は、その真の可能性を実現するためにも、女性が、今までとは違った夢を思い描けるようサポートしなければならない。非力さを前提とする「可愛さ」や「ぶりっ子」を強調することを抑え(おしゃれやデートにも、研究上の実績を上げることにも全力でまい進する科学者はもっともっと増えるべきである)、科学や技術の分野で実績を挙げたり、組織を率いている人を、ロールモデルとして賞賛すべきである。大学も、日本がこれから繁栄できるかどうかは、女性達が技術的スキル、批判的思考、リーダーシップのスキルを高めていけるかどうか、そしてそんな彼女達の能力を活かし、責任と権限ある高い地位へと上昇させることができるかどうかにかかっていると強調することで、社会の考え方を変えることができる。

学校は、男女平等の価値観を教え、男性だけでなく女性にも、リスクを取り、創造的であり、イノベーションを追い求めるよう奨励すべきである。家庭以外での女性の貢献も認め、賞賛すべきである。具体的には、社会人入学や社会人大学院などのプログラムへの女性(産休・育休明けも含む)入学を促進する制度などを導入して広くPRし、キャリア向上の助けとなる生涯教育プログラムを充実させるべきである。

育児支援を通じた機会の提供

政府は、日本における育児施設を増やすために、具体的な取り組みを開始した。この取り組みは、継続していくことが極めて重要である。女性は、子どもたちへの適切な保育という選択肢を利用できない限り、仕事で持てる能力をフルに発揮することはできない。女性が自らのキャリア向上の助けとして、また、働いていても育児、教育をおろそかにしているという罪悪感から解放されるよう、より柔軟に質の高い保育サービスを活用できるようにするため、国にできるいくつかの施策を下記に挙げる。

公立保育園の大幅増設と柔軟な運営
早朝、深夜の延長保育を提供する。また、入所のための様々な資格条件を和らげ、より多くの子ども達を預かることができるようにする。ゆくゆくは、幼稚園と同様、ほぼ全ての乳幼児が保育園で幼児教育を受けられる体制の整備を目指せば、格差社会による家庭教育の不平等も是正する打ち手ともなろう。

学童保育への民間企業の参入促進
通常の授業時間が終わった後に、学内でそのまま課外授業を行う。家庭と同じように、課外授業では、子供たちは宿題を済ませ、その後は自由に遊ぶことができるようにする。学童保育の運営は民間企業が学校施設を使って行う参入を促進する。

保育サービスの提供
今後、より保育士の数の増加と質の底上げが求められるであろうことを想定し、国は保育園の箱への投資のみならず、保育士の待遇の改善が急務である。志の高い保育士でも、過酷な職場環境と低い給与水準では長く勤め続けることは難しい。

その上で、親が、残業しなければならず、定時に帰宅できない際に、バックアップとして緊急支援が受けられるようにする。既に一部の市町村では、このために地域のファミリー・サポートプログラムを提供しており、市民ボランティアの「少しの空いた時間」を組織化して、地域の子ども達の育児支援に当たっている。育児経験のある地域のシニアは、子ども達を世話することで、年金に上乗せした支給を受けることができるようにする。また、実現は多くの議論を巻き起こすであろうが、より多くの外国人の保育士の入国を認めることで、保育に従事する人の数を増やすこともできる。

国の目標と合致した適正なインセンティブの付与

多くの場合において、日本におけるインセンティブは、女性がプロフェッショナルとして出世する意欲を削ぐ方向に働いている。特に、以下の2つの施策を行い、インセンティブの方向付けを大きく変えねばならない。

年金保険制度の変更
日本の扶養控除、税金、年金制度は、妻が働かずに専業主婦でいた方が、結果的に世帯の可処分所得が多くなるという形を取っている。多くの世帯は、妻が扶養家族の地位を喪失しないよう、妻の給与が103万円、あるいは130万円を超えることがないよう調節している。従来のモデル世帯であった、専業主婦世帯から共働き世帯へと舵を切るにあたっては、このような控除は廃止すべきであり、女性も働き、経済貢献することを奨励するような新たなインセンティブが導入されるべきである。

起業家にとっての逆インセンティブの廃止
日本の破産法は、事業主が会社の借入金を個人保証することを強制するものであり、起業家を目指す人たちにとって強力な抑止力として働いている。政府は、国の破産法を改正して、自宅を含めた個人資産を除外すべきである。また、個人事業主については、営業赤字の繰り越しは3年であるが、これを7年に繰り越すことも検討の対象とするべきであろう。起業自体の数が多いほど成功事例も増え、日本がより豊かになるための進歩が加速化されるはずである。

日本は、自らを経済成長の軌道に再び乗せることができる立場にあり、今、日本にとっての追い風も吹いている。国は女性達がより経済に貢献できるようにするための政策策定も行っている。ここから何をするかは、企業の取組みにかかっている。日本企業は、グローバル市場で成功するために、自社の多様性を向上させ、より柔軟な組織へと生まれ変わらなければならない。日本企業が成功するためには、女性(のみならず、若手、中途採用者、外国人など含む多様な人材)が活躍し得る環境を整えなければならない。また、企業が女性の活躍しうる環境を整えるために取る施策は、その組織全般に多様性、柔軟性をより浸透させ、新たな機会の創出につながるのである。



脚注

  1. 文部科学省の「2012年度学校基本調査」
  2. この報告書によると、世界では2020年までに、2012年と比べてさらに10億人の女性が経済活動に関与するようになる。我々は、このグループを「Third Billion(第三の10億人)」と名付けた。なぜなら、このグループの持つ経済力は、中国やインドという、10億人強の人口を持つ国家のものと同等となるからである。Strategy&の「サード・ビリオン」専用ページは、以下のURLからアクセスできるwww.strategyand.pwc.com/thirdbillion
  3. 厚生労働省「賃金構造基本統計調査」
  4. 「Off-Ramps and OnRamps Japan: Keeping Talented Women on theRoad to Success」 Center for Work-Life Policy, 2011
  5. ビズリーチ調査

このレポートは旧ブーズ・アンド・カンパニーがStrategy&になる以前の2014年2月に発行されたものです。 PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

"Empowering the third billion: Women and the world of work in 2012 (Briefing report)", October 15, 2012