日本企業のデジタル化とCDO (Chief Digital Officer): Disrupt, Develop, Drive and Disappear

はじめに

「デジタル化は想像以上に進めるのが難しい」。多くの関係者がそのようにコメントする。しかし、デジタル化は技術の進展とともに進めなくてはならないだけではなく、発想を変えて、自社を変革しきる好機と捉えれば、従来の日本企業の強みと相まって日本企業が再びグローバル市場で強みを発揮するきっかけとなる可能性がある。そのため、デジタル化を推進するために、企業の現状を揺り動かし、変革を実現するミッションを持つCDOを設置する動きは日本企業にも広がりつつある。

Strategy&では、企業のデジタル化の推進において最高デジタル責任者(Chief Digital Officer: CDO)に着目してグローバルで調査を行い、考察を発表してきた(以下、CDO調査(グローバル))1。この度、最新版となる2016年度CDO調査(グローバル)の調査結果の発表に合わせて、日本国内においても従業員500人以上の企業の部長職以上を対象に日本企業のデジタル化の取り組みについて調査を行うとともに、特徴的なデジタル化の取り組みを行っている企業のデジタル化推進責任者にインタビュー調査を行った(以下、CDO調査(日本))2

本稿は、デジタル化の本質を踏まえ、デジタル化の推進のために経営陣とCDOが取り組むべき課題と対応について、Strategy&のグローバルおよび日本におけるCDO調査を基に考察する。


1. 日本企業にとってのデジタル化とは

そもそもデジタル化とは何か。これまで言われてきたIT化とはどう違うのか。
デジタル化をどう進めるかを議論する際に、このような疑問が呈されることが増えている。

デジタル化とは、「デジタルによる事業環境や消費者・顧客のマインド、行動の変化に企業が対応するための変革活動」

デジタル化を狭くとらえて、ウェブ系の新技術を導入することや、デジタルマーケティングのことを指す場合もある。しかし、本質的な違いとして、消費者のモバイル利用や企業のIoT利用の拡大など、顧客接点のデジタル化が進展してきていることを挙げておくべきであろう。従来のIT化が企業内に閉じた社内業務効率化の側面が強かったのに対して、今のデジタル化はより多面的で本格的な変革となってきている。そこで本稿ではデジタル化とは、「デジタルによる事業環境や消費者・顧客のマインド、行動の変化に企業が対応するための変革活動」と定義づける。膨大なデータが蓄積され、ハードの容量や処理スピードが拡大し、分析技術や人工知能の研究や実用化が進展し、個人、組織、機器までもがネットワーク化し、互いにコミュニケーションするためのインフラが整う中、これらをいかに活用するのかが論じられている以上、個別の技術や手法ではなく、これらを一体的に扱い、企業に与える影響を考えることが必要である。また、従来のIT化が情報システム部などの機能部門内に閉じた活動が中心であったのに対して、今後のデジタル化は部門横断的な業務プロセスの見直しや、顧客や取引先との関係性のあり方の見直しにまで踏み込んだ変革活動として行われるという点にも注目すべきである。

この本質的なデジタル化は近年ようやく理解され始め、先進企業においては意欲的な取り組みが進む一方、多くの企業では単発のウェブ系技術の導入のことをデジタル化と称している。

CDO調査(日本)において、デジタル化を推進していると回答した企業回答者は88%にのぼる。一方で、デジタル化の推進の姿勢については、75%近くの企業が横並びあるいは、同業他社の状況を見つつ進める方向であるとしている(図表1参照)。最新技術の導入であれば、他の企業が導入してその技術が有用か否かを見てから導入を決めるのも良いだろう。しかし、デジタル化を企業の変革活動、しかも、環境や消費者の変化に対応するための変革活動だと捉えると、横並びの変革は大きなリスクを内包する。対応が遅れて競争に敗れ去る可能性があるのである。


デジタル化の推進状況および、その推進姿勢(従業員数500人以上の企業)


デジタル化とその推進の姿勢を検討するにあたって考慮するべき重要なポイントは二つある。一つはデジタル化により、事業環境のみならず消費者・顧客のマインドと行動が既に大きく変化しており、今後はその変化がより大きくなるであろうという点。そしてもう一つは、その変化に対応するために企業は少々のカイゼンではなく、事業の行い方を抜本的に変える自己変革に取り組むことが求められるという点である。

デジタル化の推進は進むが、他社に先駆けて進める企業は25%に留まる

消費者・顧客のマインドと行動が既に大きく変化していることに議論の必要はない。消費者は極めて多くの情報をモバイルやタブレットを通じて収集し、自ら情報を発信拡散している。個人や組織間の情報の流れがかつてない密度で活発化し、一人の消費者の体験が瞬く間に多くの消費者に共有されるようになる。その効果は、日本発のグローバルヒットとして大きな経済効果につながることでも、「炎上」という形で現れるケースまでもある。消費者は店舗を訪問せずにモバイルを通じて購買できるようになり、さらに、VR(仮想現実)やAR(拡張現実)などの技術の発展によって一定の疑似体験をすることが可能となっている。また、情報の蓄積と分析技術の進展により発信される情報がカスタマイズされ、ますます個々の消費者に向けてターゲットされた情報発信がされつつある。これらが、世界で起きている人口動態や富の分配の大きな変化の流れと相まって、製品・サービスの多様性がさらに求められるようになるなど、消費者や顧客の生活や行動、欲するモノ、あるいは所有という形態に対する考え方が大きく変化していくことであろう。

デジタル化により企業の事業運営の効率も大きく向上する。建設工事や生産現場などに限らず、いわゆるオフィスワークでも自動化や省力化が可能となる。これは、これからの日本において労働力不足の抜本的な解決策となる一方で、単純な生産活動に対する価値が薄れるということも意味する。また、消費者や顧客の購買や製品サービスの利用に関わる膨大なデータを収集し、高速で分析することでよりファクトを早く正確に集め、的確に判断できる環境も整いつつある。つまり、従来は生産や事務処理の正確性と均質性を人が労働力として担保していたため、その労働力の質や規模が優位性の根源(または弱点)になりえて、競争力の差が生じていた。しかしこれからは自動化により差がつかなくなっていく。また同時に、単純な作業に見えても細かで繊細な作業に差がでる感覚や、経験を要する生産工程、事務や営業など属人性の高い業務プロセスのノウハウにおいても、その「匠の技」を新人でも行えるようにガイダンスとして提供し、さらには自動化して再現できるようになる。従来はやりたくてもできなかった新しいカイゼンも、技術が発展し環境が整うために可能になっていく。先行する企業がこの取り組みを加速させていけば、市場全体でもスピード感やコスト水準などの事業環境が大きく変化する。

後追いの姿勢では、真のデジタル化は望むことはできない

これらの変化に直面して、企業が従来通りの手法に固執していては取り残されてしまう。事業の行い方を抜本的に変える自己変革に取り組むことが求められる。特に、日本の得意とするモノづくりという分野において、優位性は相対的に低下する。製造業といえども製造のみを行い続けているわけにはいかなくなる。モノづくりの効率性は格段に向上して、新興国企業のキャッチアップも容易になり、同質的な競争のままではマージンは縮小してしまう。このため、製造業は下流に進出して小売り(ダイレクトチャネルなど)まで一貫して行うか、あるいは、サービス化するなどしなければ、競争優位を保てなくなる。下流進出、サービス化のいずれにしても、消費者や顧客と直接対面し、そのニーズを理解し対応するという意味で従来型の製造業のあり方とは根本的に異なっていく。企業のあり方、マインド、行動から全てが変化する必要に迫られるのである。一方で、有望なブランドが自社で小売りまで手掛け始めた場合、既存の小売業にとっては脅威となる。小売りとしての目利き力や販売現場でのおもてなしを背景にしたブランドの創出や向上なくしては、ブランドの強いメーカーの小売り事業に勝てなくなってしまう。これは既にアパレルや家具で現実となっている。主にデジタルによって変化する顧客、消費者、さらには市場にデジタルで対応することは、外的な環境変化への受動的な反応というだけではなく、技術革新を活用して能動的に自ら変革する機会という意味でもある。

本稿のデジタル化の定義に照らせば、横並び、あるいは後追いの姿勢では、真のデジタル化は望むことはできないのである。


2. デジタル化と経営の役割-CDO

本質的なデジタル化を進める先進企業では、経営陣の役割が再認識されつつあり、CDOはデジタル化において自社の目指す姿を具現化する責任をもつ役員として注目されている。Strategy&のCDO調査(グローバル)において、CDOを設置している企業は2015年の調査対象企業全体の6%から、2016年には19%に飛躍的に拡大した。日本では、2015年度調査時点ではCDOを設置している企業がなかったのに対して、今回の2016年調査では7%の企業にまで広がっている(図表2参照)。 2015年から2016年までに各社が公表しているだけで、CDO、あるいはCDOと同種の役職の設置が相次いで発表されている。今後数年の間に、CDOの設置は加速度的に増加し、デジタル化への変革が本格化する中、ますますCDOの設置を選択する企業が増加するものと思われる。


CDOの設置の状況


では、なぜそのような動きが広がっているのか、デジタル化における経営の大きな役割をいくつか見てみる。

1) 社会経営課題の解決という目的

デジタル化を推進しようとしている企業からよく聞く悩みとしては、数多くのことをやってきたがそれぞれが単発であり、方向感がよくわからなくなってしまった、というものである。

大企業において起こりがちなことであるが、「手段の目的化」がデジタル化でも起こりやすい。本来は業務上の課題を解決するという「目的」があって、その「手段」としてデジタル化を行うはずなのだが、○○というデジタル技術を導入することが「目的」になってしまい、それは何のためだったのかが忘れ去られてしまうのである。多様で新しい技術やアプローチが日々提供され続けている一方で、これにより解決すべき課題が明確になっていない限りは、デジタル化に振り回され続けてしまうことになりかねない。数多く打席に立ってヒットを待つというアプローチも必要であるが、打席に立っても全ての球をむやみに打つのではなく、自分が打ちたい球筋はおおむね決めておきたい。

では、どのレベルの「目的」を掲げるべきだろうか。コストや効率面の改善を目指すのであれば、社内的な経営課題の解決を「目的」とすることになる。売上の拡大を目指すならば、顧客の抱えている課題(「困りごと」と表現したほうがわかりやすい)を解決して、その対価を得ることが「目的」になる。さらには社会的な課題(例えば労働人口の減少に伴う人手不足、熟練世代の退職によるノウハウの消失、共働き主婦の離職防止・復職支援など)を解決してその対価を得るということも「目的」として設定可能であろう。

真のデジタル化を実現するためには、取り組みはトップダウンで、自社特有の経営課題の解決を目指して進めることが必要である

デジタル化により解決し得る経営・社会課題を特定し、その方向性を示すことは、デジタル担当部署の役割の一つとしても、上位の「目的」である経営の方向性を示し、課題を明確にすることはデジタル担当部署にはできない。これは、経営陣の役割である。経営陣がその方向性を示し、デジタル化に対する期待を示す必要がある。デジタル化により、自社が新しい環境に対応し、また、新しい価値を提供することを可能とするためには、その価値の内容やなぜその価値が顧客や消費者に受け入れられるのか、経営として明確にする必要がある。これは、新しいケイパビリティ、儲けの型の再構築に連なるものである。

デジタル化の目的が抜本的なものであればあるほど、本質的な変革を達成する必要があるが、そのためには、経営のトップマターとして、トップ主導で取り組みを進める必要がある。変革にはリスクが伴い、また、大規模なリソースの再分配が必要になるため、トップでないと進めることはできず、その方向性が明確でない場合には、組織の理解も得られずに取り組みは結局進まない。

CDO調査(日本)によると、現時点の日本においても、79%が執行役員クラス以上を、48%がCxO以上をデジタル化の責任者と回答している。また、責任者の役職が上になるほど、社内でのデジタル化の必要性の理解が進んでいる様子も確認できた(図表3参照)。


デジタル化の責任者の位置づけと現場スタッフの理解度合い


真のデジタル化を実現するためには、取り組みはトップダウンで、自社特有の経営課題の解決を目指して進めることが必要である。

2) デジタル文化の醸成

デジタル化においてその目的が明らかになった後には、組織の受け入れの土壌、文化を整える必要がある。組織の文化を考える際には、どのような行動を、誰が取っており、その広がりはどの程度なのか、つまり、新しい文化を象徴する行動をとるアーリーアダプターがいるか、そして、その行動は他の構成員に広がり得るのかが問題になる。この点、二つの側面からデジタル化においても経営の大きな役割が生じる。

ロジックを重んじる文化

一つ目の役割は、ロジックに基づいた意思決定が徹底される文化である。多くの企業では、現場の勘と経験を大切にしてきたが、それが故に、団塊の世代の退職時のように人材の流出リスクは大きく、また、ロジック、特に従来の勘と経験とは一見矛盾するロジックを受け入れられず変化に対応しにくい状況にあった。これらの勘と経験を構造化し、体系化し、ロジックに置き換えることができれば、有能な人材を失うリスクに備えることが可能となるだけではなく、その人材を分析力によって増大させることもできる。また、従来の勘と経験の裏のロジックの齟齬、あるいは前提の変化から新しいものが生まれるとすると、変化への対応も容易になる。しかし、このロジックは鍛えなくては構築できない。また一方で、多くの企業では、この現場の勘と経験は説明がつきにくいということを尊んできた傾向もあるようである。そもそも長年の経験に裏打ちされた判断で十分に業務が回っている以上、データは必要ではないし、十分な検証もされていないコンピューターの判断に従うべきではない、投資などする気はない、そのような反発を多く聞く。説明のつかなさを維持しようという力が働き始めると、トライアル・アンド・エラーを繰り返してロジックを鍛えるという、勘と経験のロジックへの置き換えは進まなくなってしまう。

デジタル化の責任者の役職が上位であるほど、社内のデジタル化に対する理解も進む

経営が結果のみを求めると、この傾向は変わらない。つまり、結果を出すためのロジックを問いただしていないからである。数多くの指標を定期的に経営に提出している企業も多いであろうが、ある企業では、その指標を数個に絞ったところ、業績が向上した。経営向けのレポートをシンプルにしたということが重要なのではなく、経営向けのレポートに業績を向上させるためのロジックを明確にし、経営から現場までが合意したことが重要なのである。このようなロジックを重要視する行動が広がると文化になり、勘と経験をデジタル化する流れを後押しする。

ダイバーシティ文化

二つ目は、過去や現在と異なる働き方や考え方を受け入れる文化であり、ここにも経営の大きな役割がある。デジタル化に影響を受けるステークホルダーは多岐にわたる。社内の担当者のみではなく、既存の取引先、顧客などである。しかし、前例踏襲型で縦割りの進んだ現代の大企業社会において、従来のやり方を変えることを受け入れるのは難しい。中には、デジタル化により悪影響を受けるのではないかと懸念し、抵抗勢力になり、あるいは、そこまでではなくとも積極的な協力に至らないケースも多い。このような状況は、悪影響を受ける本人たちからボトムアップで解消されることを期待するのは酷であり、トップダウンで状況を変化させなくてはならない。

また、デジタル化の推進担当者においても、行動や意識の変革が求められる。現在日本においては、デジタル化の担当部署は6割近い多数の企業において情報システム部門が担っている(図表4参照)。しかし、デジタル化の推進と、従来の情報システム部門のプロジェクトの進め方はかなり異なる。先進企業においては、システムの保守運用を主に手掛けるIT部門とは異なる取り組みを進める専任の担当者や予算を明確にするケースや、特定の取り組みのみクラウドの活用など従来型の全社のITとは異なる方向性を試行するケースがある。


デジタル化を推進する専門の組織の有無


文化の具現化と対話の重要性

文化は行動の蓄積により形成されるものとして、ことデジタルについては、経営陣が率先してロジックを重視し、昨日までの常識とは異なる新しいものを受け入れる行動を示すことが求められる。

さらに、デジタル化に成功している企業は、経営陣が信念をもって粘り強い対話を続けている。トップの意思決定から始まり、極めて多岐にわたる関係者とできる限り早い段階からコミュニケーションをとりはじめ、意識の向上と一体感の醸成を行っている。多くの事業責任者や関係者はデジタル化がイメージできずに、ただ、現状を変えることに抵抗感を示している状況に対して、繰り返し説得を続け、デジタル化の本質や、行うべきことについて対話を行っている。

ある生産財メーカーでは、IoT化により実現される内容を表現した動画を作成して経営陣や関係部署に取り組み内容に対する理解を促し、あるいは、小規模なパイロットを繰り返し、現場の関係者の声と経験を蓄積するなど、多面的な対話を行っている。トップダウンに加え、現場における強い影響力を有する人物によるコミュニケーションがなされるように工夫する、その他各種ルートを用意し、実行に移すことが必要である。

3) リソースの確保と配分

デジタル化に成功している企業は、経営陣が信念をもって粘り強い対話を続けている

CDO調査(日本)では、日本の多くの企業担当者は、推進において不十分な点があると感じていることが明らかになった。人材の数や質、予算、IT/インフラ、部門間の協業体制、経営層のサポートの全てにおいて充足感は低いが、特に自社はデジタル化の実行段階にあると認識している企業の回答者のうち、88%が経営層のサポートが不十分であると回答している。また、デジタル化の検討フェーズから実行フェーズに移ると飛躍的に各項目における充足度が下がる。調査を行ったすべてのリソース/環境項目において、検討フェーズから実行フェーズになると十分であるという認識が30ポイント以上下がっており、特に、人材の質においては最も高い42ポイントの差がでている。当初は既存の体制で対応できると思われていても、取り組みを進めると新しい人材、能力が必要だと気付く(図表5参照)。


デジタル化の推進に向けたリソース/環境に関する充足度の比較


現業がある中で、デジタル化の推進にどの程度の資金と人材を配分し、また、取り組みの推進の段階に応じてその配分割合を変化させることは経営の重要な役割である。

デジタル化の推進は、従来とは異なる取り組みを推進するため、人材は内部には存在しないことも多く、その場合には、外部からの人材の確保も必要となる。CDO調査(日本)では、デジタル化の推進のために新規に社外から人材を確保するケースは27%と、社内の別の部署からの配置転換や既存業務への上乗せと比較して少数である一方、社外からの新規の採用の場合にはデジタル化の推進において、他の打ち手と比較して人材の質に対する充足度合いの認識が66%と高い(図表6参照)。


デジタル化を推進する人材の調達とその質の充足度


デジタル化の推進のために、高いスキルを有する外部の人材を招いても、社内に中途社員を受け入れる素地がなくては、人材が定着し、活躍することができない。場合によっては、リソースを確保するために、より大きな人材管理、働き方の仕組みの見直しが求められることもあろう。


3. CDOが求められる場合

CDOの役割は、全社的なデジタル化に伴う全社的な責任を有するという意味で、Chief Technology Officer やChief Information Officer、Chief Data Officerでもない新しい責任範囲を有するものである。つまり、CDOは、デジタル化に対応するための全社的な変革を担当し、社内を揺さぶり(Disrupt)、構築し(Develop)、推進し(Drive)、最後には消滅する(Disappear)存在である。

企業のデジタル化は、最終的には新しい商品やサービスの提供、顧客との関係の再構築、そしてオペレーションの再構成の全てに現れるものであり、そのためには、技術基盤とデータ、組織とガバナンス、最後に企業文化とチェンジマネジメントへの取り組みが要求される。これらを成功させるためには、トップ主導の長期的な視野をもった継続的な取り組みと投資が必要であり、さらに、日本企業に典型的と言われる組織の縦割りを超越した取り組みにより、カスタマージャーニーを自社の組織体制が分断することなく真の顧客視点から一貫して捉えることが求められる。これらは仕事の進め方や考え方、働き方の変革をも必要とする(図表7参照)。


デジタル化のための推進要素


全社的なデジタル化対応に向けた変革を主導する責任を有する経営陣の一員としてのCDOの設置が必要になる場面はいくつかある。例えば、縦割り組織を打開する必要が高い場合、現業から自由な立場からの推進が求められる場合、さらに、CEOがデジタル化の戦略の立案と実行に相応に時間を費やすことが難しい状況である場合、などが挙げられる。

1) 縦割り組織を打開する必要性が高い場合

CDOはデジタル化という広範な責任を有し、顧客との関係性の構築維持から、商品サービスの設計開発、製造、物流など、あるいは、企業の展開する複数の商品、ブランド、サービスなど幅広い企業活動の領域に影響を及ぼす。それぞれ既存の担当部署にて各々デジタル化を推進することももちろん可能であるが、デジタル化においては特に情報の流れが変化するケースが多い。情報の流れが変われば、それに合わせて仕事のあり方やプロセス全体が影響を受けるため、関連各部が連携する必要がある。多くの企業では、関連各部の連携というものは「言うは易し、行うは難し」であり、かなりのリーダーシップがないと物事が進まない。気付けば、同じようなことを重複して複数部署が取り組んでいる一方で、大事なものが漏れてしまうこともある。CDOの設置はデジタル化について、縦割り組織の弊害を乗り越える一つの方策となり得る。

2) 現業から自由な立場での推進が求められる場合

デジタル化の推進を担当する経営幹部が口をそろえて言うのは、デジタル化においては総論賛成各論反対が極めて多いということである。つまり、世の中の流れや顧客の変化に対応するべきであるということは皆理解しているものの、それが自身の業務や役割に具体的な影響を及ぼすとやすやすとは変化しない。デジタル化の過程が困難であればそこが懸念点となり、逆にデジタル化が容易であれば職がなくなるのではないかと心配になる。自身の業務に関わりがある以上、このような反応につながるのは理解でき、当事者による推進には難しさがある。第三者的に取り組みを推進するCDOが、当事者を説得し、自ら進まない取り組みは外部からも支援を行いつつ進めるなどすることで、取り組みを進めることが可能となる。

3) CEOがデジタル化の戦略の立案と実行に相応の時間を費やせない場合

CDOは、デジタル化に対応するための全社的な変革を担当し、社内を揺さぶり(Disrupt)、構築し(Develop)、推進し(Drive)、最後には消滅する(Disappear)存在である

縦割りの弊害を乗り越えるためには、CEOがデジタル化を推進するという選択肢もある。実際、その形態をとる企業もある。しかし、大企業のCEOはデジタル化の推進に必要な時間を使えないことが多い。今まで会社を支えてきた事業の多くは従来通りとはいかず、さらに、各種の業務が既にある中で、デジタル化については、戦略の立案と、戦略の推進の両方にかなりのエネルギーが要求される。自社の経営課題に即した取り組みが必要な上に、ハンズオフの取り組み推進では、現場や静かな抵抗勢力によって従来通りの業務推進が優先され変革が起きにくくなってしまうため、ハンズオンで実行にも時間を費やす必要がある。CDOはデジタル化におけるCEOの役割を果たす。

CDO調査(グローバル)でCDOを設置している企業を従業員数別に見ると、CDOを他に先駆けて設置している割合が最も多いのは従業員10万~20万人未満規模の企業であった(図表8参照)。また、規模が小さくなるほど設置割合は低くなっている。つまり、大企業であるほど、組織がサイロ化するなど硬直化しており、現業が重たく自由な変革は制限され、CEOが現業に費やさなくてはならない時間が多いと想像される。


CDOを設置している企業の割合


新興のインターネット企業ははじめからデジタル化を前提に事業を組み立てているため、「変革」の必要は少ない。一方で、長い伝統を持つ大企業においては長年かけて蓄積された組織、システム、データの保有形態などがあり、デジタル化には相当な覚悟が必要である。


4. CDOとデジタル化のテーマ

「デジタル化とは、企業がデジタルによる事業環境や消費者・顧客のマインド、行動の変化に対応するための変革の活動」と定義づけた場合、具体的な取り組みはどのようなものがあるのであろうか。

1) 「顧客との関係」におけるデジタル化の推進-ターゲティングとカスタマイズ

デジタル化によって第一の大きな取り組み項目となっているのが顧客との関係における取り組みである。従来は、消費者の状況を知るためには、大規模な調査を実施するなど労力と時間をかける必要があり、それにもかかわらず、断片的かつ一時点の断面を知ることにとどまっていた。しかし、現在は、社内外のデータを収集、統合、分析することで、消費者や顧客の購買行動や製品やサービスの利用状況、時には意識までも把握することができるようになりつつある。また、従来は消費者に対するコミュニケーションの方法はマスメディアと店頭での接点にほぼ限られていた。しかし現在は、マスを対象とするコミュニケーションに加えて、特定の行動をとる消費者など一定のターゲットを定めて、オンラインの広告や検索の活用、SNSでの消費者間のコミュニケーションを活用するなど、より対象を定め、タイミングを絞った適切な内容をもったコミュニケーションが可能である。

カスタマーとの関係をより丁寧に定義して事業活動に反映するカスタマーストラテジーの実現のためにデジタル化は必須なのである

これにより、本当の意味でのファクトベースの顧客のセグメンテーションや、ターゲティングが可能となる。また、自社のポジショニングが可能となる新規顧客が少ない一方で多数の競合との過当競争に陥っている市場において、デジタル化を進めることでロイヤル顧客になれる可能性のある顧客を特定して、既存顧客のリテンションとロイヤリティを向上させることができる。また、新規顧客が多く、マーケットの成長性に比して競合が少ない市場においても、デジタル化によって効率的に新規顧客を獲得することも可能となる。また、消費者にとっても、自分とは関係のない情報が大量に送りつけられる状態が解消され、関連性の高い情報が提供される。カスタマーとの関係をより丁寧に定義して事業活動に反映するカスタマーストラテジーの実現のためにデジタル化は必須なのである。

取り組みとしては、オンラインでのコミュニケ―ションという具体的な活動を上回って、顧客情報の統合管理への取り組みが進んでいることには深い示唆がある(図表9参照)。顧客データの統合はデジタル化の第一歩であり、また、社内に散逸する顧客データは一カ所に集めれば思うよりも多く社内にあることがわかる。


「顧客との関係」においてデジタル化を推進している企業のデジタル化の目的と取り組み


ここで注目したいのは、顧客との関係におけるデジタル化に取り組んでいる業種である。CDO調査(日本)においては、事業特性として情報が極めて重要な情報通信や金融業で進んでいるだけではなく、製造業でも積極的に取り組みを推進していることが分かった(図表10参照)。製造業がモノをつくる事業から、その価値を顧客に伝達し、新しい関係性を構築しようとする取り組みが表れている。もちろん、製造業が顧客、特に消費者との関係性においてデジタル化を推進することは容易ではない。過去に消費者との直接の接点をもつことはほとんどなかったため、そもそもデータを保有しておらず、また、消費者視点の意識もない。とはいえ、製造業でも先進企業はさまざまな工夫をこらして消費者のデータとコミュニケーションの手段を構築しようとしている。例えば、化粧品会社ではスマートフォンにアタッチメントを付すことで肌の水分量を計測しアプリケーションで管理する会員向けのサービス、自社の商品を使用したメイクの仕上がりをスマートフォンでバーチャルに確認できるサービス、その他、ポイントや値引き以外に消費者の求める情報などを提供することで会員化を積極的に進めている。従来の価格のみを打ち手とする顧客との関係性が変化しつつもある。


「顧客との関係」におけるデジタル化の推進-業種別の状況


2) 「SCM・製造」領域におけるデジタル化の推進-効率化の推進とサービス化

SCM・製造領域において、デジタル化の主要な目的はコスト削減、適正化、効率化である。デジタル化による省力化、自動化を進めることで、生産現場で深刻になりつつある人手不足への対応が可能となる。これらの目的のために、仕入れ先やサプライヤーとの連携における要件定義、電子化が進み、また、開発における部門横断的なデータ共有などの取り組みが進んでいる(図表11参照)。


「製造プロセス」においてデジタル化を推進している企業のデジタル化の目的と取り組み


ここで分かるように、SCMや製造現場にデジタル化が直接的にもたらす恩恵は、省力化のみであり、事業機会の拡大を直ちにもたらすケースは少ない。デジタル化による省力化が参入障壁の低減をもたらすとすると、一般的なモノづくりのみを行う製造業は、今後より大きな試練に直面するといえる。つまり、作るという行為が形式知化され、機械に組み込まれるようになると、よほどの特殊な製品を製造するのでない限り、製造機能の価値が低下し、マージンが確保しにくくなる。

そのような背景のもと、メーカー各社は、IoTの活用をはじめとするサービスビジネスの確立や、消費者との接点の強化など、下流への進出を急ぎ、従来からのモノづくりのみの事業構造からの脱却を目指している。ここで重要なのは、モノづくりだけを考えるのではなく、広い観点から顧客の困りごとの解消を目指すということである。自社の製品とその製造プロセスの飽くなき改善を続ける活動と、顧客の困りごとを自社の製品のみならず関連プレーヤーとの連携により解決していこうという活動は全く質の異なるものである。当然、新しい能力の獲得が必要となり、新しいビジネスの行い方を習得する必要があるが、デジタル化時代において引き続き意味のある立ち位置を確保し続けるためには、この変革を実現しきらなくてはならない。

重要なのは、モノづくりだけを考えるのではなく、広い観点から顧客の困りごとの解消を目指すということである

AIやロボティクスの時代は、日本の高度なモノづくりが必要になるため、日本に一大産業が生まれるという可能性も期待されている。新興国企業にはできないような技術を日本企業が開発できるかもしれないが、日本企業同士の同質的な消耗戦が継続するのでは、やはり利益なき繁忙に甘んじるのみである。つまりサービス化を伴う事業の構築力や、分析力、顧客や消費者への理解力の向上を自ら行わなければならないのである。

3) 「働き方改革」におけるデジタル化の推進

デジタルを起点とした働き方改革にも多くの企業が取り組んでいる。ここでは特に、従業員の生産性向上が取り組みの目的であり、そのための電子化と業務プロセスの明確化・削減が進められている(図表12参照)。一方、今後は、デジタルを活用した柔軟な勤務時間体制や、組織自体の出入りの柔軟化(中途採用の活性化、休業を取りやすくするなど)に取り組む必要性が高まってくると想定される。例えば、離れた場所で勤務していても、簡単にオンラインでテレビ電話のように相手の顔を見つつ、さらに、ファイルを同時に参照し更新して作業を行うことが可能になる。


「働き方」においてデジタル化を推進している企業のデジタル化の目的と取り組み


ここで目指すべきは、本質的な職場の柔軟性とその結果としての多様性の確保であり、デジタル化以前の課題が多く出てくる。例えば、アウトプットで働きを判定することができなければ、働いた時間を測る必要が残ってしまい、在宅勤務にしても常に監視するというような本末転倒な取り組みになりかねない。また、作業の最終的な目的の明確化と個々人の裁量、および裁量の範囲外との境界線の明確化がされていないことには、常に上長と確認をとらないと作業が進まない状態となるため、職場の柔軟性は創出できない。

デジタル化による省力化や効率化が進むことには総論賛成、各論反対に陥るケースも多いであろう。特に、長い間情熱を注ぎ改善も繰り返してきた作業が自動化されるとなると、強い反発が出る可能性もあろう。前例踏襲を重視していたような職場であれば、前例にないことを導入すること自体への反発も起こる。とはいえ、デジタル化による職場の変革はもはや止められないものである。従来型の人材を新しい人材へ変革するための努力は行いつつ、職場の変革は進めなくてはならない。デジタル化により、全員がオフィスで決まった時間働くという固定的な働き方が当然ではなくなる。この中にあって、組織のあり方、職場のあり方、組織の構成員のマインドと行動のあり方を見直すことができれば、デジタル化による働き方改革は大きく進展する。


5. CDOの肖像

経営陣の一員としてデジタル化を推進するCDOはどのような傾向を持っているのか。よりCDOの事例が蓄積されているグローバルのCDOを分析したCDO調査(グローバル)の2016年度版より紹介する。

冒頭に見たように、CDOは近年急速に浸透しつつある役職である。Strategy&のCDO調査(グローバル)にて確認した2016年7月1日現在、475名のCDOのうち60%が2015年以降に役職に就いた新しいCDOである(図表13参照)。


CDOの就任年


その出身は、マーケティング、営業が最も多いことに変わりはないが、2015年調査から2016年調査にかけて、54%から39%と大きくその割合を減らしている。代わりに増加しているのがテクノロジーのバックグラウンドを持つCDOであり、2015年の14%から32%へと増加している。業界別に見ても、従来直接消費者との接点を持ってこなかった業種も、マーケティングや営業出身のCDOの割合が多い(図表14、15参照)。多くの場合のデジタル化による変革の主眼がマーケティングやチャネルの課題の解決が求められることを、そして、今後その取り組みの全社的な展開に向けてテクノロジーの強化が求められていることを反映しているのかもしれない。


CDOの出身(全体)


CDOのある企業の割合とその出身内訳(業種別)


CDOは社内から就任することもあるが、海外ではむしろ社外からの招聘が半数近くにのぼる(図表16参照)。社外からのCDOの招聘は従来の常識にとらわれないスピード感をもった本質的なデジタル化の推進という意味では極めて有効である。一方で、外部からのCDOであるが故に、社内のインフォーマルなネットワークの構築が重要となり、CDOを招聘した企業の観点からは、いかにCDOをサポートし、力を発揮させる環境をつくるのかが重要となる。逆に、社内出身のCDOは、社内の環境が分かっているだけに変革を推進するためのツボを心得ている一方で、自社の変革のポイントや、世の中の水準などを、ネットワークを広げることにより積極的に吸収する必要がある。


CDOの出身 社内か社外か


最後に : CDOの未来

デジタル化とCDOについて、今後考えるべき課題を俯瞰してきたが、経営陣としての役割を自問してみていただきたい。

  • 経営陣はデジタル化の目的を明確にしているか
  • 経営陣はデジタル文化の醸成をしようとしているか
  • 経営陣はデジタル化に向けたリソースの確保と配分を適切に行っているか

その上で、以下にあてはまる場合などはCDOを置いた取り組みの推進を検討してみていただきたい。

  • 縦割り組織を打開する必要が高い場合
  • 現業から自由な立場からの推進が求められる場合
  • CEOがデジタル化の戦略の立案と実行に相応に時間を費やすことが難しい状況の場合

CDOは、デジタル化に向けた変革の一時期のみに必要とされ、将来的には消滅するべきポジションであり、その点においてCEO、COO、CFOなどとは異なる。調査のためにインタビューをしたCDO、あるいはデジタルを推進する役員は、一様に自身のポジションは永続的なものではない、永続的なものであってはならないとコメントしている。企業のデジタル化の変革が最も重要で最も困難なのは現在であり、ある程度の変革が完了すれば当該企業はデジタル化された企業となり、変革の担い手であるCDOは不要となる。

一方で、いつまでにデジタル化が完了するかという問いに対しては、最低でも5年はかかるという答えが多い。初年度は現状を把握し方向性を定め、ネットワークを構築する。翌年度は3年程度の取り組みのロードマップを立案し、推進を開始し、その後推進していく、というスケジュール感である。関係者のマインドや行動、業務自体の組み立て、プロセスなどをも含む本格的な変革を進めるのには短すぎるくらいの期間である。

アメリカと比べて日本のデジタル化はおよそ10年遅れていると言われる。日本より経験年数のある欧米の企業がようやくCDOを置き始めている状況である。つまり、日本企業は先行する欧米企業を見つつ、より早い進展が可能で、また、今後の事業環境を考えると、背中を見続けるだけではなくいつかは追い越すことも必要であるが、これも必ずしも容易ではない。デジタル化において先行する企業から、別の企業のデジタル化を担当することになった経営幹部は、前職の経験をもってすれば極めて速いスピードで取り組みが進むと思っていたところ、デジタル化後のイメージを社内に共有化し納得を得るところで想像以上に時間がかかっているとコメントしている。CDOは永続的なポジションではないとはいえ、仕事がなくなる日はそう早くは来ないかもしれない。


脚注

  1. CDO調査(グローバル)は、以下の手法により調査を実施。
    ブルームバーグのデータに基づく2016年7月1日現在で全世界の時価総額トップ2,500社のCDOの有無、バックグラウンドなどの分析(2015年までは1,500社を対象としていたものを拡大)。CDOの有無を調査するために、企業役員データベース(Avention、BoardEx)、記者発表(Factiva)、各社ホームページ、ビジネス向けSNS(LinkedIn、Xing)その他のインターネット調査を実施。
  2. CDO調査(日本)は、以下の手法により調査を実施。
    インターネット調査 : 従業員500人以上の企業の部長職以上2,423名を対象にスクリーニング調査、自社はデジタル化を推進しているとした、従業員500人以上の企業の部長職以上300名に対して本調査を実施。調査期間は2016年11月。
    インタビュー調査 : 特徴的なデジタル化の取り組みを行っている企業(10社程度)のデジタル化推進責任者に対するインタビュー調査。調査期間は2016年12月~2017年1月。

PDFファイル内の執筆者の所属・肩書きは、レポート執筆時のものです。

"Chief Digital Officer Study”, June 21, 2017。