S&P Globalにおける企業変革

数十年間、買収を続けてきた企業が、賢明な会社分割の判断を下せた理由は?-S&P Global(旧:McGraw-Hill Companies)は、金融情報とアナリティクスというコア・ケイパビリティに集中して利益率向上と成長を実現するために、教育事業を会社分割してオペレーティングモデルを改革し、企業価値を230億ドル増大させました。

燃え上がる足元

「初めてドアから中に入った時の私は、株主の不満がどれほど高まっているか完全には理解できていなかったと思う。創業125周年を迎え、金融危機にも耐えて、幅広い事業ポートフォリオを展開し、高いブランド知名度も築いてきた。この会社を改革するために、少しは時間があるだろうと思っていた。」

年商60億ドルのメディア・情報サービス事業者であるS&P Global(2013年以前はMcGraw-Hill Companies)に2010年終わり頃にCFOとして就任したジャック・キャラハン氏は語ります。

「しかし、瞬く間にプレッシャーは高まっていった。」と、キャラハン氏。「2011年第一四半期の利益公表日は、私の就任から数週間後のことだったが、あるセルサイドのアナリストが、今から思えば不吉な、こんな質問をしたのだ。『教育事業を売却することは検討しないのか?』と。教育部門全体を売却することを提案したのだ。それを聞いて初めて、この会社は大きな改革を、しかも速く、必要としていると直感した。」

2011年初め頃のMcGraw-Hill Companiesは、金融、メディア、教育などの分野で、多様な事業やブランドを傘下に持つコングロマリットでした。Standard & Poor’s、Capital IQ、Plattsは金融業界へと情報、アナリティクスのサービスを提供することに特化していました。次に、創業100年の歴史を持つMcGraw-Hill Educationは、教科書事業で有名でしたが、ソフトウェアとサービスの分野へと急速に軸足を移していました。両方とも情報事業でしたが、イノベーションや配信・流通に関して対照的な方針であり、全く異なる顧客層をターゲットとしていました。必然的に、「これら二つの事業を、同じ一つの会社で行うのは合理的ではないのではないか」という疑問が生じました。

そのような疑問を抱いたのは同社の幹部や取締役会だけではありませんでした。株主も、自らの意見を強く主張するようになっていました。実際、同社の幅広い事業ポートフォリオが持つ潜在的価値に目をつけたアクティビスト投資家達が、会社の株式を買い集めていたのです。そこに、世界金融危機の余波と規制強化の影響も重なり、McGraw-Hill Companiesは戦略的分岐点に直面していました。2011年9月12日、同社は、コアの金融情報事業から教育事業を分離して、より競争力の高いインフラとケイパビリティ、1億ドル以上低いコスト構造を持つ、それぞれの分野に特化した2つの独立した会社を設立する意図を公表しました。

ここから、真に困難な作業が始まったのです。

炎上するプラットフォーム

社名の源である事業を会社分割

キャラハン氏と同じく2011年にMcGraw-Hill Companiesに就任し、当時人事部長であったジョン・ベリスフォード氏は、当時を振り返って語ります。「我々は、会社分割が、既存の経営陣チームにとってどれほどのストレスを与えるものであるかを認識していた。彼らの多くは、勤続数十年の古株だ。リーダーにとって世界一辛いことは、自分が全人生をかけて築き上げてきた組織を自ら解体することだろう。実際、それを遂行できるリーダーはほとんどいないといっていい。」

 

上級管理職チームは Strategy&と協働して、実践的かつ秩序だった行動計画を策定しました。McGraw-Hill教育部門の会社分割は、次の3つの領域において同時進行で進めることが決定されました。1)コスト構造改革、2)分離と立ち上げ、3)オペレーションモデル改革。

 

「会社分割を、それもアクティビスト投資家による圧力にさらされている企業で行うにあたり最大の困難の一つが、新会社を分離して立ち上げつつ、コスト削減も同時進行で行うことだ。」とキャラハン氏は言う。「多くの企業が、無駄なコストの削減は分割後まで待とうとする。しかし我々は、そのような見解は取らなかった。『分割と同時にコスト削減も行う』と決断したのだ。」

「このことは、教育部門に関して特に重要だった。売却またはスピンオフ(独立会社に)するのなら、収益性の面で魅力ある会社に変える必要があった。コスト削減を行うことで、企業価値があがって高値での売却が可能となり、株主へのリターンを高めることにつながるからだ。」

ベリスフォード氏も付け加えます。「コングロマリットと聞けば、一般的に低コスト構造が確立されていると想像するかもしれない。しかし当社の場合、あらゆるものを互いに繋ぐという目的のためだけに、非常に多くの社内インフラが存在した。格付け会社と教育事業を統合するためだけに使っていた全ての経費は、企業価値にとってマイナスの支出となっていたのだ。」

経営陣は、新たに設立する教育事業会社(Education)のために、独立したバックオフィスを切り離して準備することには時間も、多大なコストもかかるであろうとの結論を短時間で出しました。その代わり、ニュージャージー州南部にある老朽化して広大な敷地に広がるシェアードサービスのセンターを閉鎖し、両方の事業に関して財務・人事・ITなどの事務機能は外注でまかなうことを決定しました。このような外注依存度の高いモデルに変えたことによって2つの事業の分離が容易となった上、2つの小さな会社の設立による規模経済上のマイナス面を相殺し、コストを変動費用化できるという利点もありました。

 

さらなるコスト削減は、会社にとっての残りのコア事業を再調整し適切な規模にすることで達成されました。「我々は、教育以外の事業について、過剰かつ重複した機能を持っていた。」とベリスフォードは語ります。「我々はそれを『マトリョーシカ症候群』と呼びました。企業コストの内部に、セグメント別のコストがあり、次にサブセグメントのコスト、製品コスト、その他が内包されていた。」
これらの不要な重複したコストを合理化した後で、グローバルなセンター・オブ・エクセレンスが設立され、拡張性があり標準化された、専門家で構成され、財務計画策定、会計、人材獲得、アナリティクスなどの機能を含む財務・人事のサービスが提供されました。

 

これらの改革で全体として年間1億7500万ドルの削減効果が達成されました。この削減効果は本来の目標の二倍であり、営業利益率も1年強の間に28%から34%に改善しました。

 

2012年11月、Apollo Global Management 社がMcGraw-Hill Educationを25億ドルで買収することに合意しました。同社は2012年12月に特別配当を出すことを発表。リターンに満足したアクティビスト投資家達は株を売却しました。 McGraw-Hill Companiesの経営陣は、教育部門を会社分割することは、通常ならば長年かかって再構築しなければできなかった改革を、短期間で一気に実現するまたとない機会であることを認識していました。特にベリスフォード氏とキャラハン氏は、お互いの個人的に緊密な協働関係を活かして財務上の目標と人事面での目標を統合し、より重要なインサイトを発掘するとともに、会社の劇的改革のために最適な進路を特定しました。

 

S&P Global ( 2013年以前はMcGraw Hill Financial) の新たなオペレーティングモデルは、旧式で非効率なコングロマリット構造から脱却することに成功しました。根本的な構造的・文化的改革を経て、筋肉質(リーン)で、焦点が明確に定まり、目的整合性の高いオペレーティングモデルと合理化された機能部門を持ち、敏捷で結果責任が明確に定められた企業へと変容しました。

社名の源である事業を会社分割

Strategy&に依頼した理由

ジャック・キャラハン氏は、2011年から2016年第一四半期までS&P Global(2013年以前はMcGraw-Hill Companies )の最高財務責任者(CFO)でした。現在は、イエール大学オペレーション部門の上級副社長(SVP)を務めています。

 

ジョン・ベリスフォード氏は、2011年から2016年までS&P Global(2013年以前はMcGraw-Hill Companies )の最高人事責任者でした。現在は、同社の旗艦事業であるS&P Global Ratingsの社長(President)を務めています。

ジョン・ベリスフォード氏

「Strategy& は、このプロジェクトの責任者であるシニアパートナーを中心とするチームで現れた。パートナークラスが一緒に取り組んでくれれば、当社のチームと一体となって協働してくれると確信できた。私にとって、このことは大きな決め手となった。 戦略コンサルティング会社なら、どこでもすべてそうしたわけではない。単に当社を担当している、面識があるというだけのチームから誰かを連れてくる場合もある。Strategy& は、我々自身が希望したような適材適所の人材を連れてきてくれた。そして、我々がどのような施策を行うべきかについて、彼らの見解をまずは説明してくれた。」

ジャック・キャラハン氏

「Strategy& チームは、当社の事例に対して、理論に固執することなく、より実践的なアプローチで取り組んだ。他社は『当社こそが、この種の案件を得意としています!」と宣言するばかりだったが、Strategy&のチームは我々と組んで問題の最前線へと切り込み、真に実践的な課題と、それらを解決する方法について議論を開始した。
そしてもう一つ重要な点が、彼らは実行したということだ。それは当然のことに思えるだろうが、そうでもないのだ。Strategy&は、必要に応じて拡大・縮小するフレキシブルなチーム体制で臨んでくれた。」

ジョン・ベリスフォード氏

「Strategy& は、人材、社会的課題、オペレーティングモデル上の課題があると提示したが、それは独自の視点であった。そのことをとても鮮明に覚えている。彼らは、適切な青写真を描くだけでは十分ではない、と断言した。そこで我々は、オペレーティングモデル上の課題の検討へと速やかに移った。なぜなら、より低いコスト構造で、残りの事業を運営しなければならなかったからだ。」

Strategy&に依頼した理由

A practical approach to business transformation

Amazon.comで1位(Production and Operations分野)を獲得した原著「Fit for Growth-A practical approach to business transformation」の邦訳版が登場

新刊『成長への企業変革―ケイパビリティに基づくコスト削減と経営資源の最適化』

ダイヤモンド社より、2017年11月22日発刊

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クライアント事例: Fit for Growthを導入した実例

コナグラ (Conagra) : 戦略的な抜本改革
コナグラ・ブランズは、徹底した企業改革により、年商80億ドルの「純粋に本業のみに絞り込んだ(pure-play)」ブランド消費財製造企業となりました。以前よりはるかに焦点の合った、より強力な成長志向の伴うケイパビリティ(組織能力)、敏捷な組織、凡庸な結果に満足せず挑戦を続ける文化を備えた企業へと生まれ変わりました。